1 凄腕の幻獣ハンター
◇これまでのあらすじ
エリン「祈ると、相手の記憶が見えます」
ディルベル「はっ、俺ははじめから敵だったんだよ!(本当はみんなのそばにいたい)」
エリン「(ツンデレだ)」
クラトス「人間が嫌い(でも、エリンは好き)」
エリン「(ツンデレだ!!!!)」
新メンバーのミュリエル(火竜)もよろしくね
レオルド様が頻繁に遊びに来るので、午後のティータイムに混ざるのが当然のような光景になっちゃった。
「これは噂で聞いた話なのだが」
季節は春。
穏やかな気候で、過ごしやすい。というわけで、私たちは中庭でお茶を飲んでいた。
レオルド様が私の淹れた紅茶を「聖なるティー」と呼ぶので、困ったりしつつも、まったりと過ごしていた時。
彼がこんなことを言い出した。
「凄腕の幻獣ハンターなる者が、最近、幅を利かせているようだ」
「凄腕のハンターですか?」
「ああ。その名を“ヒョウガ”というらしい」
何か風変わりな名前だ。
すると、ディルベルとミュリエルが敏感に反応した。
「「なに!?」」
「2人とも、知ってるの?」
「知ってるも何も……」
「あたしたちを捕まえた奴が、そう呼ばれてたわ!」
「え? そうだったの?」
先日の事件で、ディルベルは眼帯のハンターに操られ、ミュリエルは司祭に操られていた。
でも、確かに不思議だった。
操られていた2人はとても強くて、厄介だった。その主人となっていた、ハンターや司祭よりも。
それなのにどうして、彼らに捕まっちゃったのかな? とは思っていたんだけど。
2人を捕まえた人が別にいて、それが凄腕のハンターだったってこと?
「でも、そのヒョウガって人、私は姿を見てないけど……眼帯の人たちの一味ではなかったってこと?」
「ああ。幻獣ハンターは、捕獲専門と売買専門に分かれていることがある。ヒョウガって奴は、俺を捕まえて奴らに引き渡した後、すぐにいなくなっちまった」
「あたしの時もそうだったわ。彼らとつるんでいたというわけではなさそうね」
ってことは、その人は一匹狼なのかな? お金を払えば、幻獣を捕まえてきてくれるってこと?
「どんな人だった?」
「顔はわからないわ。お面をつけていたから」
「黒髪だったな。俺も顔は見てない。体つきはひょろっとした感じだ」
「思い出したら腹が立ってきたわ……。あいつ、絶対に許せなーい! 次に会ったら、頭から火をぶっかけてやるんだから!」
ミュリエルは拳を握りしめて、怒りに燃えている。ディルベルがこそっと「……ミュリエルは根に持つタイプなんだよ」と教えてくれた。
クラトスが考えこむようにして、呟いた。
「【竜系統】を捕まえられるとなると、そうとうな手練だろう」
私はレオルド様に聞いてみる。
「魔法士ランクだと、どれくらいに相当するんですか?」
「少なくともAランク以上になるだろうな」
つまり、レオルド様と同じくらいか、それ以上の実力者ってわけね。それは厄介だ。
とはいえ、この世に存在する魔法士で、クラトスに敵う人は存在しないだろうから……安心ではあるけど。
クラトスがしれっとレオルド様に言った。
「王子。他にもヒョウガの情報がないか、探っておいて」
「私は便利な情報屋ではないのだが!?」
「すみません……レオルド様。でも、お願いします」
「エリンがそう言うのなら、私はいくらでも情報を持ってこよう!!」
「おい。今度、この王子にエリンが頼んだらどこまで金を貢がせられるか、賭けをしようぜ」
ティータイムが終わると、レオルド様は王都に戻っていった。授業とか公務とかで忙しいみたいだ。……それなのに頻繁にここに遊びに来て、大丈夫なのかなあ?
ミュリエルは残って、今日はお泊りだ。
彼女に『人間の暮らし方』を教えてあげて以来、たまにお泊まり会してるんだよね〜。女子2人で気兼ねなく過ごすのは楽しい!
というわけで、その夜。
私たちは2人でお風呂に入っていた。施設のお風呂場は広いから、一緒に入れちゃうんだよね。
ミュリエルは、長い髪を後ろでお団子にまとめている。私は短いから、いつもの編みこみをとって下ろしているだけだ。
そうして2人で、温かい湯船に浸かっていた。ふあー、お風呂って気持ちいい。
「お風呂……最高よね」
ミュリエルは、ここで経験するまでお風呂の存在を知らなかった。今ではすっかり気に入っている。
私は風呂のふちに両腕を載せて、ぐでっとする。そうしながらミュリエルの方を見た。
「ねえ、ミュリエル。ヒョウガってハンターと戦った時、どんな感じだったの?」
「そうね。あいつ、何だか得体が知れない感じなのよ」
ミュリエルは私の隣に来て、同じように両腕を載せた。
「あたし、あいつに火を吹いてやったの。でも、効いてなかったわ」
「それって、炎を消されちゃったとか、防御されたってこと?」
「うーん……そういう感じでもなかったのよね。当たっているはずなのに、効いてないって感じ。あれって、どんな魔法だったのかしら?」
「クラトスに聞いてみようよ」
「……それはエリンに任せるわ」
「えっ?」
「クラトスに話しかけるのって、難易度高いのよね。集中してる時は無視されるし」
「それは……集中してない時に声かけてみたらいいんじゃ?」
「それなら、エリンを介した方が確実よ」
「うう……何かごめんね」
何で私が謝ってるんだろうね?
すると、ミュリエルがにやりとして、私の顔を覗きこんだ。
「それで、そっちの方はどうなってるの?」
「ええ……。どう、とは?」
「エリンはクラトスとどうなってるの? まだ付き合うとこまでは、いってないの?」
うぐ……それね。その話ねー……。
確かに『好き』とは言われたし、私も過去視でそういう記憶を覗いてしまったんだけど……。
どうなってるんだろうね?
「そのへんは私にもよくわからないというか。あ……でも、今度、一緒に出かけることにはなった」
「それってデート?」
「……はい……。たぶん」
恥ずかしくなってきて、私は顔を手で覆った。
「ミュリエル、デートって言葉は知ってるんだね……」
「一緒に空を飛ぶんでしょう?」
「ああ、竜式のデートはそういう感じなんだ。ミュリエルはしたことあるの?」
「あるわよ」
「ディルベルと?」
「次にその話題を出したら、ウェルダンにするわよ?」
やっぱり仲悪いのかなー、この2人。
ミュリエルが泊まる日は、私と一緒のベッドで眠る。
……といっても、変な意味じゃなくて!
ミュリエルはちっちゃい竜形態になって、丸くなるのだ。ちなみに、私は毎晩、スゥちゃんと一緒に寝ているので……左に小竜、右に小リスという形になる。
スゥちゃんのふわふわのしっぽとか、ミュリエルのほんのりと温かい鱗とか。
なかなかに贅沢な寝方だと思う。
その日もそんな感じで眠って、次の日。
早朝だ。
「泥棒! 泥棒が現れた! カウキ地方の港街!」
私はシルクの声で起こされた。
クラトス「ヘイ、王子。ハンターの情報を集めて」
レオルド「私はSiriではないのだが!!?」
今作がコミカライズ化されました!
がうがうアプリで配信されています。
作画担当は、角州みあき先生です。
とっても可愛い漫画にしてもらったので、ぜひ見てください!
下にサムネイルを置いておきます⤵