持つべきものは
「――馬鹿だとは思っていたが、ここまでとはな……」
電話越しに馬鹿呼ばわりしてくるウィンに少しイラつくが、自分が馬鹿であることを今さら指摘されたところで、だ。
それより、資金も愛想もない俺が商売をするには絶対にこの男が必要だ。こんな所で短気を起こしても仕方がない。
「頼むよ~、ウィン~。お前なしじゃ、俺絶対どっかの美女商人に騙されてケツの毛まで抜かれた挙句、自暴自棄になって用心棒にでもなってるかもしれねえよ。そんで来月にはどっかの組織のボスになって美女侍らしてるって」
「……その状況、別にお前にとって悪くないんじゃ?」
「いや、悪いんだって。俺はまっとうな商売でまっとうに大金稼いで、まっとうに美女を侍らせたいんだって……てめえ、何もわかっちゃいないなっ!」
「お、お、おう、そうなのか……なぜ怒鳴られたのかは理解しかねるが……それよりも、僕に相談もなく除隊したことについて説明してもらおうか?」
こいつは普段は冷たい感じのくせに、こっちが下手に出たら友達顔するから面倒くさい。
「いやいや、まずは俺が辞められるか確かめただけだって。ほら、前例作っときゃ、後の奴が楽だろ? な?」
「……俄かに信じがたいが。とにかく、お前は僕のこともちゃんと考えていたと言うんだな?」
調子のいい自分の舌に気分を良くする俺に、ウィンが女房みたいなことを言ってくる。
「ったりめーだろ! だからこそこうやって一番最初にてめえに電話してんだろーが」
「……ふっ」
ふっ、じゃねーよと心の中で毒づきながら追い打ちをかける。
「なあ、アセテートでの誓い、覚えてるか?」
「ああ、覚えている」
ガキの頃からずっとお互いを敵視していた俺たちは、アセテート国での作戦行動を機に兄弟の誓いを立てた。
「兄弟。俺にはお前が必要だ。助けてくれ」
「……ふっ、わかったよ。降参だ。まあ、正直僕もそろそろ軍隊というものに飽いていたところだからな。よし、明日にでも辞表を出してこよう」
「きょ、兄弟。恩に着るぜ」
ちょろいウィンとの電話を切ってから、ルンルン気分で飲み屋に向かい、前途を祝して散財した。
翌日、激怒したウィンが俺の部屋に飛びこんできた。
「くそっ、何が辞められただ! お前には今日にも指名手配がかかるぞっ! 僕も嫌疑をかけられ危うく連行されそうになったが、なんとかごまかして逃げて来た。捕まれば教化院送りは免れん……おい、聞いてるのか?」
目覚めたばかりの俺は、枕で耳を塞ぎ、二日酔いの頭を守った。
どうやらかなり面倒なことになったらしい。
「……聞いてるよ。なあ、ウィン。こんな国もう出ちまって、自由国家連合にでも行こうぜ」