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「猫に翼を与える」屋さん  作者: たかはや扇
2/2

さらば地球よ、我が魂ははるかフェンスの彼方まで…

…そして土曜の朝8時、河原の公園のグラウンドに俺は足を運んでいた。

俺の心は興奮に沸き立っていた。

そうっ、今こそ会えるのだっ、

『口から水があふれ出して、ぴちゃぴちゃと音を立てている取っ手と注ぎ口をもつ人間』に!

もちろん会う用意も抜かりないっ!

右手に猫! 左手に注射器!!

…まあ、煮干し三本でスカウトした近所のノラ猫なので、その忠誠心が少々不安ではあるのだがな。

いいや、弱気はよそうっ!

糅てて加えてえっ、背中のバッグには、「翼を与える」飲料っ。

念の為に「怪物エネルギー」なども用意したっ、ふふ、この周到さを褒めよ!


そうして、止めはっ!

頭上に輝く避雷針付きのヘルメットぉっ!!

地上に垂れる導線がオシャレだろう?!

これでっ、天罰の雷もなんのそのだあっ。



公園に颯爽と登場した俺!

だが彼女をはじめとする面々の愕然とした表情に、俺は悟る!

これはぁ、やっちまった雰囲気の匂いだあっ!!


バットにボール、そしてぇっ、唖然として直立不動のその手から、落ちるグローブぅっ!

もちろん、俺の知性は直ぐにその意味を察知しているさ…


これはっ!

『VASEVALL』ではなくぅっ、『BASEBALL』ではないかあああっ!


18秒ほどの沈黙の後、彼女がどたどたと…

ううっ、本当は『つかつかと駆け寄る』と言いたいところだが、俺の本能がその表現を拒否しているのを察してくれぃっ!


「ねえ、君っ、あたしがぁ、どんだけ恥かいたかわかってるぅー、うぅん?!」

彼女、そんなに耳たぶを強烈に引っ張るのは止めてくれないか。

「耳なし芳一」になってしまいそうな気分だぞっ。


いやしかしっ、彼女よ、ここは一言言わせてくれ!

単なる「野球」を無理矢理「ベースボール」などと言い、更に英語のスペルのBとVを間違えるなど、これは間違いなく

彼女に92%以上、責任があると―!

おい、猫よ、君も何か一言言ってやってくれ―

…お、おおっ、何と!

すでに彼女の横に寝そべり、「オラ知らね」ポーズをとっているうっ!

さすが、ノラ猫の処世術っ!

見習いたくなる気持ちは、押さえられないっ!


「何よ、なんか文句あるの、このノンオイル油虫! 低血圧キリン!!」

は、はははっ、何故だろう、彼女の訳のわからない罵倒を、俺は内心27%ほど悦んでしまっているのだあっ!

うむむっ、しかし彼女の怒りは、一向に収まりそうにないっ。

ふ、こうなれば仕方がない。

俺は寛大な男っ、彼女の怒りは素直に受け止めようっ!


「彼女っ、君のどのような怒りも、打撃も、全て甘んじて受けようではないか!!」

ふふ、我ながら美しい…

この男の美学をほめたたえてくれいっ…


しかし俺は失念していたっ、そう、彼女に「男のプライド」的な攻撃は一切通用しないって事をな!


「ふーん、どんな打撃でも?! なら…」

彼女は、俺の背のバッグにサッと手を突っ込む。

「経済的打撃をくらいなさいよっ!」

俺の財布を掴んで、高々と差し上げ、叫ぶ!

「みんなあっ、今日はコイツのおごりよぉっ!!」


彼女ッ! その行動はあまりにも予想外!

あまりにも斜め上、異次元からの攻撃いっ!

そう、俺の魂も翼を与えられたようにっ、一瞬にしてフェンスの彼方に飛んで行ったのだっ。




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