3人でデート!?編
とうとう、この日がやってきてしまった……!
以前、燐太郎の仲間を探している時に、レオルド様がとても有用な情報を持ってきてくれた。
その褒美として、わ、私と……デートしたいって言い出して。
それに文句をつけたのがクラトスで。
話の流れで、3人デートをすることになっちゃったんだ。
実は先日、お祭りでクラトスとデートしました、とはレオルド様には言わない方がいいんだろうな……。
そんなわけで、保護施設からゲートを使って、街へと移動する。
レオルド様が提案してくれた場所は、港町カナリア。
燐太郎と初めて会った場所だ! この街で食べたパンケーキ、すごく美味しかったんだよなあ。
風に交じる潮の匂いに、ほんの少し懐かしさを覚える。
街に降り立つなり、レオルド様が手を差し伸べてきた。
「さあ、行こうか。エリン」
「え?」
私が唖然としていると、ばちん!
雷のようなものが弾け、レオルド様の手を打った。
クラトスの魔法だ。
「何をする……!」
「君、今日はエリンに触るの、禁止」
「なぜ君がそれを決めるんだ!? というか、私はまだ納得いってないぞ! せっかくのエリンとのデートだというのに、なぜ、君までついてくるんだ!」
クラトスはむっとしたような顔をする。
「そういう約束だっただろ? 今さら、文句をつける気?」
「ぐう……それは、その通りだが……!」
レオルド様は嫌そうにクラトスから顔を逸らす。そして、私と向き合った。どうやら、クラトスの存在は無視することを決めたみたい。
「まあ、いい。今日はせっかくのデートだ。存分に楽しもう、エリン」
そんなに『デート』の言葉を強調しなくても……。何度も言われると照れちゃうよ。
「エリンは今まで王都に住んでいたから、こういう港町に来るのは初めてだろう?」
レオルド様が得意げに先頭に立って、歩き出す。
あ……あ……どうしよう。つい先日も来たばかりです! とは、言い出せない雰囲気だ。
私がそう思って口をつぐんでいたのに、クラトスが言った。
「ここ、こないだも来たばかりだよ。丘の上のパンケーキ屋がエリンのお気に入りだ」
「なんだと……!?」
愕然とした顔で振り返るレオルド様。
クラトス……。私と一緒にいる時は優しいから忘れがちだけど、本来のクラトスってこういう偏屈というか、ちょっと意地悪なとこ、あるよね……。
「それはまさか……二人きりで……!? エリン、クラトスで二人きりで、この街に来たのか!?」
「いえ、ミュリエルも一緒でしたよ。それに、幻獣保護の依頼で来たので……」
「なーんだ、そうか! 仕事で! 来たのか! それも、ミュリエルも一緒だったのだな」
レオルド様は今度は、『仕事』の部分を強調した。
クラトスがイラっとしたように顔を逸らす。
あーもう、なんで、この二人って仲良くできないのかなあ~!?
険悪な二人の間に、私は慌てて割り込んだ。
「あの! レオルド様! 今日はせっかく来たんだし、早く街を歩きましょう。わ、あれ、何かなあ~? 気になります!」
道沿いに露店がたくさん並んでいる。この辺りは市場になっているみたいだ。
私がそちらを指さすと、レオルド様は機嫌を治したみたいで、笑顔で頷いた。
「そうだね。では、さっそく行こうか、エリン」
懲りずに私へと手を差し伸べてくるが、即座にクラトスの魔法で弾かれていた。
◇
今日のレオルド様はお忍びらしく、フードを目深にかぶっている。
王都から離れたこの街では、それだけでも案外、周りに気付かれないものだ。
私も聖女として顔を知られているから、王都ではすぐ人に囲まれちゃうけど。
この街では、堂々と外を歩ける。
「エリンには、こういうのが似合いそうだ」
レオルド様が露店の一つで足を止めた。
そして、ペンダントを手にとる。
おお、さすがレオルド様。センスがいい……!
