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【1-1話】告白されるたびにわざわざ僕に報告しに来るウザい後輩の話①

短編版の1/3話目です。

多少の加筆修正をしましたが、本筋は短編版と変わりません。

「この前は一年生の男の子に呼び出されてー」


窓の外で燃える夕焼けが、放課後の教室を薄赤く染め上げていた。

教室内にいるのは、僕と彼女の二人だけだ。帰りのホームルームが終わってから、すでに一時間半近く過ぎている。学校内に残っているのは部活動の生徒がほとんどだろう。


「学校の近くに小さな神社あるじゃないですか。そこの境内でー」


机の上に広げた英文法の参考書をめくる。

理解するのに時間がかかりそうな、時間をかけたところで理解できるのか怪しい英字の羅列が紙の上に踊っていた。


今まで真面目に勉強してこなかったツケが回り、受験勉強の進捗状況はあまり芳しくない。

今はまだ五月だが、暢気しているうちに年が明けて、センター試験がやってきてしまう。

大学受験まで、残された時間はそう多くはない。


「ねえ先輩聞いてます?でー、私全然覚えてないんですけど、その子と話したことあったみたいでー」


だから、今日もこうして、放課後も一人残って勉強しているわけなのだが。


「私のこと好きになった経緯とか聞かされてー、全然興味なかったんですけど」


英文から、そっと顔を上げる。

僕の前の席に横向きに座った彼女は、窓の外に視線を注いだまま、滔々と話し続けている。


「ずっとその子目泳いでて、顔真っ赤でー。今からこの子のこと振るのかあって考えたら流石に可哀想だなって思って。でも付き合うのは絶対無理だなあって」


「……そろそろやめてあげて?ただの死体蹴りだからね?」


顔も名前も知らない一年生に同情して、思わず僕がそう言うと。


「あ、やっと反応してくれた」


彼女──花見川さくらは、意地の悪い笑みを浮かべて、僕のほうを見た。


「僕が反応することで知らない一年生が救われるならいくらでも反応する」


「いや、さっき死体って言ってたじゃん。それもう救いようがないでしょ」


彼女のツッコミを無視して、再び手元に視線を落とす。

解きかけの長文問題は、すっかり集中の途切れた頭で考えても答えは導き出せなさそうだ。

「はあ」とため息を吐いて、諦めて参考書を閉じる。そんな僕の様子を、さくらは嬉しそうに見つめている。


──花見川さくら。高校二年生。


僕と彼女は俗にいう幼馴染の関係にある。家が隣同士で、幼い頃から家族ぐるみの付き合いをしてきた。

学年が一つ違うのに、僕らがこうして関わりを持っているのもそのためだ。


「勉強、もういいんですか?」


「散々邪魔しといて何言ってんだ」


軽口を叩きながら机の上を片付ける。

シャーペンを筆箱に仕舞いつつ、「というか」とさくらを見上げた。


「お前はなんなの?なんでわざわざ僕のところに来てそんな話してるの?友達いないの?」


僕がそう言うと、彼女は「いやいやいや」と右手を激しく振った。


「友達にこんな話したらウザがられて嫌われちゃうじゃないですか」


「僕ならウザがられても嫌われてもいいと」


「またまた。そうじゃないですよぉ」


さくらは頬に手を添えて、小首を傾げながら。


「ウザがりも嫌いもしないでしょ」


と言って、右目でウインクをした。


「というか、話戻るけど」


「無視すんな」


「お前、やたら告白されるよな。週1くらいでされてないか」


「え、なんで知ってるんですか?ストーカーですか?」


「いや、毎度告白されるたびにお前が僕に報告しに来るからだろ……」


そう──彼女が告白をされるのは、そう珍しいことではない。そして、それを僕に報告しに来ることも。

言ってしまえば、花見川さくらは美少女だ。

ぱっちり開いた瞳と整った鼻筋、薄く笑みを浮かべた口許。そして肩口で切り揃えた黒髪。

なんというか、今時の女子高生、って感じがする。まあ、昔の女子高生がどんなだったのか知らないのだけれど。

万人受けする可愛さ、とでもいうのだろうか。そういったものが彼女にはある。


とはいっても。


「流石に告白されすぎじゃないのか」


「まあ、基本男子に思わせぶりな態度取ってますからね。勘違いした男どもが飛んで火にいる夏の虫ったわけですわ」


「なんなの?最低なの?」


今時の女子高生は告白された回数でレベルでも上がるのか?僕たち男子高校生はスライム扱いなの?


「気持ちいいじゃないですか。異性からちやほやされるの」


「ちやほやされたことがないからわからない」


「先輩だってもっと私のことちやほやしていいんですよ」


今度は左目でウインクしながら、さくらはお道化る。

僕はため息を吐いてから、「あのな」と至って真面目な口調で。


「お前そのうち刺されるぞ、各方面から。黒ひげ危機一髪みたいに刺され放題になるぞ」


ぴょーん、と宙を舞うさくらの姿が脳裏に浮かんだ。

そのまま宇宙の果てまで飛んで行ってしまえばいいのにと思う。


「何の心当たりもないんですけど。理不尽な世の中になったもんですね」


「悪者はちゃんと裁かれる素晴らしい世の中だな」


僕がそう言うと、さくらはじっとこちらを見つめて。


「まあ、その時はちゃんと守ってくださいね」


と、真っすぐな瞳で言った。


「なにそれ、思わせぶりな態度?」


茶化す僕には取り合わず、彼女は窓の外に目をやる。

釣られて見ると、夕日はだいぶ傾いて、空は橙色と藍色のコントラストに染まっている。もうすぐそこまで夜が近づいてきている。


「そろそろ帰りましょうか」


そう言って、さくらは立ち上がる。そのまま出入り口まで歩いて行って、廊下に出た。

僕はため息を吐いて、鞄を手に取った。


「早くしてくださいよー」


廊下から呼び掛けるさくらに「はいはい」と返事して。重い足取りで、ゆっくり歩き出した。


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