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日本全国鐵輪巡礼 ~駅夫と羅針の珍道中~  作者: 劉白雨
第拾弐話 静和駅 (栃木県)
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拾弐之弐


 峰吉川駅を出た、旅寝駅夫と星路羅針、平櫻佳音の三人を乗せた列車は三線軌条の線路を通って、今回の目的地だった刈和野駅に停まり、次の目的地である静和しずわ駅に向けて改めてスタートを切った。

 三人はそれぞれ車窓に広がる田園風景を眺めながら、この刈和野で散策した時間を噛みしめ、次の静和に思いを馳せていた。


 列車が刈和野駅を出ると、駅夫はネタバレを嫌い、羅針と平櫻の話には耳を塞いで、前面車窓に集中していた。

 そんな駅夫にできるだけ聞こえないように、羅針と平櫻は静和での予定を小声で確認し合っていた。


 列車はモーターを唸らせて、三線軌条をひたすら大曲へと向けて走り続けていた。

 神宮寺じんぐうじ駅を出て、三線軌条が解消され、狭軌と標準軌に分離されると、列車は玉川を越える長い橋梁を渡り、国道13号線の陸橋を潜って、新幹線の乗換駅である大曲駅に滑り込んだ。


 駅夫は満足げに二人を振り返り、先に降りると羅針に目で合図する。

 羅針は了解と目で合図を返し、平櫻を促して他の乗客に続いて降車する。

 今日の大曲駅は良く晴れていて、熱を持った陽射しが容赦なく差し込んでいた。とはいえ、都内の殺人的な陽射しに比べたらまだ生温なまぬるい方で、車外に出てみて初めて列車内に空調が効いていたことを実感するぐらいだった。額に汗が浮き出る程度の不快感はあるものの、耐えられない程ではなかった。


 秋田おばこ節が構内に鳴り響くと、列車は院内いんない駅に向けて出発していき、三人はそれを見送った。

 大曲駅での乗り換え時間は50分近くあり、三人はひとまず改札を出て駅前を散策することにした。とはいっても、どこかへ行くには少し時間が足らないため、駅前のロータリーで記念撮影をするぐらいしかないのだが。それでも良いと言うことで、跨線橋を渡り三人は改札口を出た。

 改札口正面には、大仙市観光情報センターがあったが、今日は用事がないのでスルーして、西口に出る大階段を三人は降りた。


 ちなみに、大曲駅は現在、奥羽本線と田沢湖線、そして秋田新幹線が乗り入れる交通の要衝として発展しているが、その始まりは1904年12月の国鉄奥羽北線の終着駅としての開業であった。その翌年6月には奥羽北線が横手駅迄延伸されたために途中駅となり、1921年には、田沢湖線の前身である生保内おぼない軽便線けいべんせんが開通し、現在の原型が出来上がった。

 その後、歴史が下るにつれ駅舎の改築などを経て、1997年3月に秋田新幹線が乗り入れを開始し、大曲が花火の街として認知が広がり、国内外から多くの観光客が押し寄せるようになり、名実ともに秋田の重要な拠点駅となったのである。


 そんな花火の街の玄関口である大曲駅の西口を出てきた三人は、それぞれ駅舎をバックに記念写真を撮り合った。

 駅入り口脇にある〔全国花火競技大会 大曲の花火 ようこそ花火のまち 大仙市へ〕と書かれた巨大な花火のオブジェの前でも、駅夫と平櫻がそれぞれ自撮り棒を使って、三人一緒の記念撮影をした。