中央にエメラルド色の石がはめこまれていて、陽の光を浴びて、キラキラと輝いている。全体的なデザインはシンプルで、普段使いもしやすそうだ。
ただ……ちらりと見えてしまった値札が、まったく可愛くない。
「わ、すごく素敵ですね」
確かに綺麗だけど、私には高すぎると思うなー。
それに、私、普段はアクセサリーは身に着けないんだよね。一応、侯爵家の生まれではあるんだけど、修道院での暮らしが長すぎて。
質素な生活というのが骨身に染みすぎちゃってる。
そう考えて、私が気後れしていると。
「エリンが好きなのは、こういうのだよ」
クラトスがそう言って、別の露店の商品を手に取った。
リスの置物だ。あ、見た目がスゥちゃんに似てる!
「か、可愛い~!」
そう思ったら、もう可愛くてたまらなかった。買って帰って、スゥちゃんに見せてあげたい!
私がはしゃいでいると、クラトスはどや顔でレオルド様を見た。
「ほらね」
「ぐぬぬ……! 幻獣の可愛さに頼るとは卑怯だぞ……!」
レオルド様は悔しそうに言って、すぐに別の商品を選び始めた。
「エリン! これはどうかな!? ほら、マーゴにそっくりじゃないか?」
「ほんとですね! 表情がそれっぽい!」
「エリン、これ……ディルベルに似てる」
「似てる、似てる! ディルベルにそっくりなのに、顔がちょっと間抜けっぽくて可愛い!」
私が喜ぶと、クラトスとレオルド様は睨み合う。
ばちばちっ。視線だけで火花が飛び散りそうだ。
「ふ……ここは引き分けといったところかな?」
「僕の選んだ物の方が嬉しそうだったから、僕の勝ちだよ」
「大人げないぞ、クラトス!!」
だから、どうしてそうやって競い合おうとするのかなあ?
それからも二人がいちいち張り合おうとするので、私は思わず言ってしまった。
「あの……! 今日くらいはケンカしないで、楽しくできないかな?」
二人がハッとして、私を見る。
「せっかく来たんだし……ねっ?」
黙りこむ二人。
それから、顔を見合わせた。
「エリンを困らせるわけにはいかない。今日のところは、協定を結ぼうじゃないか」
レオルド様がそう言って、
「わかったよ」
クラトスが渋々と頷いた。
「――君のためじゃなく、エリンのためだけどね」
嬉しいけど、ちょっと余計な一言!
◇
それからは、とても平和な時間を過ごせた。
市場を見て回るのって、楽しい! 二人が喧嘩しなくなったから、心持ちも穏やかだ。
露店には、色とりどりの商品が並んでいる。アクセサリー、工芸品、港で獲れた魚介類とかも。
「エリン、見てごらん。あれはこの街の名産品だよ」
「綺麗ですね」
「王子、あっちは何?」
レオルド様が案内してくれて、クラトスも時々口を挟む。
楽しいなあ。このまま二人がずっと、喧嘩しないでいてくれたらいいのに。
そう思った、その時だった。
「返してーっ!」
「誰か捕まえてくれ!」
突然、通りの向こうから悲鳴が上がる。
振り返ると、小さな光が人々の頭上を飛び回っていた。
「あれは……妖精? いや、幻獣か?」
「……【フェーリヤ】だ。幻獣だよ」
クラトスが呟いた。
見た目は、手のひらほどの大きさの幻獣だ。
きらきらと羽を輝かせながら飛び回り、通行人の帽子や財布、装飾品を次々と奪っていく。
「ああ、またか」
近くにいた市場のおじさんが頭を抱えている。
「また……? よくあることなんですか?」
「この辺りでは時々見かけるんだ。悪意はないんだが、いたずら好きでね。ああやって通行人の持ち物を奪って、しばらく逃げた後、その辺に持ち物を投げ捨てて帰っていく。盗みはしないが、迷惑なことには変わりない」
おじさんが困った様子で説明してくれた。
妖精は戦利品を抱えながら、嬉しそうに笑っている。
全然反省していない。
「クラトス……あの子、捕まえた方がいいかな?」
「そうだね」
クラトスが前に出た。
指先に魔力が集まる。
だけど、
「待て、クラトス!」
レオルド様が慌てて止めた。
「人前だ。魔法は使わない方がいい。君は非正規の魔導士なんだぞ?」
