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ショートショート(連作)

彼は優しい。

「苦しむくらいなら、いっそのこと・・・」


長年連れ添ってきたあなたから出た言葉だった。俯いていた。


           ◆           ◆


今日は久しぶりのお出かけだ。


大好きなあなたと一緒に、出かけるのです。空はすっかりと高くなり雲もパラパラと見かけるだけの晴れだった。

私はいつも、あなたの一歩手前をついていく。歩くたびにチラッチラッと私の顔をみてくれるあなた。

お互いの顔が会うたびにニコッと笑う。その瞬間が楽しい、嬉しい。ニヤニヤしてしまう。

今日は久しぶりの外出でどこにいくのだろうとワクワクしていた。


「ちょっと今日はお願いがあるんだ」

「なになに??」

「我慢してほしいのです」


我慢とか・・・。いやー。私が我慢することといえば病院・・・くらいなんだけど。


「まさかの、アレ?」

「アレだな」


(いやだ、いやだ、いやだ。ならあなたが行きなさい!!)と心で叫ぶ。


「先日の診断でよくなかったろ?ちゃんと病院でみてもらわないと。なおは言わないと病院いかないんだから・・・。頼むよ」


しゅんとする。でも、私を気遣ってくれているわけで。しょうがない今回はいうことを聞きますよ。


「・・・はーい」


私は地面をみながら呟いた。


「よしよし、頭撫でてやるから」


あなたが気持ちを察してくれたのか、ぎゅっと抱きしめてながら耳元で言う。

こころなしか耳元に届いた声はちょっと寂しそう?


(騙されないからな・・・。にしても、私が病院に行くのに元気ないなー。)


そう思いながら嫌なことをさっさと済ませるために、二人で敵陣に向かった。


           ◆           ◆


「苦しむくらいなら、いっそのこと・・・」


昼下がりの微睡の中、彼にひざまくらの上。気持ちよく寝ぼけていた私の耳に届いた言葉。

あなたは俯いていた。

目が隠れるほどの前髪が垂れていて口元以外は顔がよく見えない。


「え・・・?」


思い詰めた顔で私を眺めている。そのまま絞り出すかのような消え入りそうな小さな声が漏れた。よく聞こえない。

いつもと違う声。寂しそうな声。


(苦しむくらいなら、何??)


「今なんて?」


「・・・苦しむのは、辛い、よね」


んんっと体ごと、少しだけ首を横にしてあなたの顔を覗き込んだ。

少しほおが震えてる?前髪がフルフル小刻みに震えていた。

よいしょと動きだした私に気づいたらしく、それに合わせるように右手を私の背中に回す。


(だっこしてくれるのかしら?ふふふ)


私の首に左手を軽く回した。


(なでてくれるのかな?かな?・・・え)


期待は予想外の方へ向かった。視界を覆う大きな手は、スルリと首に向かった。

私の首を大きく覆い、ぐぐっと力がゆっくりとかかっていく・・・。


(ぐっ・・・んっ・・・・ちょっと)


慌てて体を動かそうとするが、うまく動かない。動かせない。

あなたは、なぜかびっくりしたように慌てて、首の手を飛び跳ねるように離した。


「何してるの!?」


「ご、ごめん!ごめんよ・・・・・そうじゃない、そんなこと望んじゃない。そう言う意味じゃない・・・」


意味がわからない・・・。何があったのな。先週、病院にいってからどうもおかしい。


いつもなら頭を撫でてくれるあなたの手。

ちょっとゴツゴツしてて節が太い大きな手。

グリグリしてくれる暖かい暖かい手。


今日の手は、いつもと違う。


「・・・どうしたの?何かあったの?なんで・・・話してくれれば」


返事はない。あなたは俯いたままだった。

私の本能は、あなたの行動にはさっぱり反応しなかった。逃げたりとか。

それだけ信用しきっっているということ?そう、そんなはずはない!


首を握ったあなたの手は、何事もなかったかのように私の手をぎゅっと握ってくれた。

やっぱり!そんなわけがない。私は勝ち誇ったほうに満遍の笑みを浮かべる。


でもでも、おかしい。間違いなくいつもと違う。


・・・震えてる。


声にならない想いを感じた。

手が震えている。辛い気持ちが手に、手の震えから体全体に伝ってきた。

そう思った瞬間、突然彼は今までにないほど力強く、ギュッとでも包むように抱きしめてくれた。


「次も俺と一緒だ!!今よりもっと楽しい思い出を残そう!それなら物と違って持っていけるだろう?

そう、そうだよ。そ・・・う・・だ・・・・・」


最後は言葉になってなかった。空から大粒の雨が降ってきた。


「・・・・やだなぁ。たくさんもらったよ。・・・・まったく、優しいんだから。」


そう、あなたはとても優しい。いつだってそうだ。

知ってるよ。いつも私のことを気にかけてくれていることを。


ゆっくりと少し持ち上げて、もう一回、もう一回、抱きしめてくれた。

薄らとうつろになっていく視界の中で、噛み締めるように。噛み締めるように。


あー、もしかして私は長くなかったのかな。

気づいてて、病院嫌いの私を連れて行ってくれたんだね。


「あなたの顔を、もう一回みたいな。」


私の大切な、そして初めてで最後の大好きな、大好きな飼い主のあなた。

つぎに目が覚めたときも、必ず目の前にいるあなたと、一緒に・・・。


続きは、短編「彼女は可愛い。」の視差小説で展開しました。そちらは彼からの視点で描きました。

下の短編をごらんの上より親しんでいただけると幸いです。


◆彼女は可愛い。 https://ncode.syosetu.com/n2644go/

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