表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/82

聖女印の魔導具販売2

 

 私はレオルド様と魔法士ギルドに向かうことになった。

 王都に着くと、レオルド様はさっそく注目を集めていた。

 この国の第二王子だし、見た目もいいからなあ。


 その上、


「レオルド様! おはようございます!」

「殿下、今日は美味しいフルーツが入ってますよ。おひとつどうですか?」


 街の人たちから、気さくに話しかけられている。その度にレオルド様は、惜しみない笑顔を振りまいていた。


「おはよう。ああ、これはとても美味しそうだね。また今度、寄らせてもらうよ」


 レオルド様は、誰が相手でも愛想がいいんだなあ。

 子供たちにも「あ、王子さま~!」と声をかけられて、手を振り返している。

 人気者だ。彼がいるだけで、周りの雰囲気が明るくなる。


「さて、それじゃあ行こうか。エリン。お手をどうぞ」


 レオルド様は爽やかな笑顔で、私に手を差し伸べた。

 こんな往来でやめてほしい。


 見られてるんですけど!?


「え……レオルド様の隣にいるの、聖女様じゃない!?」

「おふたりって、そういうご関係だったの?」

「とってもお似合いだわ!」


 ちがいます!!


 レオルド様と私じゃ、いろいろと釣り合わないし……。

 そもそも、私……他に好きな人、いるし……。


 私はあたふたとするけど、レオルド様はとっても嬉しそうに笑っている。


「早く行きましょう! レオルド様!」


 差し出された手には気付かなかったフリをして、私は歩き出した。





 魔法士ギルドは街の中央区――教会と近い立地に存在している。


 とても大きくて立派な建物だ。背が高いので、街のどこからでも外観が見える。

 私は中に入ったことは一度もない。

 入口にはいつも警備の人が立っているので、少し物々しい雰囲気がある。


 レオルド様は入口を堂々と歩いていく。ここでも彼は人気者で、いろんな魔法士の人に声をかけられていた。


 玄関を入ってすぐのところが、受付となっている。

 レオルド様が中に入ると、途端に受付嬢たちが色めき立った。

 そわそわとしたり、背筋をぴんと伸びしたり、髪をいじってみたり……そうしながら、レオルド様のことをちらちらと窺っている。

「私に話しかけて!」というオーラを放出していた。


 それには気付いていないのか、レオルド様は真っすぐ進んで、手近な女性に声をかけた。


「こんにちは。少しいいかな?」

「…………っ!」


 彼女は「よっしゃー!」みたいなポーズをとってから、にこやかに応対した。


「はい、殿下。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「彼女の魔法士登録をお願いしたいんだ」


 レオルド様の言葉に、受付嬢は目を見張る。そして、私のことを見た。


「聖女様ではないですか!」


 周りの受付嬢も、一斉に私に注目する。


「え……聖女様がどうしてレオルド様と?」

「聖女様が魔法士に? どうして!?」

「というか、殿下と聖女様って、どんなご関係なんですか!?」


 わー、質問攻めにされている!

 私がたじろいでいると、レオルド様が庇うように立った。

 そして、にこやかに告げる。


「君たちとお喋りを楽しみたいのは山々だが、それは次の機会にしようか。先に登録を進めてもらえるかい?」


 とっても愛想のいい声だけど、高貴な人特有の、有無を言わせない響きもある。

 彼女たちはハッとして、頭を下げた。


「申し訳ございません、殿下。新規の魔法士登録ですね。それではまず、こちらの書類に目を通していただきまして……」


 おお……話が前に進んだ。

 レオルド様に着いてきてもらえてよかった。

 私1人だけじゃ、彼女たちの質問攻めにあっていたかもしれない。




 その後、私は魔力測定をして、簡単な講習を受けた。

 無事に魔法士の資格を取得できた。

 私の名前が入ったギルドカードも作ってもらえた。

 年会費と入会費を支払うはめになったけどね……これは先行投資なので、仕方ない。


 私の魔法士ランクはEということになった。最低ランクだ。


 魔法士は実力でランク分けされる。


 S→A→B→C→D→E


 この6段階だ。最高ランクであるSの資格を持つ魔法士は、この国には数人しかいない。


 レオルド様はAランクって言ってたね。


 魔法士のランクの上げ方は様々な方法があるけど、魔導具職人の場合、ランク上げは必要ないみたい。

 このランクは「戦闘能力」を基準に付けられるものだからだ。

 有名な魔導具職人さんでも、ランクがEであることは珍しくないとのこと。


 そして、私は魔法石の指輪も購入することになった。魔法石は魔法の発動に必要となるもの。魔導具は魔法を使って作るので、必要品なのだ。買わないと変に思われる。

 今後、使うつもりはないけどね……クラトスにもらった指輪があるし。そっちを使いたいから。


 魔法石の指輪は、基本構造はどれも同じなんだけど、デザインにこだわる人もいて、装飾を変えることができる。

 レオルド様の指輪はシルバーリングに、コバルトブルーがコーティングされている。

 高位の人だともっとゴテゴテとした、宝石を付ける人も多いけど、さすがはレオルド様だ。センスがいい。嫌味にならない程度に特別感のあるデザインだ。


 ちなみに、私がクラトスにもらった指輪と同じデザインの物は1つもなかった。もしかして、私とクラトスしか持ってない物だったりするのかな? ふふ……それなら嬉しい。


 私はギルドカードをしげしげと眺める。

 うん、魔導具販売の登録証もちゃんと付けてもらえた!