 三人は各々が思い思いに動画や写真を撮影して廻った。


 結局、新幹線に乗り遅れる心配から駅を離れられず、駅前ロータリーをぐるっと一周しただけの三人は、駅前のコンビニで昼食用の駅弁を物色する。

 専門店程は種類がないが、それでも秋田の名物である比内地鶏の鶏飯、焼き鯖寿司、そしてこまちの名を冠した御重などがいくつか陳列されていた。


「どうする。仙台でも時間はあるから、無理にここで買う必要はないけど。」

 どれを選ぶか悩んでいる駅夫に対し、羅針が声を掛ける。

「そうなんだけど、地元のものって思うと鶏飯一択なんだけど、他も捨てがたくてさ。」

 腕を組んで考え込んでいた駅夫が応える。

「なんだ、選択肢がなくて悩んでるのかと思ったら、逆か。それなら全部買えば良いじゃん。平櫻さんみたいに。」

 羅針の言葉を聞いて、平櫻を見た駅夫は驚いたように目を見開く。そこには、棚にあった駅弁を一通りカゴに入れている平櫻がいた。

「それ全部食べるの?」

 駅夫は信じられないといったように聞く。

「ええ。どれも美味しそうですし。食べきれなかったら夜食にでもしようかなと思って。」

 そう応える平櫻が持つカゴの中には五種類の駅弁が入っていた。どうやら刈和野の食堂で見せた大飯喰らいは伊達ではなかったようだ。

「お前も真似したら良いよ。」

 そう言って羅針は駅夫をけしかける。

「いや、いくらなんでもそれは無理だから。……ええい、分かったよこれとこれにする。」

 駅夫は、破れかぶれか自暴自棄か、はたまた乾坤一擲けんこんいってきか、比内地鶏の鶏飯と焼き鯖寿司をカゴに入れた。そして平櫻に向かって「他のは後で感想を聞かせてね。」と注文を付けた。

「分かりました。私の感想で良ければ。」

 そう言って平櫻はクスリと笑った。


 三人はそれぞれ思い思いに昼食を調達し、飲料コーナーからお茶を取り出してカゴに入れた。会計を済ませると、三人は駅に戻り、新幹線ホームへと向かう。

 2番ホームから乗換え改札口を通って新幹線ホームの頭端部に出る。秋田新幹線はここ大曲駅で進行方向を変えるスイッチバックをおこなうため、頭端式ホームになっている。そのためホーム上には乗車する列車を間違えないようにと、注意喚起が其処此処に掲げられていた。

 三人は予約してある16号車の乗車位置案内に並んだ。他の乗車位置にはチラホラと乗客が並んでいたが、16号車には三人の他に並ぶ人はいなかった。


 やがてホームに男性の自動音声で秋田行き新幹線到着がアナウンスされると、田沢湖線から赤と白のツートンカラーのE6系こまち1号が12番線ホームに入線してきた。

 そのおよそ2分後に今度は女性の自動音声で東京行き新幹線到着のアナウンスが流れ、奥羽本線からこまち16号が11番線ホームに入線してきた。

 ホームには頻りに男性駅員の声で乗り間違えないようにとの注意喚起がおこなわれ、先程まで静かだった駅構内が、途端に賑やかになった。


 11番線側に到着したこまち16号が乗降口の扉を開けると、三人は順番に乗り込んだ。三人が予約した席は5列目のAとB、それとDである。Cを空けたのは、平櫻が窓際の席を望んだためで、彼女を遠ざけるためではもちろんない。


 三人が列車に乗り込むと、先に秋田行きのこまち1号が12番線から出発し、その2分後に三人が乗るこまち16号が東京へ向けて出発した。

 大曲駅を出た列車はゆっくりと右カーブを描きながら田沢湖線へと入っていく。一昨日来た時は曇り空の下で遠くの山々が霞んでいて、あまり景色を楽しめなかったが、今日は良く晴れていて、新緑が芽吹く山々が遠くまで良く見渡せた。


 田沢湖線に入った列車は田園地帯を駆け抜けてきたが、田沢湖駅を出るとすぐに山間部へと入っていく。生保内川おぼないがわの渓谷美を見ながら標高を上げていき、岩手との県境を跨ぐ3915mの仙岩せんがんトンネルを潜り抜けると、岩手県に入り、再び田園風景が広がる。


「ほら、今日は岩手山がはっきり見える。平櫻さんもほら。」

 駅夫がそう言って、車窓に見えてきた岩手富士とも呼ばれる標高2038mの岩手山に視線をやる。

 呼ばれた平櫻がカメラを持って席を移動して来たので、羅針が席を立って譲る。

「あっ、ありがとうございます。」

 平櫻は礼を言って、羅針の席に座り、車窓の向こうに見える岩手山を動画に収めていく。


 車窓の向こうに鎮座する岩手山は、一昨日とは違って陽光をたっぷり浴びて、その全容を三人に見せ付けていた。今日は裾野に広がる緑が濃く、山頂付近の岩石はくっきりとその美しい容貌を見せ、光り輝いていた。


