服屋までの間に
「――てめえは本当によくやるよな。どうやったらあんな嘘がすらすら出てくんだ?」
「ふっ、あれはここに来る前から考えていた設定だ。ニームの徹底した宗教弾圧は他国人も知るところだろうと思ってな。ならば、逃れてきた宗教家を装うのは悪い策ではないだろ?」
まあ、言わんとすることはわかる。わかるが、俺が言いたいのはそういうことではない。
確かにこいつは顔がいい。立ち振る舞いや言葉遣いにも育ちの良さがにじみ出ている。でも、赤毛だ。対して、俺はどう見ても堅気には見えないとよく言われるし、鼻にでかい傷があるし、目つきだって悪い。言葉遣いが悪いのも自覚している。だが、金髪だ。
金髪が女に一番モテる髪色であることは、揺るがざる世界の常識のはずなのだ。色々差し引いても金髪の俺がこいつよりもモテないわけがない。
しかし現実は違う。こいつは女関係においては、俺よりも遥か高みにいる。いつだってあっさりと、それこそ道端の花でも摘むみたいに女をモノにする。
この違いは何なのか?
俺はその答えが、こいつの天性の嘘吐きの才能にあると思っているのだが……。
「……てめえさ、貴族の家系だとか言ってるけど、あれ嘘だろ?」
「なっ、突然何を言い出すんだ、お前は。僕には紛れもなく貴族の血が流れている。まだニームが王制だった時代、うちの家系は代々近衛を務めてきたのだ。お前も知っているだろう、僕が古参の兵士たちに恭しく頭を下げられていたのを!」
「いーや、てめえが出自を誤魔化しているだけって線がまだある。あんな嘘がつけるのは詐欺師か女衒しかいねえ」
「いったいお前は何を言ってるんだ?」
「赤毛のてめえが金髪の俺よりモテるわけがないだろうがっ!!!」
思わず心の叫びを漏らした俺に、周囲が訝し気な目を向けてくる。
「ふっ……なんだ、ただのやっかみか。女性が僕に好意を抱くのは別に僕のせいじゃないだろう」
殴りたい。こいつとは何度もやり合ったことはあるが、今ほどぶん殴りたいと思ったことはない。
「そもそも、金髪が一番モテるなんてどこで聞いたんだ?」
「グラーの野郎からだよ」
「――お前グラーの言うことを鵜呑みにしてるのか……まあ、百歩譲ってそれが正しいとしても、奴の祖国である自由国家連合での話だろう。大陸ではどちらかというと濃い髪色が女性に好まれるという話だぞ」
「まじかよ……あの野郎。世間知らずなニーム人を担ぎやがったな。今度会ったらただじゃおかねえ」