表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/82

5 いざ、お祭りに


 レオルド様が持ってきてくれた情報のおかげで、やることが決まったよ。

 レピニア諸島で開催される、3日間のお祭り。その3日目に幻獣売買が行われる。その取引現場に乗りこんで、幻獣たちを助けるんだ。


 燐太郎のお兄さんを見つけられるといいんだけど……。


 ううん、仮にそこでお兄さんと出会えなかったとしても、ヒョウガにつながる情報は得られるはず!

 そう信じて、頑張らなきゃね。


 レオルド様は、学校の授業やら公務やらで忙しいと王都に帰って行った。本当に多忙なんだなあ。そんな中で、ハンターまで検挙してきたの、すごすぎない……?


 私たちはレオルド様がいなくなった後も、食堂で作戦会議をしていた。クラトスが燐太郎に尋ねる。


「りん、『山祭り』というのは?」

「七神の1柱、山神リコス様に感謝をささげる祭りだ」

「へえ? 珍しいじゃねえか。太陽神以外の信仰が残ってんのか?」


 この世界を創造したのは、七柱の神様だ。

 でも、今の時代、人間に加護を与えてくれるのは太陽神ペタルーダ様のみとなっている。そのため、他の六神の信仰は薄れつつあるのだ。

 クラトスが静かな口調で説明してくれる。


「レピニアは本土から離れてるから、独自の文化を持っている。そのため、リコスへの信仰心も昔から変わらず、残ったままなんだろう」

「なるほどな。で、その祭りってどんな感じなんだ?」

「そりゃもう、すげーぞ! オレも昔、兄ちゃんに連れてってもらったことがあるんだけどさっ」


 燐太郎は途端に目を輝かせる。

 ふふ、お兄さんに関わる思い出だから嬉しそうだ。本当にお兄ちゃんっ子なんだね。


「色とりどりの提灯(ちょうちん)、いろんな屋台! 美味いもんも、楽しいことも、いっぱいだ! 特にオレは、最後に打ち上げられる花火が好きだ」

「花火?」


 私たちはそろって首を傾げた。


「空に打ち上げる、火花のことだよ! 花みたいな形に開いて、幻想的で綺麗なんだ。あれ、また見たいなあ……」


 燐太郎は思い出に浸るように、うっとりとする。

 わ、聞いてるだけでワクワクしちゃう。私も見てみたいな。


 すると、ミュリエルが目をきらっきらに輝かせた。


「行きたい! 行きたい! あたしも、レオルドが言ってた『なんちゃらだんも』食べたい!」

「みたらし団子だよ。他にもこっちじゃ見かけない料理が、わんさか売られてるぞ。わたあめ、りんご飴、かき氷……」


 ええ、何それ?

 燐太郎が並べ立てる料理が、1つもわからないよ!


 ミュリエルは翼をぱたぱたとしながら、椅子の上で飛び跳ねた。


「行きたい~!」

「私も行きたいなあ。あ、でも……」


 遊びじゃないもんね。これは大切なお仕事!

 幻獣たちを助けに行くんだから。


 私がそう思いながら見上げると、クラトスが考えこむようにしていた。


「どちらにせよ、会場の下見は必要だ。幻獣の売買が行われそうな場所と、ハンターたちの逃走経路を予想しておきたい」

「え、それじゃあ?」

「取引が行われるのは、3日目らしいからね。1日目に行ってみようか」


 私たちは、わっ、と盛り上がった。


「「やったー!」」


 ミュリエルと手を打ち合わせる。燐太郎も「よし!」と拳を握っている。


 お仕事はお仕事して、頑張るとして……。

 レピニアのお祭り! すっごく楽しみだなあ!




 そして、『山祭り』の当日となった。

 私たちは展望台の頂上に集合していた。


 今回、祭りに行くのは4人。私、クラトス、ミュリエル、燐太郎。

 レオルド様は残念ながら、予定がつかなかった。

 ディルベルも誘ったんだけど、断られてしまった。


「祭りで売られるのって、甘いもんばっかだろ? 人ごみも面倒くせえし。俺はパス」


 気だるげにそう言ってたけど。


 ふふ、私は知ってるんだ。彼は施設を守るために、残ってくれるつもりなんだ。ディルベルはこう見えて(怖い顔)、責任感の強い竜だからね。前回、幻獣ハンターに与してしまったことを後悔している。

