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【4話】いつでも僕たちを見守る妹の話

「お兄ちゃん、最近どうなの?」


「何が」


「さくらさんと」


「ぼちぼちだな」


「へえ」


自分から聞いてきたくせにさほど興味のなさそうな相槌を打ってから、妹は味噌汁を啜った。


「もう一年生の間でも話題だよ、お兄ちゃんとさくらさんのこと」


「へえ……どんな?」


「陽キャ美少女と陰キャ地味男の不釣り合いカップル」


聞かない方がよかったような気もする。


「路チューしたり、毎日一緒に夜遅くまで残ってたり、そういうのは理想のカップルだって声もあるけどね。それでも、なんであの二人が付き合ってるんだろうねってのが大半かな」


「まあ、想像通りと言えば想像通りだな」


「幼なじみ同士で付き合うなんて素敵……なんて言えるほど、今時の子は夢見がちじゃないよ」


「……いや、僕もお前も今時の子なんだけどな、一応」


そう言うと、僕の妹──都子みやこは「私はついていくので精一杯だよ」と、くたびれたようなため息を吐いた。

都子は僕やさくらと同じ高校に通う一年生だ。そして、僕とさくらが嘘の恋人だということを知る、唯一の第三者でもある。


夜20時になろうかという頃。僕と都子は二人、リビングのテーブルに向かい合って夕食をとっていた。

僕らの家は両親共働きで帰ってくるのも遅いので、食事は二人で食べることが多い。

食事は主に都子が用意してくれる。それは受験生の僕に対しての配慮なんだと思う。都子本人は口にしないけれど。


「いつまで続くのかね、お兄ちゃんとさくらさんの偽物の恋人関係は」


「さあ?このままの方が、あいつ的には都合がいいらしいぞ。変な男が寄り付かなくて」


「もうそのまま本当に付き合っちゃえばいいのに」


「いや、それはあいつに悪いだろ。ただでさえ不釣り合いだって言われてるんだし」


僕は言うと、


「え?お兄ちゃんそれ本気で言ってる?」


と、都子は目を丸くした。


「なにが?どの話?」


負けじと僕も目を丸くする。いや、本当に都子の言いたいことがわからないのだが。


「はあ……お兄ちゃんには呆れるよいつものことだけど」


「なんかごめんね」


わけもわからぬまま謝罪の言葉を口にすると、


「ではここで問題です」


と、都子は右手の人差し指をピンと立てた。


「私が毎日お兄ちゃんの夕食を準備している理由はなんでしょうか」


「僕が受験生だからだろ。勉強に専念できるように、毎日ちゃんとしたご飯を作ってくれてる」


食卓に並んだ色とりどりの料理を見る。サラダに焼き魚、味噌汁、ごはん、etc……女子高生が作ったとは思えないほどの完璧な日本食。勿論、味も言うまでもない。

都子はきっといいお嫁さんになるだろうな、誰かと違って。たぶんあいつ料理とかできないでしょ、夕飯にタピオカミルクティーとか出してきそう。

なんてことを考えていると、都子は両腕を使って、顔の前に大きなバッテンを作った。


「ブッブー、不正解です。0点。なんでそんなに察しが悪いかなお兄ちゃんは。〇ねクズ」


「言いすぎじゃない?」


「それくらい言わないとわかんないでしょ、鈍感馬鹿は」


鈍感馬鹿。どこかで聞いた響きだ。


「では、正解をどうぞ」


僕が手を差し出して促すと、都子はドヤ顔で、


「お兄ちゃんに有意義な放課後を過ごしてほしいからです」


と、ない胸を張る。

対する僕の頭上には、次々疑問符が浮かんだ。


「……それ、僕の答えと何が違うの?言い方の問題では?教習所の試験問題か?」


「本当に鈍感だなあお兄ちゃんは。一回死んだほうがいいよ」


「辛辣すぎるんだよなあうちの妹……死ねって言っちゃってるし。さっき伏字にしたのに」


「こんなののどこがいいんだろ……私にはわからん」


何かごにょごにょと呟きつつ、都子は米を口に頬張った。

僕も黙って箸を進める。二人でしばらくもくもくと食べ続け、あらから皿が空になったところで、「そういえば」と都子が何かを思い出したように声を上げる。


「お兄ちゃん、夏休みオープンキャンパスとか行くの」


「行こうとは思ってるけど。受けるつもりのところぐらいは見ておきたいし」


具体的な大学名と、行く予定の日付を言うと、都子は何かを考えるようにしながら「ふんふん」と相槌をうつ。


「なんだ、藪から棒に」


「いやいや。お兄ちゃんもちゃんと受験生しているんだなあって」


「毎日遅くまで残って勉強してるからな、一応。邪魔されるけど」


「じゃ、私の方からそれは伝えとくね」


都子が食器を片付けながら、やけに楽し気な様子で言うので、僕は思わず首を傾げた。


「いや、親にはそれくらい自分で言うけど」


僕に言うことに取り合わず、都子は食べ終えた食器を重ね、台所へ運んでいく。


「私はいつだって、ずっと味方だからね」


鼻歌交じりに都子が呟く。なんのこっちゃ、急に。兄想いのういやつめ。


「ありがとな、都子」


「いや、お兄ちゃんのじゃないから」


礼を述べると、冷たくあしらわれて──あれ、なんとなく会話が噛み合っていないような。どこからだ?

嫌な予感がする。鈍感な僕でも、流石にわかる。妹は、何かを企んでいる。


──僕が、可愛い妹の企みにはまるのは。もう少し、後の話だ。


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