「きれい。」

 平櫻が思わず声を漏らす。

「ああ。」

 駅夫は言葉がない。

「確かに。」

 二人の頭越しに岩手山を望む羅針にも、言葉はなかった。


 岩手山がビルの影に隠れて見えなくなると、平櫻は二人に礼を言って自分の席に戻った。

 車内には盛岡到着の自動放送が流れた後、車掌の声で乗換え案内の詳細と、はやぶさと連結するために揺れる旨の注意喚起がなされた。

「また、併結が見られないのか。」

 羅針が残念そうに漏らす。

「また言ってるよ。」

 駅夫が呆れたように言う。

「一度はこの目で見たいですよね。」

 二人の会話を聞いていた平櫻が口を挟む。

「ですよね。」

 ほら見ろとばかりに、羅針は駅夫を見る。

「ただの列車連結だろ。そんなに見たいもんかね。」

 駅夫がすべての鉄道ファンを敵に回すようなことを言う。

「お前、その発言は生命いのちを危険に晒すぞ。」

 羅針が芝居がかった声で駅夫を脅す。

「まぁた、大袈裟な。」駅夫は羅針の言葉を一蹴しようとして、平櫻がその向こうで頷いているのを見て、事の重大さに気付いたようだ。駅夫の顔からスッと血の気が引いて、目はまるで飛び出しそうなほどに開き、口が半開きのまま言葉を失っていた。その表情はまさに驚愕そのもので、「……ってマジで。」と呟いた。

 羅針と平櫻は駅夫の余りに情けない表情を見て、吹き出してしまった。


「お前ら、グルだったのか。」

 駅夫はホッとしたような表情を浮かべながらも、声は怒っていた。

「まあ、生命の危機はともかく、敵に回したのは確かだからな。」

 そう言って、羅針は平櫻のナイスアシストにサムズアップを送った。

「平櫻さんまで、ひどいよ。信じちゃったじゃん。」

 駅夫は恨みがましい声で言う。

「ごめんなさい。でも、鉄道好きの私としてもちょっと看過出来ない台詞でしたから。」

 そう言って平櫻はにこりと笑う。

「その笑顔が怖いよ。でも俺が悪かった。ごめんな。」

 駅夫は苦笑いをしつつも、自分の発言に対し謝った。


 三人がそんな冗談を遣り取りしているうちに、列車は盛岡を出発した。

 はやぶさと併結したこまちは水を得た魚のように、トップスピードの320㎞/hまでどんどん速度を上げていき、田園地帯の中を爆走していく。

 三人は再びそれぞれの時間を過ごしていた。羅針はタブレットで小説を読み、駅夫は車窓を眺め、平櫻はノーパソで動画の編集をしながら、時折車窓を流れていく風景を眺めていた。


 全長9,730mの一ノ関トンネルを潜り抜け、3,870mで日本一の鉄道橋である第一北上橋梁を渡ると、トンネルが続く区間へと入っていく。

 すると大人しく外を眺めていた駅夫が、羅針に話しかける。

「なあ羅針、俺たちそろそろこのルーレット旅始めてから一ヶ月が経とうとしてるじゃん。」

「ああ。」

「それでさ、一ヶ月を目処に、一週間ぐらい一旦休憩を取らないか。」

「それは構わないけど、どうしてまたそう思ったんだ。」

「ほらこの前一旦部屋に戻ったじゃん、その時思ったんだよね。部屋の空気は淀んでるし、埃は溜まってるしさ。」

「なるほど。確かに部屋の埃は気になったな。さっと雑巾掛けはしてきたけど、窓開けないとこれから梅雨の時期は黴も怖いしな。良いよ。但し、平櫻さんの了解を取ってからな。」