 だから、あれからは施設が無人になることがないように、気を遣ってくれているのだ。


 私がにこにことしていると、「何だよ、そのほほ笑ましそうな顔は!」とディルベルに小突かれてしまった。ふふふ……全然痛くない。というか、顔が赤くなってるし。


「大丈夫よ、ディルベル! あたしがすべての料理を吟味した上で、一番美味しかった物をお土産に持って帰ってあげるわ」

「お前が気に入ったやつとか、クソ甘えやつだろ。いらねえわ」

「はああ!? せっかく気を遣ってあげたのに! もう知らない!」


 ああ、何かまたケンカしているし……。


「マーゴはお土産が欲しいのにゃん~」

「そうね、マーゴちゃん。ディルベルがハンカチを噛んで悔しがるくらい、美味しいお肉を見つけてくるわ!」

「てめえ……コノヤロ」


 うん、やっぱりこの2人は、実は仲良しな気がしてきたよ。「いつものこと」って感じで、クラトスからはスルーされてるし。


 ミュリエルは猫ちゃんのお面をつけて、人間の姿になった。


 あ、そういえば燐太郎はどうしよう。彼も狐の耳としっぽが出ている。幻獣ハンターと遭遇する可能性を考えると、【マギアレープス】とわかる姿は危険だよね?


 すると、燐太郎が言った。


「オレは自分で幻術かけるよ」


 彼が念じるように目を閉じると、姿が変わった! 耳としっぽがなくなって、人間の男の子になる。


「【マギアレープス】は幻術が得意なんだ」


 クラトスの説明で、納得!


 私たち4人はゲートの前に立った。

 ミュリエルが手をゲートに当てて、元気に宣言する。


「行き先、レピニア諸島の『山祭り』会場!」


 そうして、レピニア諸島への扉は開かれた。





 扉を通った先は、林の中だった。辺りは夕暮れ時。

 気だるげな陽光が、木々の間をすり抜けて差しこんでいる。


 誰もいなくて、静かだな……と思ったら、あれ? 何だか不思議な音が聞こえてくる。

 どん、どん、って。


「会場から、ちょっと離れた場所にしてみたんだけど」


 ミュリエルが言う。すると、燐太郎がそわそわとした様子で歩き出した。


「あっちだ!」


 彼に続いて歩くと、不思議な音は近付いてくる。

 そんなに歩かないうちに、木が途切れた。


「わぁ……!」


 何これ、すごい! エザフォス王国の本土では見たことがない、光景が広がっている!


 私たちがいたのは、山の裾にかかる林の中だったみたい。

 離れたところには、道がある。


 その両側に、きらびやかな屋台、屋台、屋台……!


 魔導灯が様々な色に光っている。屋台ではお面が売られていたり、鉄板で何かを焼いていたり。見たことがない食べ物もいっぱいあるよ!


 子供たちがたくさん集まっている屋台では、何をしているんだろう? 大きな水槽で金魚がたくさん泳いでいる。


 道の上には、たくさんの提灯が吊り下げられていた。これまた、綺麗な色に灯っている。薄闇の中にぼんやりと輝いて、道の先までずっと続いていて……幻想的だ。


 道は山へと続いていた。山には階段があって、そこもずらりと提灯が飾り付けられている。


「すごい!」

「すごいすごい!」


 私とミュリエルは興奮して、声を上げた。


「りんくん、あの屋台なに!?」

「金魚すくい」

「燐太郎、あの食べ物は!?」

「あれは、わたあ……」

「りんくん、りんくん、みんなが素敵な服着てるよ!?」

「だー! 落ち着けよ!!」


 私たちに矢継ぎ早に話しかけられて、燐太郎は叫んだ。


「はしゃぎすぎだぞ、どっちが子供だ!?」

「へへ、だって、気になるものがいっぱいあって……それで、あの服は何?」

「あれは、浴衣だ。レピニアの伝統衣装だぞ」

「可愛い!」

「可愛いね!」


 浴衣かあ。薄い布でできていて、鮮やかな色をしていて、すごく素敵!

 私とミュリエルは目を輝かせた。


「ん……あっちで、レンタルできたはず」

「行こう!」

「行くわよ!」


 こんな素敵なものばかり目にしたら、じっとしてはいられないよ!

 私とミュリエルはウキウキで足を踏み出す。


 ……ん? そういえば、もう1人がやけに静かだな。


 振り返ると、クラトスが嫌そうな顔で額を押さえていた。


「……人が……多すぎる……」


 ああ……! 万年引きこも……こほん、室内派の人にとっては、この人ごみはつらいよね。


 でも、ごめんね。クラトス……。


 今はワクワクしちゃってて、気遣う余裕がないよ。

 だって、あれもこれも見たいし、食べたいし、行ってみたい!


 まずはあの浴衣ってやつを、着てみたいな!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミカライズ1巻が発売されました!

html>
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