4 情報屋レオルド様
レオルド様が何か、重要な情報をつかんできてくれたみたい。
一同は食堂に集合していた。
私はミュリエルと並んで、椅子に座る。ディルベルは部屋の端で窓にもたれて、立っていた。クラトスはいつも通り、空中で足を組んで浮かんでいる。
「あれからヒョウガや幻獣ハンターの動向について、調べてみたんだ。近々、レピニアでは、『山祭り』と呼ばれる行事が行われる。期間は3日間で、大規模なお祭りだ。そして、その祭りをカモフラージュとして、近くで幻獣の売買が行われるらしい。日取りは、3日目の夜だ。そこでの目玉として、【マギアレープス】が売りに出される」
「【マギアレープス】!?」
それってもしかして、燐太郎のお兄さん……!?
ええー、ものすごく欲しかったピンポイント情報なんですけど!
燐太郎が耳をぴんと立てて、レオルド様を見上げる。
「しっぽの数は!?」
「しっぽ?」
「兄ちゃんのしっぽは9本あるんだ! 売りに出される妖狐のしっぽは?」
「いや……すまないが、そこまでの情報は私も把握していない」
「そっか……」
燐太郎はしゅんとして、俯く。そんな彼の頭をレオルド様は優しく撫でた。
「【マギアレープス】は力の強い幻獣だ。そんな幻獣を捕まえられるとなると、ヒョウガが関わっている可能性がある。そして、その情報をたどっていけば、君のお兄さんも見つけられるはずだよ」
「うん……」
「おい、王子」
ディルベルが声を上げた。
「それが本当なら、すげえ耳よりだが、そんな情報、どうやって手に入れた?」
「幻獣ハンターのことは、ハンターに聞くのが一番だと思ってね。前回、ミュリエルの売買に関与したことで、マルセル元司祭にその伝手があると見た。口を割らせるのに苦労したが、おかげで何人かのハンターを検挙することができたよ。これは、彼らから聞き出した情報だ」
この人、何でもないことのように言ってるけど……。
私は目を丸くするしかなかった。
「ええ……レオルド様。この数日で、マルセルを尋問して、ハンターを捕まえてきて、その上、情報まで手に入れてくれたんですか?」
「ん? ああ、そうだが?」
嘘でしょ……?
私以外のみんなも唖然として、レオルド様を見つめている。
レオルド様は首を傾げて、
「……すまない。大した情報にはならなかったか?」
「逆だッ!! すげーな、あんた!!」
ディルベルが感心したように叫んだ。
「この王子、馬鹿のわりに、ものすごく優秀なんじゃね!?」
「誰が馬鹿だ!? 言っておくが、私を馬鹿呼ばわりした者は、君たちが初めてだぞ!?」
「エリンが絡まなければ、まともなのね」
ミュリエルがうんうんと頷いてから、私の耳元で言う。
「ねえ……彼のためにも、一生、エリンから離れておいてもらった方がいいんじゃない?」
「ちょ、ミュリエル!!」
私は慌ててミュリエルの口をふさいだ。
クラトスは考えこむように口元に手を置いていたが、やがて渋々とした声で言った。
「……まあ、役に立ったよ。王子」
「む、君に褒められたのは初めてじゃないか? 光栄だよ、クラトス」
レオルド様はにやりと笑って、クラトスを見上げた。
それから、レオルド様は私の顔を、ちらちらっと見る。思い立ったように席を立って、私の横へとやって来た。
「ところで、エリン」
わざとらしく咳ばらいをしてから、レオルド様は私を窺った。
「……私は君の役に立てただろうか?」
「もちろんです! ありがとうございます、レオルド様」
「そうか……! そうか! それは、よかった」
嬉しそうにほほ笑んでから、彼は片膝をつく。忠誠を誓う騎士のように、紳士的に私の手をとった。
「では、その褒美として、私とデートしてはもらえないだろうか?」
「え? ええっと……」
レオルド様の上目遣い……! うう、すごい威力だよ!
私はあたふたとして、でも、彼の綺麗な碧眼から目を逸らすこともできずに固まった。
離れたところでは、ミュリエルが声を上げている。
「止めなくていいの、クラトス?」
「……役に立ったのは事実だ……。だけど……エリンとデート……! デート……僕もまだしたことないのに……」
その間もレオルド様は、期待するように私を見つめている。
私が何も答えられずにいると、不安げに目を伏せた。
「私が相手では、不足だろうか……?」
ええ、どうしよう?
私、他に好きな人いるし……。でも、レオルド様がすごく頑張ってくれたことはわかるから……! 断るのも悪いというか……。
迷っていると、クラトスが下がってきて、私たちの隣に浮かんだ。
「わかった、王子。今回の事件が解決したら、出かけよう。ただし、僕とエリンと、3人で」
「目の上のたんこぶッ!!!!」
レオルド様は崩れ落ちそうになって、頭を抱える。
「クラトス! 何で君までついてくるんだ!? 君はエリンの何なんだ!? 保護者か!?」
「そもそも、君に情報を持ってくるように依頼したのは僕だ。褒美を与える権利は僕にある」
「ぐ、ぐう……! 一理ある……! だが、邪魔なのも事実!」
2人は、ばちばちとした視線をぶつけ合う。
ああ、また険悪な空気になっちゃってるよー!
それをどうにかしたくて、口を挟んだ。
「あの、レオルド様! お出かけするのなら、私も3人で一緒に出かけたいなー……なんて、思います」
というか、この2人ってたぶん、ちゃんと話したら仲良くなれると思うんだよね。どっちも魔法オタクだし。
レオルド様は、うっ、と言葉に詰まる。それから、言いたいことを呑みこむようにして、頷いた。
「エリンがそう言うのなら仕方ない!! 今回はお邪魔虫同伴を許可しようじゃないか」
「邪魔なのは君だけどね」
「何だと!?」
ああ、もう、すぐピリピリとした空気に……!
何だか、成り行きで大変な約束をしちゃったかもしれない……。
ミュリエルとディルベルが、同情するような目を向けてきた。
「この2人と一緒に出かけるとか……。正直、ものすごく疲れそうよね」
「だよな~。俺だったら絶対にゴメンだ」
「……まともな男だと思ったのは、オレの勘違いだったみたいだ」
燐太郎が遠い目をして言った。
本編では、「3人デート回」をしている余裕がないので、番外編でやる予定です!