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 私は心から祈った。

 楓弥さんとりんくんが、助かりますように――!



「心優しい幻獣たちを助けて!

《ペタルーダ様とリコス様の祝福を》!!」



 ペタルーダ様の優しい光に、リコス様の力強い輝きが灯る!

 黄金色の光は燐太郎の体を包みこんだ。


 次の瞬間、燐太郎の喉のあたりから、何かが浮かび上がって来る。魔法石に似た形をしている。私はそれを手ですくいとった。


 これが煌斗(あきと)の言っていた、【隷属石】……!?


 ということは……?


 燐太郎の顔を覗きこむ。

 両耳がぴんと立ち上がって、燐太郎は勢いよく目を開けた。狐の姿から、人型へと戻る。そして、元気に体を起こした。


「エリン……! オレ……!」

「りんくん……」


 私は目を見開いて、燐太郎と向かい合った。


「もう大丈夫なの!?」

「エリンの祈りの光……オレにも見えてたよ。あの光がオレを包みこんで、そしたら、苦しいのがどっか行ったんだ」


 燐太郎は気恥ずかしそうにほほ笑んで、頬を指でかいた。


「またエリンに助けられちゃったな……。ありがと」

「りんくん……!」


 私は嬉しくて笑いたいような、感情がぐしゃぐしゃになって、泣きたいような気持ちにもなった。その衝動のままに燐太郎を抱きしめる。


「よかった……! 本当によかった……!」

「わ……っ……、うん……よかったよ」


 燐太郎は困ったように耳を垂れ下げる。それからハッとして、私から体を離した。


「そうだ、兄ちゃん! クラトスは!?」


 私と燐太郎は、展望台の端まで駆け寄る。

 外では、まだ激しい戦闘が繰り広げられていた。


 私は手に石を掲げて、声の限りに叫ぶ。


「楓弥――! りんくんから、【隷属石】を外せたよ!! だから、もう戦わないで!」


 楓弥が目を見開いて、こちらを向く。


「あなたは弟を守りたかったんでしょ!? それなら、ちゃんとりんくんを見て! りんくんは泣いてた! りんくんは、あなたにそんなことをしてほしくないの!」

「兄ちゃん! もうやめてくれ! クラトスをこれ以上、攻撃するな!」


 燐太郎の声に、彼は大きく反応を示した。

 次の瞬間、楓弥の姿がかき消えて、私たちの目の前に浮かんでいた。


「りん……」


 楓弥は信じられないという顔をしている。燐太郎の姿を間近で見ると、彼の全身から力が抜けたように飛行能力が解除された。

 床へと足をつける。私はそのまま楓弥が崩れ落ちてしまうのではないかと、ハラハラした。


「兄ちゃん……」


 燐太郎が遠慮がちに、楓弥に近付く。

 彼の目が吊り上がる。涙の膜が張られたまま、燐太郎はきつい眼差しで楓弥を睨みつけた。 


「何してんだよ……ばか。オレのためだって……? そんなの頼んでないんだよ……ばか! 何で、オレのためなんて言いながら、他の人を傷つけるんだよ!!」


 彼の糾弾が1つ1つ……楓弥の心に突き刺さったのだろう。

 氷のような表情が徐々に揺らいでいく。

 楓弥は苦しそうに眉を寄せた。そんな彼に燐太郎は思いのたけをぶつけるように、勢いよく抱き着いた。


「兄ちゃんのばかああああ!」

「ごめん……ごめんね、りん」


 楓弥は燐太郎を抱きしめたまま、その場に膝をついた。その声は聞いているこちらの方が泣きたくなるくらい、悲しみと優しさに満ちたものだった。


 りんくんと楓弥さん……よかったね。


 その時、外からクラトスの声が聞こえて来た


「逃げるつもりか?」


 私がハッとして、そちらに視線を向ける。

 煌斗が空間転移を使おうとしているところだった。


 楓弥は表情を引き締め、燐太郎の肩に手を置く。


「りん、後でちゃんと話そう。私は後始末をつけてくる」


 そして、彼の姿は一瞬でかき消えた。


 煌斗が転移して、離れた場所に姿を現す。その瞬間、楓弥も転移して現れた。

 彼の逃げ道をふさぎながら、背中で9本のしっぽをゆらめかせる。


「あなたが今まで私にした仕打ちについては、目をつぶるとしても……燐太郎を傷つけたことは、到底許せることではない」


 静かな口調なのに、ぞっとするほどの冷気がこもっている。楓弥の背後では、空が凍りついていた。


