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星の精霊は今日も世界を眺める  作者: 月影水脈(つきかげみお)
第1章 時の神と精霊
3/6

第2話 偽りの家族はそれでも美しい

約4000文字朗読時間は15~20分目安です

朗読〇そのほかモラルに反することでなければ基本的に自由に使っていただいて構いません。

少しでも多くの人に朗読されることをねがって。


 2万4520年:惑星(わくせい)『アトラス』

 

 ()の森と呼ばれる巨大な森林がこの世界には存在している。ゴブリンやオーク、デーモンといった「魔族」がその森を支配し、巨大な洞窟(どうくつ)にはドラゴンが眠っている。森の中心には魔王(まおう)(ひそ)んでいるだとか2万年住むエンシェントドラゴンが巣を作っているだとか言われているが、真相(しんそう)は不明である。

 その森から馬車で1ヶ月。あるひとつの国家が存在した。

 

『テステド王国』

 

 中心にそびえ立つ巨大な宮殿(きゅうでん)から聖都(せいと)と呼ばれ、多くの商人(しょうにん)冒険者(ぼうけんしゃ)、観光客が訪れる『アトラス』最大の貿易国家である。

 そして、三重の城壁(じょうへき)の1番外側。平民が多く暮らす居住区。そこにアリスという少女がいた。


 彼女は一日のほとんどを図書館で過ごすほどのいわゆる本の虫だった。ある日、彼女は1冊の小説に出会った。それは、永遠(えいえん)に終わらない冒険譚(ぼうけんたん)


 彼女には家族がいなかった。


 彼女は孤独(こどく)だった。


 彼女は魔法(まほう)が苦手だった。


 彼女には家がなかった


 とある少女の物語である。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 『アスタルトの冒険(ぼうけん)』気が付くと一週間、この小説を読み続けていた。物語のストーリーは私にとって最高なものだ。勇者「アスタルト」国王から魔王討伐(まおうとうばつ)を命じられた彼は仲間と協力し()の森の中心、魔王城(まおうじょう)に足を()み入れる。そんな物語なのだが……。

 読み進めれば読み進めるほど、(なぞ)は深まり、永遠に解決しない。主人公は何者なのか。何故、魔王討伐後、誰も近寄(ちかよ)らないその中心で、何万年もひっそりと暮らしているのか。何度読んでも理解ができない。


 その日。彼女は一通の手紙を書いた。終着点(しゅうちゃくてん)のないこの物語の結末を知るために。

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 図書館司書(ししょ)として働くエイベルはどこか落ち着かない様子で入口を何度も往復(おうふく)していた。この図書館に毎日通っていた少女が急に足を(はこ)ばなく無くなってから彼女はずっとこの調子だ。

 

「今日も来ませんね」

「ふっ。そんなにあいつのこと気になるなら見に行ってこいよ」


同じく図書館司書(ししょ)のルークは(あき)れたとばかりにため息をつく。そんな彼の言葉に一瞬戸惑(とまど)うような表情を見せたが、やっぱりダメだと言い聞かせ首を激しく横に振る。

 

「今は業務中だし……けど、あの子に何かあると思うと……」

「おまえ、めんどくさいやつだな……」

「なんか言った??」

「うおー。怖い怖い」

「思ってないでしょ。それ」


 正直、ルークも気にはなっていた。3歳の頃から毎日、この図書館でその姿を見ていたのだ。そんな『本の虫』である少女の姿をもう何ヶ月と図書館に訪れていない。

 最初は本を全て読んでしまったのかと思った。新しい本を発注(はっちゅう)し、分かりやすく『新刊(しんかん)大量入荷』という立て札を店の前に立てたりしたが「気になっていたあの小説の続編(ぞくへん)が出たかもしれない」と図書館に問い合わせてくる一部の小説のファンか、子持ちの親ばかりが増え、肝心(かんじん)の彼女がこの図書館に足を()み入れることは無かった。


 そして、それから数年の月日が流れた。

 時間の流れというものは人を風化(ふうか)させる。姿も、形も、記憶でさえも劣化(れっか)していく。

 

 彼女のことを覚えていものは。もう誰もいない。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「なかなか(なつ)かしい物語を(のぞ)いておるではないか、星の精霊よ」


不意(ふい)に背後から聞こえた声。だが(おどろ)かなかった。

 きっとこの人なら来るだろう。そう確信していたからだ。

 

「時の神、アルテナ……」

 

