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【1-2話】告白されるたびにわざわざ僕に報告しに来るウザい後輩の話②

短編版の2/3話目です。

多少の加筆修正をしましたが、本筋は短編版と変わりません。

陽が沈み、人気のなくなった住宅街を並んで歩く。ぽつりぽつりと点在する街灯が、行く先をスポットライトのように点々と照らしている。

僕らの住む街は田舎というほどには寂れておらず、都会というほどには栄えていない。

山に囲まれた小さな街。市の中心を大きな川が流れていて、川の東がわに僕らの通う高校、西側に僕たちが住む地域がある。


「ていうか、わざわざこんな遅くまで残って告白された自慢する必要あったのか」


僕が問いかけると、さくらは自動販売機で買った炭酸ジュースに口をつけて、「別に自慢じゃないですけど」と反論してから、


「まあ、そのうちわかりますよ」


と言葉を濁す。


「なにその思わせぶりな態度」


「そんなことより」


臙脂色の缶を指先でこつこつ叩きながら、彼女は僕を見上げた。


「毎度毎度私が告白された話聞いて、何も思わないんですか?」


「ウザいなあって思う」


「いや、そうじゃなくて」


僕は本心を口にしたのだが。彼女はじっと僕を睨む。


「なんかないんですか。昔から仲良しのさくらちゃんに数多の男の魔手が迫っているんですよ」


「大変だなって思う」


思わせぶりな態度をとっているんだというから、自業自得といえばそれまでなのだけど。

さくらは「はあ、そうですか」とつまらなそうに口を尖らせた。


「お前は何を僕に求めてるんだ。毎度毎度告白自慢して」


「自慢してるわけじゃないですってば」


「無関係の僕に告白された話をしに来るって、自慢以外の何物でもないだろ」


僕が首を傾げると、さくらは再度ため息を吐いて「鈍感馬鹿め」と吐き捨てた。


思えば──小学生くらいの時にも。告白されたのを、さくらが僕に報告したことがあったっけ。

あれからもう10年近い月日が流れた。同じ小学校、中学校はわかるけれど、高校まで同じになるとは。

もう人生の大半を、彼女と同じ時間を共有していることになるのか。

まあ、それもあと数か月。僕が大学に進学してしまえば、今までのようにはいかないだろう。もっとも、僕がちゃんと現役合格できればの話だけど。


それからしばらく、お互い何も言わない時間が続いた。、静寂に満ちた薄暗い住宅街に、足音だけが響く。

ふと後ろを振り返ってみると、今まで歩いてきた道がまっすぐ伸びている。街灯と電信柱が、色濃い影になって点在していた。僕ら以外に人影はない。

再び僕は前を向く。靴と地面が擦れる音が、あたりに控えめに響く。


「──なあ」


僕は声を潜めて、さくらに呼び掛けた。

さくらは上目遣いでこちらを見て、「気づきましたか」と、同様に囁くような声で返事をした。


「……なんか、つけられてないか」


先ほどから、僕ら二人の足音に紛れてもう一つ、小さな足音が聞こえていた。

気になって振り返ってみると、後ろには誰もいなかったのだが。電信柱の影で、何かが動いたような──そんな気がして。

また前を向いて歩き出すと、足音は三つになった。


「鈍感馬鹿の先輩にしては上出来かと」


「なに、お前なんかつけられる心当たりあるの?」


僕がそう言うと、さくらはばつが悪そうな顔をして。


「たぶん、この前告白してきた一年生です。最近ずっとあとつけられてるんですよ、校舎から私が出てくるの待ってるみたいで」


「ええ……完全にストーカー化してるじゃん。本当に刺されるんじゃないの?」


「だから言ったじゃないですか。その時は守ってって」


「もしかして、こんな遅くまで僕にかまちょしてたのも一人で帰るのが怖かったから?」


「鈍感馬鹿の先輩にしては上出来かと」


僕は思わずため息を吐いた。完全に巻き込まれた形になってしまったわけだ。