「ああ、分かった。俺から確認しようか。」

「いや、良いよ俺から確認するよ。……平櫻さん。実は……」

 そう言って、羅針はイヤホンを付けて動画の編集をしていた平櫻に声を掛ける。駅夫の話を繰り返し、どうするか確認を取った。


「それでしたら、私もそれまでご一緒させていただきます。実は〔北海道&東日本パス〕を使って北海道を一周する予定でして。それまではと思ってたんですよね。」

 平櫻が空気を読んだのか、それとも元々その予定だったのか、そんなことを言い出す。

「へぇ、北海道へ行くんだ。良いねぇ。俺はまだ行ったことないんだよな。」

 駅夫が羨ましそうに言う。

「嘘言うなよ。函館だけだけど行ったぞ。お前は、函館が北海道じゃないって言いたいのか?」


 駅夫とは学生時代に一度東北三大祭りの竿灯祭り、ねぶた祭、仙台七夕祭りを廻った時に、当時廃止になる予定だった青函連絡船に乗るために、函館に渡ったのだ。羅針はそのことを言っているのだが、30年も前の話である、駅夫は覚えていなかったようだ。


「いや、函館は歴とした北海道だよ。そんなこと俺でも知ってるよ。でも、函館なんて行った覚えないし、……って、あれ、もしかして青函連絡船に乗った時の話をしてるのか?」

 どうやら、駅夫は思い出したようだ。

「そうだよ。廃止になるからって、乗っただろ。船の上から家に電話掛けて、公衆電話がフェリーから使えたって、大騒ぎまでしてたくせに、忘れたとか。俺は悲しいよ。」

 羅針はそう言って、涙を拭うフリをする。

「悪かったって。ほら、涙を拭けよ。」

 駅夫はイケメンボイスでハンカチを取り出すフリをする。

「お前に、ハンカチ差し出されてもうれしかねぇよ。」

 羅針は思わず吹き出してしまった。

「でも、あれが北海道初上陸だったのか。確か夜中に着いて、タクシーで函館山行って夜景見て、煉瓦倉庫とか廻って貰ったんだよな。その後、五稜郭も行ってさ。ラジオ体操してたおじさんたちに囲まれた。」

 駅夫が当時のことを思い返して語った。

「そうそう。あれにはビビったよな。根掘り葉掘り色々聞かれてさ、函館のお勧めも色々教えて貰って。でも、金もないから市場で海鮮丼食べただけで、結局殆ど廻れなかったんだよな。」

「懐かしいなぁ。また行きたいな。」

「ああ。済みません話がそれました。」

 平櫻の視線に気付いた羅針が、平櫻に話を戻す。

「いいえ。青函連絡船に乗られたんですね。羨ましいです。私が生まれた年に廃止になってるはずなので、乗りたくても乗れなかったんですよ。」

 平櫻が羨ましそうに言う。

「ええ、マジで。そういうの聞くと、年齢差をまざまざと実感出来るな。」

 駅夫が驚いたように言う。


 その後三人は仙台に着くまでの間、今後の日程を確認し、結局二週間のインターバルを取ることにした。


 列車が仙台駅に近づくと、車窓にはビル群が現れ、東北最大の都市が目の前に広がった。車内は降車準備をする人で慌ただしくなり、三人も乗換えのために降車準備を始めた。降車口には降車客の列が出来ていた。


「御乗車ありがとうございました。仙台に到着です。お忘れ物、落とし物ございませんようご注意ください。」

 列車が仙台駅に到着し、扉が開くと同時に、駅員の声がホームに響き渡る。


 仙台駅は東北最大の都市、宮城県の県庁所在地でもある仙台市に鎮座する駅である。

 JRの他にも仙台市交通局の地下鉄が乗り入れており、仙台市の玄関口として国内外にその名を轟かせていた。

 JRが新幹線を含めて4路線、地下鉄が2路線乗り入れをしており、更に、JR在来線に関しては東北本線を介して5路線が乗り入れをしていて、まさに交通の要衝としての役目を担っている。