 私の問いに答えたのか。彼は体ごと私の方に向け、微笑(ほほえ)む。(にら)みつける私。数刻(すうこく)がすぎただろうか。

 突然彼が嘲笑(あざわら)うかのような笑みを浮かべ、再び背中を向けた。


「お主の言いたいことは分かっておる」

「…………」

「じゃが。こうするしか無かった」


 『アスタルトの冒険』これは約50億年前物語だ。そして、その物語を読んでしまった彼女も……。


「魔の森。(なつ)かしい(ひび)きじゃ」

「かつてあの森は、魔王が支配していました。それがなぜか倒され、そしてその代償で1人の回復薬(プリースト)が死を()げた…………。」


 そう、これは50億年前、私たちが作った偽物(いつわり)のシナリオだ。


「…………。」

「…………。」


 私の問に答えるかのように杖を3回鳴らすと、部屋の真ん中にぶら下がる青色のペンダントライトに目を向ける。


「私は神として3兆年は生きてきた。まあ、お主よりは短いがな」

「…………」

「これは私にとって最大の失敗じゃった。50億年にも及ぶ天界(てんかい)戦争の最中(さなか)、私は1本の武器を宇宙空間に落としてしまった」


 そう言って(こし)から1本の件を抜き取る。黒色の刀身(とうしん)錆付き(さびつ)き、所々(ところどころ)欠けている。

 どこから見ても(こわ)れた剣だが、実際(じっさい)は違う。

 この剣は、剣として生まれたその日からずっと、このボロボロの状態なのだ。

  

漆黒(しっこく)の魔剣オニキス……」


 ボソリと(つぶや)く私に彼は相槌(あいづち)を打つ。『漆黒(しっこく)の魔剣オニキス』私たち精霊を除いて手に()れることができるのは『時の神』ただ1人。重くはない。誰でも持ち上げられるし、魔剣と知らなければ今頃(いまごろ)溶かされて、ただの剣に生まれ変えられているだろう。

 

「能力は『腐食(ふしょく)』」

 私の言葉に(おどろ)いたかのように彼は目を丸くさせた。


「知っておったか。そうじゃ。この剣の能力は『腐食(ふしょく)』触れたが最後全ての(ことわ)りを無視し、ありとあらゆる物質を腐食(ふしょく)させる」

残されたエネルギーは全てこの魔剣に(たくわ)えられ、少しずつ刀身を修復(しゅうふく)する。つまり、戦えば戦うほど強度が()し、その力を得る。


 肉体と時の影響(えいきょう)を受けない精霊と時の神のみ持つことが許された剣。それも当然だ。(さや)を持ったその瞬間から、腐食(ふしょく)は始まっているのだから。


「誰にもバレることなく、回収されるはずだった。当然じゃ。たとえ誰かが見つけようとも、触れれば灰となり死を(むか)えるはずじゃからの」

どこか(なつ)かしそうに魔剣を見つめ、刀身を優しく()でる。

 

「これも天命(うんめい)なのか、はたまた偶然(ぐうぜん)なのかはワシにも分からぬ。宇宙空間に彷徨うこの剣を拾ったのは、精霊使いの少年じゃった。『精霊の寵愛(ちょうあい)』というイカれた能力を駆使(くし)して武器を(あやつ)り、魔王として世界に君臨(くんりん)した」

 

本来人間が得ることが出来るはずのないユニークスキル。肉体を精霊で(まと)っている彼に腐食(ふしょく)の能力は通用しなかった。しかし、精神的な部分までは守ることが出来ない。徐々(じょじょ)に彼の心は欠落(けつらく)し、(くさ)っていく。人の心を失った災厄(さいやく)の魔王として君臨(くんりん)するのに、そう時間はかからなかった。

 圧倒的(あっとうてき)な力で世界を掌握(しょうあく)し、たった1ヶ月で『魔の森』の支配者(あるじ)として君臨(くんりん)した。


「自分のミスで起こした問題は自分で解決せねばならぬ。しかし。既に我々の手の出せる領域(りょういき)を超えていた。星の精霊よ。お主の剣は強かった」

「当たり前です。そんな安っぽい剣に負けるわけがないじゃないですか」

「それもそうか。これでも神の中では最強の剣と言われておるのだがな。精霊とはそれほどまで強いのか」


 『時の神が魔剣を宇宙空間に捨てた』

 その(うわさ)(またた)く間に天界に広がった。戦争は中断(ちゅうだん)。時の神としての教育を行っていた私の眷属(けんぞく)にも(ばつ)を与えるべきだと暴動(ぼうどう)が起きてるほどだった。魔剣を目的外で天界から持ち出すことは『天界規定』により禁じられたものだったからだ。


