ガールズパブにて
「——というわけで、僕たちは昨日この街に来たばかりなんです」
朗々と俺たちの背景をでっち上げるウィンに、店の女たちの視線は釘付けになっている。
このきざ男がグラスに口を付けただけで聞こえてくる溜息。普段なら露骨にボディータッチをしているのだろうか、女の一人はふと上げた手をはっと引っ込め頬を赤らめる。
「つーわけでさ、ねーちゃん。この辺でいい服屋と宿知らねーか?」
一番近くにいる女に問いかけるが、その女は視線をウィンから外さずに、うんうんとうわの空で俺に軽く首を振るだけだ。
毎度のことながら、やってらんねー。
「――そうなんだ……救世教の人たちが、ニームでそんな酷い目にあってるなんて……」
「あそこではあらゆる宗教が政府によって弾圧を受けており、信仰を持つ者は悉く粛正対象にされています。我々も命からがらなんとかここまで……ああっ! どうか我らに救世主様のお導きがあらんことを!」
「「「アアッ!」」」
いきなり床に膝をつき、両手を組んで祈りを捧げ始めるウィンを見て、女たちがなぜか卑猥な声を上げる。
ちなみにウィンは、先祖も引っくるめてガチガチの無神論者である。さらに言うと、違法に集会を開いていた救世教徒たちを、こいつが嬉々として粛清していたのを俺は何度も目の当たりにしたことがある。
「ねえ、ねえ、もし行くところに困っているなら……その……うちに来てもいいんだよ?」
「ちょ、ちょっと! あんたんち猫が二匹もいるじゃない! この子ん所よりもうちのが絶対に快適だよ。部屋も三つあるし」
「はー? あんた船乗りの彼氏が遠洋に出てるからって何言ってんのよ、この尻軽っ!」
「誰が尻軽よっ! あんただって前に店に来たあの偉そうな兵隊とちょくちょく会ってんの知ってんだからねっ!」
「お止めください!」
俺たち(ウィン)をどっちの家に泊めるかで揉め始めた女たちに嘘つき救世教徒が割って入る。
「あなたたちみたいな美しい方々が私たちのために争うなどあってはなりません。それこそ教えに反します」
そう言って、二人の手を握り握手させる。手を触れられたからか、はすっぱな本性を露呈させていた女たちが一瞬で顔を赤らめ、大人しくなる。
「この憐れな田舎者にこの国のことをお教えくだされば……それだけで私はあなたたちのことを一生忘れないでしょう」
二人の手にウィンが交互に口を付けると、女たちはまた卑猥な声を上げた。