ランナウェイ
「ハァ、ハァ、やはりここにも等間隔で監視塔がある……っておい、何をしてるんだ?」
「見ればわかんだろ? 強行突破すんだよ」
二ーム北西側の国境、隣国の中立国リネンに続く山道に俺たちはいた。
車だとすぐに足が付くとウィンが言うので、俺たちは道なき道を夜通し走ってきたのだ。
国境に沿って築かれた高さ五十メートル、厚さ十メートルの長大な壁『ミロク』。この壁によってニームの国土は覆われている。
俺たちは、ミロクから数百メートル離れた箇所にある木陰に身を隠していた。
長期戦用のでかいバックパックから武器を取り出す俺に、斥候から戻ったウィンが声を荒げる。
「『インドラウェイブ』じゃないか! どうやってそんなも――」
「シーっ、声がでけえよ、馬鹿。ちょろまかしたに決まってんだろ」
ニーム軍には門外不出の『ゴッズテック』という武器がいくつかある。
このインドラウェイブはその一つだ。
一見、拡声器のように見えるが、このサイズにも関わらず、一撃で中隊ぐらいなら壊滅させられる。
エネルギー充填に時間が掛かるから一日に一発しか打てないという点以外は、実に俺好みの武器だ。
「待て、待て、ちょっと待て。お前まっとうに生きるんじゃなかったのか? そんなもの撃って近くに人ががいたらどうするんだ? 僕たちはただの逃亡者から反逆者にされるぞ!」
「今さら何言ってんだよ。俺たちにとっちゃ殺した数が少し増えるだけだろ? それに俺の勘だが――今日は誰も死なねえ」
「いや、格好付けて言われてもな。前にも同じこと言った数分後に五十人ぐらい殺してたぞ」
せっかくの俺の決め台詞を台無しにするウィン。
「あんときは前の晩に飲み過ぎたんだよっ! いちいちうるせえぞ、てめえ」
とはいえ、昨日も飲み過ぎたのだが……。
その時、こっちに向けて監視塔の屋上からライトが向けられた。
「おい、気づかれたか?」
「……いや、わからない。だが、すぐに誰かが検めに来るだろう」
俺は意を決した。
ここを抜ければ俺たちは晴れて自由の身。
クソみたいなこの国とおさらばして死ぬほど稼いで、死ぬほど女と遊ぶんだ。
「ぶっ放したらすぐに走れよ。そのまま突っ切るぞ」
「ちょ、おい――」
ウィンの制止を無視して、俺は木陰から踊り出る。
「ガハハハっ!! 俺たちの前に立ちふさがる障害め! これでも喰らいやがれっ!」
引き金を引くと、強烈な閃光が周囲を照らした――