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3 新しいメンバー!(狐)


 さて、食堂にはみんなが集まっていた。新しいメンバーの燐太郎も含めるよ!


 今日の朝食はいつものごとく、パンケーキです。

 お口に合うといいんだけど。


「甘い! 美味い!」


 元気な声が上がった。

 燐太郎だ。

 幸せそうな顔でパンケーキを口に運んでいる。あ、お耳がぴこぴことしているよ。お気に召したみたい。


 ミュリエルも目を輝かせながら、パンケーキをもぐもぐ。


「ん~! おいし~! 港街のもおいしかったけど、あたし、エリンのパンケーキも好きよ」

「へへ……ありがとう」


 クラトスはあまり表情を変えずに食べてる。でも、一口目で満足そうに頷いていた。


「うん、本物のパンケーキだ」


 あれもこれも、すべて本物ですけど!?


 マーゴとディルベルは、甘いパンケーキを好まない。今日は骨付き肉を豪快に噛みちぎっていた。

 うん、いつ見ても、ワイルド組!


 そんな感じで、いつもよりも賑やかな食卓だった。

 食後の紅茶をいただきながら、私はみんなに相談を持ちかける。


「りんくんのことについて、聞いてほしいことがあるんだ。あ、その前に……」


 私は燐太郎に、大きく頭を下げた。


「りんくんに、謝らなきゃいけないことがあって……。私には、治療の方にもう1つ能力があるんだ。ペタルーダ様に祈った時に、その人の記憶がちょっとだけ見えちゃうの。あなたがどこから来て、何から逃げてきたのかとか……勝手に見て、ごめんなさい……!」

「なっ……!?」


 燐太郎は目を見開いて固まる。それから気まずそうに顔を逸らした。


「まあ……でも、オレの怪我を直してくれたわけだし? ちょっと恥ずかしいけど……エリンなら、いいよ」

「え? その子、エリンにすごく懐いてる……? どうやったの?」

「おい、周回遅れ! その疑問は俺たちはとっくの昔に済ませたんだよ。ねぼすけ野郎は、黙って聞いてろ」


 クラトスは嫌そうな顔をしたけど、大人しく口を閉じた。


「りんくんの記憶を見て、わかったことがあるの。あ、この話、みんなに言っても大丈夫?」

「…………自分で言うよ」


 ふてくされたようにむすっとしながらも、燐太郎は話し始める。


「オレが住んでいたのは、レピニア地方にある、妖狐だけが住む村だ。今から少し前に、人間の幻獣ハンターに襲撃された。村のみんながどうなったのか、わからない……。オレの兄ちゃんも行方不明だ」


 記憶を覗いた時もそうだったけど、改めて聞いてもすごくショックな話だ。みんなも真剣な顔で聞き入っている。

 ディルベルが眉をひそめて、問いかける。


「どうなったのかわからないって、どういうことだよ。つーか、それなら何でお前だけ無事だったんだ?」

「……覚えてないんだ」


 燐太郎は悔しそうに顔をしかめて、俯いた。


「オレが覚えているのは、村がハンターたちに襲われたところまでだ。オレは幻術で身を隠していた。でも、その後、気を失って……。気が付いた時には、あの洞窟にいた」

「洞窟って……私たちが出会った、港街の?」

「うん」


 クラトスが怪訝そうに首を傾げる。


「レピニアから、カウキ地方まで……? 海を越えなければいけないはずだけど」

「オレにもわからないよ。何も覚えてないんだ。あの後、どうやって村から脱出したのか。村のみんなや兄ちゃんがどうなったのか……」

「ハンターに襲われたって言うのなら、普通に考えて、人間に捕まってるだろ」

「ちょっと、ディルベル!」


 ディルベルがずけずけと言うから、私は慌てて口を挟んだ。燐太郎はむっとした顔でディルベルを睨んでいる。


「そんなことはわかってる! だから、オレは奴らの行方を捜してるんだよ! 特に、あのむかつくハンター……ヒョウガって奴を!」

「「なにっ、ヒョウガ!?」」


 ディルベルとミュリエルが反応する。


「また、あいつか!?」

「竜だけじゃなく、狐まで狙ったの!?」

「あんたら、知っているのか?」

「ああ、俺らの仇だ」

「そう! 絶対に復讐してやるって決めてるの」


 私は燐太郎に説明する。


「私たちはこの施設で、困っていたり、ハンターに捕まったりしている幻獣を助けているの。幻獣ハンターは私たちから見ても、敵なんだよ。だから、村のみんなや、お兄さんたちのことは私たちに任せて……って言うのは、何かちがうね。目的が一緒だから、協力し合えると思うんだ。りんくんも私たちに力を貸してくれると、嬉しいな」