 1日平均乗車人員はJR在来線が約9万人、新幹線が約2万5千人、地下鉄が約5万5千人で、数字からも巨大な駅であることが窺える。


「どうする。駅ナカを少しぶらつくか。」

 ホームに降りたってから羅針が駅夫に聞く。

「良いね。平櫻さんも行くでしょ。」

 駅夫が羅針に同意し、平櫻も誘う。

「ええ。ご一緒させてください。」

 平櫻も同意する。

 三人はエスカレーターで階下に降り、お土産物屋や駅弁屋が並ぶコンコースをブラブラする。駅夫と羅針がああだこうだ言い合いながら店を物色しているその後ろで、平櫻は相変わらず動画を撮影していた。


 コンコースには大きなトランクを引き摺っている中国人のグループや、巨大なバックパックを背負った西洋人のグループが、出張のビジネスパーソンや日本人旅行者の流れに翻弄されながら、自分たちの行きたい場所をスマホと駅の案内板を見比べながら調べていた。


 三人も、人の流れを掻き分けながら、店を見て廻った。お土産物屋、駅弁屋、喫茶店、本屋、そして牛タン専門店にコンビニと、一通り揃っているので、取り敢えず欲しいものは見つかる()()()である。


 一通り廻った三人は、11時50分にエスカレーター下に集合の約束をし、それぞれ行きたい場所へと散らばった。

 駅夫はまず牛タン専門店に向かった。品揃えはもちろん牛タンだけだが、牛タンのシチューやカレー、テールスープに南蛮漬けまで置いてあった。

 駅夫は、その中から詰め合わせを選んで実家へ直送して貰った。


 羅針は駅弁屋へ行き、牛タン弁当を購入した。大曲駅では結局こまちの名を冠した御重だけにしたので、それだけじゃ足りないと思っていたし、折角仙台に来たなら牛タンは食べたいと思い、購入したのだ。

 駅弁屋を出ると、牛タン専門店から出てきた駅夫が声を掛けてきた。

「何買ったんだ。」

「牛タン弁当だよ。」

「お前は。」

「ああ、そこの牛タン専門店で、詰め合わせを実家に送っておいた。」

「マジ。それ、俺も送らないと、後で何言われるか分からないな。」

「一応一番良いヤツ送ったから。」

「マジかよ。了解。じゃ、俺も送ってくるわ。」

 そう言って羅針は牛タン専門店へ、駅夫は土産物屋へとそれぞれ別れた。


 平櫻は土産物屋にいた。

 仙台土産と言えば、萩の月、ずんだ餅、そして牛タンと言ったところだろうが、その他にも銘菓や名産品、特産品が勢揃いしており、平櫻は目移りしてしまう。

 ゆべしや笹かま、ホヤなどの名産品や、玉虫塗たまむしぬり仙台張子せんだいはりこ仙台平せんだいひらなどの工芸品、その他にも趣向を凝らした商品が並び、見ているだけで楽しいと平櫻は一つ一つの商品を吟味するように見ていた。

 そこへ、駅夫が店員のように声を掛ける。

「何かお探しですか。」

「いえ、特にこれといったものは。……って旅寝さんじゃないですか。もう、ビックリさせないでください。」

 応えながら振り返った平櫻は、駅夫と気付いて笑いながら詰る。

「ごめん、ごめん。余りに真剣な目つきで見てたからさ。」

 そういって駅夫は謝りながらも、笑っていた。

「もう。……ところで、旅寝さんは何か買われたんですか。」

「ああ、そこの牛タン専門店で親に牛タンの詰め合わせを送ったよ。あと、羅針が牛タン弁当買ったって言ってたから、自分もこの後買おうと思ってる。」

「そうなんですね。ご両親に贈り物なんて良いですね。私も送ろうかな。」

「ああ、良いと思うよ。牛タンカレーとかシチューなんかもあったから、喜ばれるんじゃないかな。」

「そうですね。ありがとうございます。じゃ、ちょっと買いに行ってきます。」

 そう言って平櫻は牛タン専門店へと向かい、駅夫は駅弁屋へと足を向けた。


 こうして三人はそれぞれ思い思いの買い物を済ませ、エスカレーター下に集合し、14番線の新幹線ホームへと上がっていった。



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