「私の眷属(けんぞく)が涙目で私の元に訪れたんですよ。「どうにかしてくれ」って。あんな必死な姿、初めて見ましたよ」

迷惑(めいわく)をかけたな。改めて礼を言うぞ」

「はぁ。別にいいんですよ」

 

 私のしたことといえば、魔剣よりも強い『精霊剣』を適当な人間に渡して勇者としてあの世界に送り込んだだけだ。そもそもあの武器自体が強すぎて、5歳でも魔王に勝てるだろう。

 後から『アルテナ』のやつに説明するのが面倒(めんどう)だったが、時の神に勇者召喚(しょうかん)について教えてやったと適当(てきとう)な理由をつけて追い出してやった。


「世界樹に封印(ふういん)したはずです。あれは私たちが()()(・かた)にバレないように植え付けた(いつわ)りの記憶。それがなぜ彼女の手に渡っていたんですか」


 そう。あの日あの英雄譚(えいゆうたん)は本来、誰の手にも渡らないはずのものだ。それをただの一般人だったアリスが手に入れた。しかもそれを1週間もかけて全て読み尽くした。もしあの日手紙が届かなければ……と思うとゾッとする。


「世界樹に()める時、回収しきれなかったこの剣の欠片があの本の中に紛れ込んでおった。本は精霊で守られておるが、封印はそうも行かぬ。今はもう回収し、慎重(しんちょう)に処理を(ほどこ)した。()れる心配は無い」

「あの破片(はへん)が世界樹の封印(ふういん)腐食(ふしょく)させ、本の情報が()れたということですか。まあ、処理を(ほどこ)したのなら何も言いません」


 そこで引き下がると思っていなかったのか、彼は(おどろ)いたように目を丸くさせた。そもそも、私はそのことについてさほど興味はなかった。それよりも、()()()()()()()()()()()()()の方が気になって仕方がなかった。


「あの本を世界樹に封印(ふういん)したあとのことだ(ねん)(ため)彼女からあの本の記憶を削除するために訪れたんじゃが……」

「精霊の力を(まと)っていた。と。」

 

 精霊の祝福を受けた人間には寿命がない。倒す方法はただ1つ。私の持つ『精霊剣』を使い、(こめかみ)を突きさす。人間の体は(もろ)いが以外に頑丈(がんじょう)で、急所を外せば精霊が彼女を復活(ふっかつ)させるだろう。


「ほっほっほ…そいつを殺せばお主はついに言い訳が出来んくなるぞ。やめておけ」

「「…………っ!!!」」


星の神ウラヌス。神々の中で最も強大な力を持ち、私との勝負で互角まで持ち込んだ最強の神だ。

  

「そう警戒(けいかい)するでない。我はお前の味方ぞよ。そいつは私の見習としておけ。神気エーテルは……星の管理者」

「……はい」

「お前の神気(エーテル)を使え」

「しかし私の力は……」

「いいか。精霊の力を持つこいつを倒せるのはお前か精霊剣だけじゃ。責任をもて。そもそも、最初から(かく)し事などせず、我に相談すれば良かった。そうじゃろ?」

「そもそもあなたが……。はぁ。わかりました」


「アリス」

「おにい…ちゃん?」

 私はまるで小鳥の足ようなアリスの手を慎重(しんちょう)(にぎ)り、ゆっくりとエーテルを流し込んだ。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 

 

 その日から彼女の生活は一変(いっぺん)した

 朝、昼、夜と一日3食。食卓には好きな料理が並び、大好きな本も、魔法の練習も自由にできた。そして、10億年の時を経て、星の精霊に匹敵(ひってき)する神精霊(しんせいれい)に進化を()げた。


「アリスおいで」

「おにいちゃん!!」


 彼女は孤独から開放された。

 初めて彼の顔を見た時、どうなるか不安で仕方なかった。もしかしたら私はこの人に殺されるのではないか。そんな不安もあった。しかし、今では星の精霊は彼女にとってかけがえのない『()()』となった。



 彼女には家族ができた。


 彼女は孤独(こどく)から開放された


 彼女は魔法が得意になった。


 彼女には帰る場所ができた。


 これは永遠(えいえん)に生き続ける2人の兄妹(きょうだい)の物語だ。

最後まで見ていただきありがとうございました。

次回更新までお楽しみに!

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