港湾都市
「おいっ! あのねーちゃん見ろよ、ありゃ尻だけで飯食っていけんぞ!」
「――――」
「おいおいおい、おいっ! ちょっと待ってくださいよ~。なんだよあの赤毛は~。なんちゅう格好してんだよ~」
「――――」
無事リネンに入った俺たちは、一番近い港湾都市に来ていた。
戦場以外の外国を知らない俺たちには、見るもの全てが真新しいはずなのだが……港街の女の扇情的な格好に舌鼓を打つ俺を、さっきから仏頂面のウィンはずっと無視している。
「……いい加減に機嫌直せよ。せっかく自由になったってのによ」
「どこがだっ! 自由どころかこれで僕たちは確実に命を狙われるぞ! くそっ、ミロクぐらいの高さなら気付かれずに登れたのに……僕はそのための準備もしていたんだ!」
こいつはピンチになるとすぐにいいとこの坊ちゃんが顔を出す。
「落ち着けって。ここは中立国だぜ。あいつらもおいそれと侵入出来ねえよ」
「それはお前があんなことをしなければ、だっ! まったく……どこまで愚かなんだ……いいか、国際指名手配されたら、たとえ中立国でも要請があれば協力しなければならないと国際法で定められている」
まじか……知らなかった。
「じきにこの国でも指名手配されると思ってた方がいいだろう……おまけにニーム軍は間違いなく追っ手を放っているはずだ。ああ、そうだな、中立国に部隊を派遣するとなると奴らも二の足を踏むだろうが、暗殺者を一人か二人放つだけなら躊躇わないだろう。なにせ――親切にもどこから逃げたか教えてやったんだからなっ!」
ウィンの皮肉はさておき、腐っても俺たちは特殊部隊のメンバーだ。送られてくるとしたら――
「間違いなくブランズの誰かが送られるだろうな」
表情に出ていたのだろう、俺の顔を見たウィンが心の声を代弁してくる。
「ま、まあ、大丈夫だろ。ブランズから誰か来たらそのまま仲間にしちまえばいいんだからさ、な?」
「お前、今まで命ごいをしてきた奴らを見逃したことあるか?」
ない。
「……とにかく、すぐにでも変装しよう。俺たちは目立ち過ぎている。バックパックを隠すというお前の案だけは正解だったようだ……」
そう、さっきからちらほらと視線を感じるのだ。
そもこの国の奴らは着ている服が違う。それに加えて、ここ数日の逃亡劇で、身体を拭いたとはいえ服は薄汚れている。これで軍用のバックパックなんて背負っていたら余計に怪しかったはずだ。
「ねえねえ、そこのイケメンのふた――」
敵感知に長けた俺の首が、女の声に物凄い速さで動いた。
「うわっ! び、びっくりした~。ね、ねえ、ちょっと寄って行かない?」
短髪で胸はないがそそる腰回りの美女が親指で指した看板には『ガールズパブ』と書かれていた。