押しかけ殿下!2
なぜか、レオルド様とクラトスが魔法でバトルすることになっちゃった。
まあ、結果から言って、クラトスの圧勝だった。
当たり前だよね……この人が作ったルールで戦ってる(開示されていないルールあり)状態なわけだし。
レオルド様の魔法はすべて無効化された上、べちんと軽く弾かれて、彼は地面の上に倒れた。
もはや子犬をいなすようなやり方。
「ば、馬鹿な……」
ああ、レオルド様がすっごく落ちこんでるよ……!
言いたい!
レオルド様、相手が悪すぎるだけですよ! って教えてあげたい!
レオルド様はひとしきり落ちこんだ後で、ハッとして顔を上げる。
「しかし、おかしいな。クラトス、君はどう考えてもSランクの実力の持ち主だ。私はこの国のSランク魔法士の名を全員言えるぞ。数人しかいないからな」
彼は鋭い目でクラトスを射抜く。
「……君、ギルドに未登録なのか? 違法だぞ」
クラトスは嫌そうな顔で、視線を逸らした。
「ああ……ランクね。僕のランク……Cくらいだったかな」
「そんなCランクが存在するかッ! ギルドにはちゃんと登録をしろ。でないと私は、君を通報せざるを得ないぞ」
魔法士ギルドに登録って……。
レオルド様、それはできないんですよー!
クラトスが魔法士ギルドに行ったら、魔力測定だけで大騒ぎになっちゃうから! その上、正体がもしバレた日には、「始祖キタアアア!!?」ってなっちゃうよ!
「あの、レオルド様。クラトスにはちょっと事情があって、ギルドには登録できないんですよ」
「では、その魔法石は何だ? それも非正規のものか? 違法だぞ」
「そ……それも事情のある品なんです!」
「むっ……」
レオルド様は眉をひそめるけど、すぐに納得したように頷いた。
「そうか! エリンがそう言うのなら、仕方ない!!」
「おい、この王子様。エリンに対してだけ、判定がガバガバだぞ」
「だが、ギルドに未加入であることは周りにはバレないようにするんだぞ」
「……ランクを聞かれたら、Cってことにしておくよ」
いや、そんなあからさまな嘘で大丈夫!?
「ああ、それがいい。ちなみに私はAランクだから、君よりも上だぞ」
レオルド様……! 嘘のランクと張り合わないでください!!
こうして、魔法の始祖・エヴァ博士の魔法士ランクはCということになりました!
……絶対に隠し通すの無理でしょ、こんなの……。
「エリン~。そろそろおやつタイムにするのにゃん」
「あ、もうそんな時間か。パンケーキでも焼こうか?」
ミュリエルが首を傾げて、尋ねる。
「ぱんけーき? それって何?」
「すげー甘ったるいやつだ。俺たち竜の舌には合わねえぜ」
ディルベルはそう言うけど、ミュリエルは興味津々みたいだ。「あたしにも作って!」というので、彼女の分も焼いた。
すると、
「美味っしい~~~!」
ミュリエルが可愛い声を上げて、パンケーキを頬張っている。
その目はきらっきらに輝いていた。
「もう、こんなに美味しいのに、ディルベルったら竜の舌には合わないだなんて! ほんと、馬鹿舌なのよね!」
「おい、コノヤロ」
ディルベルが低い声で言って、ミュリエルを睨みつける。
あれ? ミュリエルがさらわれた時にはあんなに心配そうだったのに、実際に目の前にいる時は、雑な扱いするんだね、ディルベル。
意外と仲が悪い? それとも、これってある意味、仲良しなの?
そう思いながら、私は横を向く。
レオルド様が顔に手を当てて、空を仰いでいた。
え!?
わああ、そうだよ! レオルド様は第二王子なんだし、こんな粗末なもの、食べないよね!
「あ、ごめんなさい! レオルド様のお口には合わなかったですよね……」
「いや、すまない。感激していただけだ」
レオルド様はパンケーキを口に含んで、ゆっくりと噛み締める。
ん? って、ちょっと泣いてない?
「これがエリンの手作りパンケーキ……聖なる味だ……」
いや、何言ってるんですか、レオルド様!?
ごく普通のパンケーキですけど……。
その後、なかなかレオルド様が帰らないどころか、「私もここに住みたい」とか言い出したので、怒ったクラトスに転移ゲートまで投げ飛ばされていた。
ミュリエルは翼をパタパタさせながら、「またねー!」とゲートの中に飛びこんで行った。
騒がしい1日だったなあ。