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【7-1話】ウザい後輩と二人で東京デートをする話①

東京デート編です。

数話続きます。

車窓が移り変わっていく。

畑や田んぼの広がる田舎の風景から住宅の並ぶ市街地の風景に、やがて高層ビルの並ぶ都市の風景へ。


紅白色の特急電車は、凄まじい速さで関東を横断していく。小さい頃は、段々と都会化し東京に近づいていくその景色を、胸を躍らせながら眺め続けていたものだ。


車内アナウンスが、次の停車駅を告げる。僕が降りる北千住駅までは、もう二駅。30分もあれば着くことだろう。

時刻はまだ朝早く、8時を少し過ぎたくらい。そんな朝早くからなぜ僕が東京に向かっているのかと言えば、受ける予定の大学のオープンキャンパスを幾つか回る予定だからだ。


「先輩、きのこたけのこどっち派ですか?」


「たけのこ」


「奇遇ですねえ、私もです」


オープンキャンパスに参加する程度で、志望大学の順位付けをできるとは到底思えないのだけれど。

百聞は一見に如かずというし、もしどの大学に行くか決断を迷った際の判断材料の一つにはなり得るだろう。


そこで、夏休みを一日使って、一人適当に幾つか大学を見て飽きたら帰ってこようと、そう思っていたのだが。


特急電車が、僕が降りる予定の一つ前の駅に停車する。乗り込んでくる客も、降りていく客もいないようだ。

駅名標を見て、二人掛けの席の窓側に座ったさくらが──たけのこのチョコ菓子を食べながら、「動物園デートもいいなあ」とぽつりと呟く。


「……いや、お前なんでいるの?」


「え?」


なぜか──このウザい後輩も、僕と一緒に東京へ向かっている。



「はい、明日の切符」


昨日の夜。

妹の都子がやけに楽しげな様子で、前売りの特急券と乗車券を渡してきた。


「ん?別に、明日の朝買おうと思ってたんだけどな。売り切れやしないだろうし」


「いいからいいから。じゃあお代ちょうだい」


別にくれるわけではないんだな……当然だけど。

僕は財布からお金をぴったり出して、引き換えに切符をもらう。


「……ん?」


特急券を見て、ふと違和感。


「なんでこれ通路側の席なんだ。いや、別にいいんだけども」


「まあまあ、細かいこと気にしない気にしない」


都子はさらに、何か小さなポチ袋の包みを僕の手に載せる。


「これ、御守り。困ったときに開けてね」


「御守りって……ただ日帰りで東京行くだけだぞ」


「今だ!って時が来るまで絶対開けちゃだめだかんね」


「今じゃない時に開けたらどうなる?」


「最悪死ぬ」


カサカサとポチ袋を振ったり、ふにふにと指で触ってみても、何が入っているのかわからなかった。

釈然としないまま、切符と一緒にポケットにしまう。


都子は満足したようで、鼻歌を歌いながらリビングから出ていこうとする。

廊下に通じるドアを開けたところで振り向いて、満面の笑みを浮かべて、


「まあ、明日帰ってこなくてもいいからね」


と、冷たく言い放った。



妹にハメられた──と気づいたのは今朝、特急電車に乗り込んでからだった。

指定された僕の座席の隣で、「あ、おはようです」と当然のように座っているさくらを見て、僕は全てを悟ったのである。


「東京、地味に近いですね」


北千住駅で降り立つや否や、さくらが呟く。


「まあ、文明の発展は偉大だな」


僕らの住む田舎から一時間半ほどで東京まで出てこれてしまうのだから、近いと感じるのも当然のことと言える。

人の波に流されるようにしてコンコースへ上がり、改札を出る。ここからは別の路線に乗り換えて、より中心部へ向かうことになる。


「……で、きみ何しに来たの」


「?付き添いですが」


「いや、いらんでしょ」


移動して、改札を潜り、ホームへと降りる。上野方面へ向かう電車が来るまでまだ少し時間がある。

僕らは二人並んで、ホームの端に立つ。さくらは白いTシャツにスカートというラフな出で立ちで、小さなボディバッグを一つ持っているだけ。

普段制服に見慣れているからか、私服姿がやけに新鮮に感じる。


「まあ、正直言うと」


と、ホームの先を見ながら。さくらはふくれっ面をして。


「夏休みの間彼氏と何したのって友達に聞かれて、何もしてないって答えたら馬鹿にされるじゃないですか」


「……まあ、そうだけど」


「それに、本当に付き合ってるのか疑われますよ、そんなの」


「……まあ、そうだな」


彼女の言うことには筋が通っているので、僕としても何も言い返すことはできないのだけど。

だけども。


「……でも、別にわざわざ東京まで来なくてもよくない?地元のお祭りとか行けばいいのでは?」


「え?」


ホーム上にアナウンスが流れて、緑色のラインの入った電車が滑り込んでくる。

車内はさほど混雑していないが、それでも僕らの地元を走る電車よりはよっぽど混んでいる。


やがて減速し、電車は完全に停車した。プシュー、と音を立てて扉が開く。

何人か、人が降りてくる──それを待ちながら。さくらは僕の方を振り返って、


「今回の東京デートは、始まりに過ぎませんからね」


と笑った。


「お祭りも海もその他諸々も、全部行くつもりですんで。覚悟よろです」

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