プロローグ~星の精霊と水晶玉〜
月影水脈と書いて(つきかげみお)と読みます。
現配信者の私が、朗読用に作成した長編小説です。
配信での朗読○です。ただ、自作発言、作品の誹謗中傷といったモラルに反する行為は全て禁止させていただきます。
不束ものではありますが、誰かに読まれることを願って。
ここは地球でも宇宙でもない、不思議な空間。中央には3つの水晶が浮かび、それを静かに見つめる黒いローブを羽織った一人の青年がそこにいた。
「少年よ…人間とは不思議よな。我々とは違い、定められた時を生きることしか出来ぬ。しかしそれが永遠にあるかのように生きておる。……ふむ、それを眺めているのか」
「いえ。ちょうど今、終わったところですよ」
白の修道着を身にまとい、杖を突くその姿を横目に、私は2つの水晶を片付ける。
「ほっほっほ……私からのプレゼント、随分と気に入って貰えたようだね」
「今日の仕事はいいんですか?また怒られますよ」
「ほっほっほ……安心せい。あ奴が来る前に帰る」
何処か楽しげに笑う老骨に思わずため息が漏れる。いつもの事だ。特に用事がある訳でも無く、ただこの部屋を覗きに来るだけ。何が目的でここに来るのか、私にはさっぱり分からなかった。
「のお…少年。人間にとって生きるとはなんだと思う」
「……彼らには時の流れというものがあります。一日が70時間の世界、あるいは40時間、最も短い世界は24時間で終わってしまう。その限られた時の中で、少しでも多くの幸福感を得る。それが生きるということでは無いでしょうか」
「確かにそうじゃな。どこの世界の人間も、何かを得るために労働し、その対価を得ておる。寒ければ暖を取り、お腹が空けばご飯を食べる。所詮彼らの人生とはそんなものだ」
私の答えに満足したのか、ゆっくりと首を縦に振る。
時の流れは平等だ。ある星で3万年の時が流れると、他の世界でもまた、その3万年分の時が刻まれる。当然のことだ。それは私が生み出した星々の全てに与えた、唯一の共通点なのだから。
「しばらくの間私の送った水晶を眺めておくことじゃ。得られるものは多いと思うぞ、お主が何を求めておるのかは知らぬがな。ほっほっほ」
仕事に戻ったのだろう、振り返るとあの嫌味たらしい男の姿はどこにもなかった。
「本当につまらない仕事だ」
右手を伸ばし、再び水晶玉を作り出す。
この水晶玉の名前は『地球』
少なくとも私はそう呼んでいる。一日は24時間、私が生み出した星の1つだ。
ゆっくりと翼を広げながら、水晶に息を吹きかける。
この水晶玉は特定の世界から、無作為に1人の人物を選び、覗くことが出来る。段々と鮮明に映し出される光景を眺めながらふと、あの老骨の言葉を思い出す。
『人は定められた時を生きることしか出来ない』
それはある意味正しいのだろう。
人には寿命がある。それを超えて生きる事は許されず、無限に近い年月を過ごした私にとって、それはほんの一瞬の出来事に過ぎない。現に、私が今覗いている少年はあと数十年もすれば死んでしまうのだろう。ならば何故、その一瞬を、私は永遠に観察しているのだろうか。
先程慌てて片付けた2つの水晶を引き出しから取り出す。これは私のものではなく、貰い物だ。
あの古臭い爺さんの話は嫌いだが、それでもあの方の事は信頼している。これをなぜ私に与えたのか。それが理解できるまでは、暫く大切にしよう。
そう心に誓い、そっと息を吹きかけた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
作品は全て短編ですが、読み進めていくと徐々にこの2人の謎が解けていくような、そんな長編小説でもあります。この二人の関係性についても推理しながら読み進めていただけると幸いです。
次回更新をお楽しみに。