「今日はありがとうございました。レオルド様。レオルド様に付き添っていただけてよかったです」

「ああ、これで君も正式な魔法士になれたね。ところで、この後だけど……」

「これなら、クラトスの魔導具もちゃんと売れますよね! よかったあ」

「この近くにとても美味しいケーキを出してくれるお店が」

「それじゃあ、私は帰りますね。レオルド様、失礼します!」

「……エリン? エリーーーン!!」





 無事に登録もできたことだし。

 私はホクホク気分で、施設に戻ってきた。


 クラトス、まだ書庫にいるかなあ?

 集中してるようなら、話しかけるのは後にしておこう。

 そう思って、書庫を覗いてみる。


 クラトスは空中に座りこんだまま、何だかぼんやりとしていた。

 ん? 珍しいな……クラトスがこんな風にしてるの。


「ただいま!」

「エリン」


 声をかけると、こちらを向く。

 そして、床まで降りてきた。


「どうだった?」

「うん。ちゃんと登録できたよ! これでクラトスの魔導具も、ちゃんとした値段で売れるね」

「……王子の方は?」

「え? あ、本当に付き添ってもらっただけだから! クラトスは? 新しい魔法式はできた?」

「…………」


 クラトスは目を伏せると、


「何も手につかなかった」


 静かな声で告げた。

 時刻は夕暮れ時。クラトスの碧眼にもオレンジ色の光がかかっている。

 それがとても物憂げな様子に見えた。


「……こんな気持ちになったのは、初めてだ」


 口調は淡々としてるけど、夕日のせいかな? 切なそうにも見える。

 そんな様子を見たら、ドキドキしてきちゃうよ。

 私はもじもじとしながら、悩む。


 えっとね。

 私も本当は……デートするんなら、クラトスとがいいなあ、とか……。


 勇気を出して、言ってみようかな。

 私と一緒に出かけようって。

 迷っていると、先にクラトスが口を開いた。


「次は僕と出かけて」

「あ……」

「2人きりで」

「うん……」


 そう言ってもらえたのが嬉しくて、私は笑顔を浮かべる。


「あのね……私もクラトスとお出かけしてみたいなって思ってた」


 クラトスは目を見張ってから、優しくほほ笑んだ。

 夕焼けに映える笑顔……!

 その表情に私は、更にドキドキしてしまった。





 こうして、クラトスの魔導具も正規の値段で売れるようになって、めでたしめでたし!



 ……のはずが。



 私は肝心なことを見落としていた。

 それは先日の王都の一件で、私が有名人になっていること。そして、私が魔法士ギルドに出入りしていることが、すぐに噂になってしまったこと。


 そして――。


「ちょっと、クラトス~!」


 その日、王都から帰ってきた私は、すぐにクラトスに声をかけた。


「クラトスが作ってる魔導具、何か印が入ってるよね!? あれ、何!?」

「自作だと判別できるように印を付けておいた」

「そんなもの付けないで! 聖女印の入った魔導具ってことで、すごい有名になってるんだけど!?」

「何か問題が?」

「あれから私、街を歩くだけで大注目されるの! 魔導具についてのお礼とか、要望とかも聞かされるし! あれ、私が作ったやつじゃないのに!」

「要望は聞いておいて。改良する」


 そういうことじゃなーい!!




 それからの私……。

 週1での王都訪問で、やたらと人に話しかけられるようになった。


「聖女様! 聖女様の販売されている魔導具のことで、お聞きしたいことがあるのですが!」


 ひー!

 魔導具のことは私に聞かないで!


 だって、自分が作ったやつじゃないのに。これじゃあ、クラトスの手柄を横取りしているみたいじゃん。

 後ろめたさがすごい!


 とはいえ……彼らの声を無下にすることもできずに。

 私はこう返すしかなかった。


「お……お聞きしましょう」


 たぶん、笑顔が引きつりまくっていると思うんだけど……。

 私の言葉に、周りは「わっ」と沸いた。


「やっぱり、あの魔導具は聖女様のお手製なんですね!?」

「魔導具まで作れるとは! 聖女様は何て多才なんだ!!」

「天才だ……稀代の大天才、エリン様!!」


 だからー!

 天才なのはクラトスの方で、私じゃないからね!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミカライズ1巻が発売されました!

html>
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