まあ、彼女に巻き込まれるのも、僕にとっては慣れたことではあるのだが。

些細なことから大きなことまで。今までいろんな場面でさくらに助けを求められ、彼女に手を貸してきた。彼女からすれば、頼れるお兄ちゃん的存在であるのだと思う。

いや、それは少し思い上がりかもしれないけど。使い勝手の良い捨て駒程度かもしれない。


だから、僕としては特に慌てる必要もなく、自然この状況を受け入れる。

さあ、今回はどうするか。


「一応、いつもわざと遠回りして家バレはしないように帰ってるんですけど」


「うーん……」


だけど、それも時間の問題だ。いつまでもごまかし続けられるわけがない。

それに、その対応策では事態は何も好転しない。じり貧の状況が、ずっと続いていくだけ。

しかし、そんなにすぐ最善の解決策を思いつくほど、僕は聡明ではない。

どうしたもんか、と頭を捻る。


「なんとかしてくださいよ、あれ」


懇願するような瞳で、さくらは僕を見上げる。

今からストーカーの首根っこを掴んで、学校の指導課にでも突き出すか?だけどそうした場合、逆恨みのリスクもある。事態は一瞬停滞するだけで、より悪化してしまう可能性がある。

穏便に、誰も傷つくことなく、緩やかに事態を収束させる方法──思いついたことはあるにはあった。けれど、それを実行した場合、事後処理が非常に面倒くさい。

僕は立ち止まって、彼女のほうを見た。不思議そうな顔をして、さくらも立ち止まる。街灯が、二人の周りをスポットライトのように照らしている。


「えっ、なんですか?」


戸惑いの色を隠さないまま、さくらはまっすぐ僕を見ている。

幼い頃の面影を残したままの彼女の顔立ち。ずっと共に育ってきた彼女を、いくら助けるためとはいえ──僕の策に巻き込んでしまってもいいのだろうか?

彼女の今後の高校生活にも関わることだ。そんなリスクを、さくらに背負わせてしまってもいいのだろうか?

そんな風に逡巡していると。

さくらはニヤリ、と口の端を歪めて、意地悪く笑って。


「あ、もしかして可愛くて見惚れてるのでは?」


と、言った。


「うっざ」


いくらでも巻き込んで背負わせていいか。

元はと言えばこいつの自業自得なんだし。


左手をさくらの腰に回して、ぐっと引き寄せる。

「え、ちょ」と抗議する彼女の頬を右手で押さえて。


そのまま、僕はキスをする──直前で、唇と唇の間に、右手の親指を差し込んだ。


「んっ……」


さくらの吐息が顔にかかる。指先に、彼女の唇の柔らかい感触を感じる。

恐らく、遠くから見ればキスをしているように見えるはずだ。実際のところ、二人の唇は僕の親指に妨げられて触れてはいないわけだけれど。

ストーカーに見せつけるように、そのままの姿勢を維持する。10秒程経って、僕はそっと唇を離し、彼女を抱き寄せていた手も離した。


「ななな、なにすんの……」


詰めた分の距離を取りながら、さくらの方を見る。

彼女は顔を真っ赤に染めて、瞳を潤ませて。慌てふためいた様子で、言葉にならない声を小さく上げ続けている。


「え、今触れてた?唇と唇触れてた?キスした?」


「……あんま大きい声出すな、聞こえるだろ」


「いや質問に答えて?キスしたの?初めてだったんだけど!」


「してないっつの」


僕は横目で後方を見る。姿を確認することはできないけれど、恐らくストーカーはまだ暗闇の中に潜んでいるはずだ。


「……行くぞ」


未だに混乱したままのさくらの手を引いて歩き出す。……思った以上に、事後処理が面倒な策をとってしまったのかもしれない、と後悔しながら。

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[気になる点] 人生の「大半」を彼女と同じ時間を~ の部分を 人生の「4分の1」彼女と同じ時間を~ にしたほうがいいと思います [一言] 面白そうですね(・∀・)ニヤニヤ
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