クラトスは無表情のまま、手を下げた。
少し考えるそぶりを見せてから、レオルド様の方を向く。
「……王子。風魔法は操れる?」
レオルド様は目を瞬かせた。
「攻撃魔法なら得意だが、あんな小さな幻獣を攻撃するわけにはいかないだろう」
妖精は人々の頭上を飛び回っている。
レオルド様の言う通りだ。
それに、こんな人ごみの中で魔法を撃てば、被害が出る。
「攻撃はしない。捕まえるだけだよ。風を渦にするんだ。そよ風を作るような、弱めのイメージで……」
「……え?」
レオルド様が固まった。
「待て……クラトス。まさか、君は私に魔法を教えてくれようとしているのか?」
「僕からの教えは聞きたくない?」
「そんなことは言ってないぞ! 続きを頼む!」
すごいなあ。レオルド様って素直だ。クラトスに対抗心があるはずなのに、こういう時には躊躇しない。
きっと、優秀な生徒になれるだろう。
クラトスも同じことを思ったのか、茶化したりはせずに、真面目に説明を続けた。
「風を渦にして、作ってみて」
「こうか?」
「もっと柔らかく」
「難しいな……」
「魔力をこめすぎだ。包みこむイメージで……そうだな。籠の中にマーゴを入れるイメージ。力が強すぎれば、中にいるマーゴは傷つく」
「それは大変だ……! なるほど、中にいるマーゴが傷つかないように……こうか?」
次の瞬間。
レオルド様の手から、ふわりと風が巻き起こった。
クラトスは満足そうに頷いた。
「いい感じだよ。それで【フェーリヤ】を捕まえて」
「ああ、やってみよう!」
あ、妖精が戦利品を手に、逃げようとしている。
レオルド様はためらわず、魔法を放った。
風が妖精の前に回り込んで、行く手を阻む。風はそのまま妖精を取り巻いて、渦の中へと閉じこめた。
「成功……したのか?」
呆然と呟くレオルド様。
「やった! 悪戯妖精が捕まったぞ!」
周囲から歓声が上がる。
妖精は風の壁を突破しようとする。しかし、それ以上は阻まれて進めない。風の魔法に当たっても妖精は傷つくことはなく、平気そうだ。
「すごい!」
私は思わず拍手した。
「レオルド様、やりましたね!」
「ああ……上手くいったようで、よかった」
「まあ、悪くなかったよ」
クラトスも素っ気なく言う。
でも、ほんの少しだけ誇らしそうだった。
妖精が奪った物は回収して、通行人たちに返した。妖精の本来の生息地は、こことは別の森の中みたい。いったん施設に連れ帰り、生息地に戻してあげることになった。
レオルド様は、素直にクラトスと向き直る。
「ありがとう、クラトス。君のおかげだ」
「…………」
「また今度、私に魔法を教えてくれるか?」
クラトスは一瞬だけ目を見開いた。
それから視線を逸らす。
「……気が向いたらね」
あれ?
もしかして。
もしかしてだけど。
少しは仲良くなれたのかな!?
私がそんなことを考えていると。
「おおーっ! あそこにいるのは……!」
突然、誰かの声が上がった。
そこで私は気付いた。
あ、騒ぎのせいで、レオルド様のフードが少しめくれてしまっている!
ご尊顔がチラ見して、さすがに気付かれてしまったらしい。
「レオルド殿下じゃないか!?」
「え、本物の王子様!?」
人々が一斉に集まってくる。
なぜか皆の視線は、レオルド様の横にいる私にも向けられている。
「殿下、お隣の女性は恋人ですか!?」
「お似合いですね!」
え? え? どうしてそうなるの!?
っていうか、クラトスの存在は無視!?
レオルド様は一瞬だけ固まってから、
「はは……! 光栄だよ」
満更でもなさそうに笑った。
ちょ、否定しないんですか!?
周囲の歓声はさらに大きくなる。
「お幸せにー!」
私は真っ赤になった。
「ち、ちがいますから!」
必死に否定するけれど、誰も聞いてくれない。
「…………やっぱり、二度と教えない」
ぼそりと呟く声が聞こえた。
振り返る。
クラトスが思いっきりむくれていた。
完全に機嫌が悪い。
えー!
せっかく二人が仲良くなれたと思ったのに!!