 煌斗は咄嗟に下がろうとする。

 だが、彼の背後には別の影。


 逃げられないと悟って、煌斗が頬を引きつらせる。懇願するように言った。


「……お前は……幻獣の味方なのだろう……?」


 すると、吹雪のような声で、クラトスが吐き捨てる。


「その通りだ。だけど、『落とし前をつけたい』という彼の気持ちも尊重するべきだし、その邪魔をするつもりはない」


 クラトスの背後には、すでに雷が生まれて、猛々しいほどの音を奏でていた。


 すさまじい殺気を背負いながら、煌斗を挟み撃ちにする2人。

 その迫力に、目がチカチカとしてきた。


 お、おお……。

 煌斗ってもしかして、この世でもっとも怒らせていけない2人を怒らせてしまったのでは?


 何だかこれ以上、見ちゃいけない気がする。怖いし……。

 私はさっと目をそらして、燐太郎の耳を手でふさいだ。


 その後、空の上からは激しい雷鳴と、吹雪が巻き起こる音が聞こえてきた。




 ◇



 煌斗の身柄も無事に確保したので(彼が今どうなっているのかは、私の口からはとても説明できません……)、皆は展望台に集合していた。

 ディルベルもミュリエルも、ボロボロだけど、どこか吹っ切れたような明るい面持ちをしている。

 クラトスも珍しく、小さくほほ笑んでいた。


 皆が優しい眼差しを向けるのは、楓弥と燐太郎の兄弟だ。

 楓弥は耳としっぽを垂らしながら、申し訳なさそうな表情を浮かべている。


「すまなかった……。謝って許されるものではないことは承知している。あなたたちは燐太郎を助けてくれたのにも関わらず、私はあなたにひどいことを……」


 クラトスは肩をすくめて言った。


「大した傷じゃないよ」


 誰が見てもそれは強がりなことは一目瞭然だったけど。

 それが不器用なクラトスらしい優しさなんだ。

 楓弥にもそれが伝わったらしく、柔らかくほほ笑んだ。


「この償いは、必ずすると誓おう」


 ミュリエルとディルベルがにやりと笑った。


「……それじゃあ、まずはこの壊れた展望台を直してもらわないとね!」

「だな! 迷惑かけられた分は、労働で返してもらうとするか」


 私は思わず、ぷっと笑っちゃった。

 他のみんなも笑っている。


「原状回復は当然しなくてはね」


 楓弥が笑いながら言った。

 そして、私に向き直ると、顔を引き締めて真面目な様子で、


「エリンさん。私はあなたに助けられた。そして、燐太郎のことも……ありがとう」

「私は2人のために祈っただけです。頑張ったのは、りんくんだよ。楓弥さんは、りんくんのことを守ってあげたかったんだよね」


 そして、楓弥のそばを見る。

 燐太郎はさっきからずっと楓弥のそばから離れない。お兄さんを捕まえるように、服の裾をずっと握りしめている。


「だから……これからは、りんくんのそばで守ってあげてください」

「ああ、そのつもりだよ」


 優しげに頷いてから――。

 ぐっと楓弥が私に体を寄せてきた。


 え……何か近いんだけど?

 気が付いたら、手を握られてるんだけど?


 楓弥は切なそうに目を伏せる。


 わ、すごい! 途端に色っぽい感じに……! 見た目が抜群の、妖狐お兄さん……! そんな彼に手を握られて、私はどうすればいいの?


「あなたへのあふれる感謝の気持ちを、どうすればわかってもらえるだろうか」

「え……!?」


 ちょっとドキッとして、私は固まった。


 その瞬間。

 ばちん! 謎の力で私たちの手が引きはがされる。楓弥は、にやっと笑って、素早く後ろへと飛び跳ねた。

 私たちの間に入ってきたのはクラトスだ。むっとした様子で私の肩を抱いている。


「エリン。【マギアレープス】は人を騙すのが得意だ。気を付けて」

「ちょ、ちょっと、クラトス……!?」


 さっきまで楓弥がいた場所、地面が焼け焦げてるよ!? 幻獣大好きなクラトスが珍しいね!?

 クラトスが睨みつけると、楓弥は楽しそうに笑った。色っぽくて、怪しげな笑みだった。


「ふふ、今はりんのフォローが先かな。あなたへのお礼は、またの機会にしよう」


 いえ……その。

 お礼って……。


『特にいりません』とは、言い出せなかった。




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