「……一緒に……?」


 燐太郎の目がくしゃりと歪んだ。零れそうになった涙を慌てて、腕で押さえる。乱暴にぐしぐしとぬぐってから、燐太郎は顔を上げた。


「オレは妖狐……人間の言葉に合わせてやるのなら、【マギアレープス】の燐太郎だ! オレの村を襲ったヒョウガや、ハンターたちを許さない。あいつらを絶対に見つけ出して、兄ちゃんや村のみんなをどこにやったのか、聞き出してやる。そのためなら……」


 言っている途中でまた涙がこみ上げてきたのか、目が潤んでいる。それを見られまいとしているのか、勢いよくそっぽを向いた。


「お前らに、協力してやってもいい!」

「……素直じゃねーの!」


 ディルベルがからかうように言うので、みんなは笑った。



 ◇



 さて、目標が決まった。まずはヒョウガやハンターたちの情報を集めないとね。燐太郎のお兄さんたち、必ず助けてみせるから。


 レオルド様が保護施設にやって来たのは、その翌日のことだった。


 ゲートをくぐったレオルド様は、なぜかちょっとだけふてくされていた。


「ミュリエルがなかなか王都に帰ってこないから、こちらに来れなかったではないか」


 そこで私の顔を見ると、パッと顔を輝かせる。一瞬でキラキラとしたオーラをまとって、王子様にふさわしい雰囲気となった。


「ああ、エリン、久しぶりだね。見ないうちに一段と、聖女らしくなったのではないか? 君があまりにも光り輝いて見えるから、目がくらみそうなほどだよ」

「気のせいです! というか、たったの3日ぶりです……!」

「くっ、3日もここに来れていなかったとは……! もうすぐで、私は干からびてしまうところだった」

「骨だけになれば、ディルベルの仲間入りだよ。よかったね」


 クラトスの痛烈な皮肉を、レオルド様はまるっと無視した。というか、視線がずっと私にだけ注がれていて、居心地悪い……!


 その時、


「誰だ!!?」


 鋭い声が上がる。

 燐太郎が扉に隠れながら、中庭を覗いていた。ああ、しっぽの毛が、ぶわわっとなっている……!

 初めて見る人に、警戒しちゃったみたい。


 レオルド様が気付いて、首を傾げる。


「おや、その子は?」

「【マギアレープス】の燐太郎です。先日、保護をしました。彼のお兄さんや仲間たちがハンターに捕らえられているかもしれないとのことで、調査しているところだったんです」

「りんたろう……ということは、君はレピニアの出身なんだね」


 レオルド様は優しくほほ笑んで、燐太郎に歩み寄った。


「びゃ……! よ、寄るなよ、人間……」


 燐太郎はびくびくとしながら、ドアに隠れてしまう。……ちょっと狐耳がはみ出していて、可愛い。


「ああ、そんなに怯えないでくれ。私はレオルドという。エリンの友人だよ」


 レオルド様は片膝をついて、言った。


 わ、すごいなあ。レオルド様の雰囲気も声もすごく優しくて、辺りが和んだ。警戒心の強い燐太郎も、それを感じとったのだろう。ひょっこりとドアから顔を覗かせた。


「少し前まで、私はレピニアに留学していたんだ。あの地方の文化はすばらしいね。私はみたらし団子が好きだよ」


 レオルド様がほほ笑みかけると、燐太郎も少しだけにやりとした。


「……オレも、すき」

「気が合いそうだね。君の仲間やお兄さんのことは大変だったね。私で力になれることがあれば、何でも協力するよ」

「……うん」


 燐太郎はそろそろとドアから出てきて、レオルド様と向かい合った。


 ええ!? 私たちは燐太郎の警戒を解くまで、あんなに大騒ぎしたのに!

 レオルド様はちょっと話しただけで、懐かれてます?


 燐太郎は生意気な口調で言った。


「今までで一番まともな男だ。クラトスやディルベルなんかより」

「……は?」

「こんのクソ狐……!」


 クラトスとディルベルの目元が暗くなる。すると、レオルド様が鋭い声を上げた。


「大人げないぞ、クラトス、ディルベル。彼はまだ子供だ」

「そうだぞ! あいつら、大人げないんだ」

「「…………っ!」」


 クラトスとディルベルは額に青筋を浮かべるが、レオルド様の手前、それ以上は何も言えないようだ。2人とも不愉快そうに顔を背けた。

 レオルド様は私の方を向くと、にっこりとほほ笑む。


「それより、聞いてくれ、エリン。私は君から頼まれて、あれからヒョウガについて調査していたんだ」

「ありがとうございます。もしかして、何かわかったんですか?」

「ああ、もちろんだ。1つ、面白い情報を入手した」


 何て心強い!

 こういう時のレオルド様は、頼りになる。


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