7 再戦ー冒涜的なる悪夢
3種の神器をすべて手に入れた「魔王」、そして彼が手にしようとしてきた「禁忌」を横取りしようと異世界から渡ってきた2大世界帝国軍。明らかになった儀式の場へ戦いが迫る中、「世界の警察」アメリカが、なりふり構わず動き出す。
ー「魔王軍」の存在そのものが、その意志とは無関係に、世界に大乱を引き起こすこと不可避ー
そして、倫理を失った攻撃の結末は…
―*―
2040年7月13日(金)、東京市ヶ谷、防衛省
「-以上が、先週の出雲での敗戦の結果です。」
本官は、居並ぶ自衛隊幹部、そして何より首相はじめ大臣一同の前で、柄にもなく緊張していた。
ざわめきが収まらない。
「山口から敵を排除する見込みが立たないだと?」
「日本海の制海権がアウト…貿易はどうなるんだ!?」
「ミサイルが通用しないだと…」
放心状態になる大臣、書類を何度も見返す幕僚長、首相が俺をにらんでいる。
「…この未曽有の国難において、状況を君はどう説明する?もうごまかしきれんぞ?」
「…首相、異世界からの3勢力による同時侵攻という真相を、これ以上国民に隠しておくのは困難かと。」
「すでにネット上では異世界とまでは断定しないものの超常現象を信じ切る声にあふれております。もはや限界です!」
「在日米軍や各国大使館も、状況の説明を求めています!このままでは我が国が未知の技術体系を独占しようとしていると勘繰られる可能性が!」
「先行きがわからないことで、かえって投資不安が高まっています!このままでは日本経済はもちません!」
「せめて今後の予想避難区域だけでも!」
大臣や補佐官に詰め寄られ、首相は再び俺をにらんだ。
「…君は、最初に調査にあたり、それ以来もっともこの事態に詳しい。だから私は君に現場での総指揮権を預けている。
…君、応えられるか?
…次に何が起きる?我々は何をすればよい?
事実上対抗策がない今、我が国に必要なのは、ひたすら道を邪魔して薙ぎ払われないようにするための情報だ。その上で問う。
…君は、どこまで応えられる?」
…それはもう、奴らの目的が征服であればお手上げだと言っているに等しいじゃないか。
「…それについては、本官よりも適任の人物を呼んでおります。」
「…何?」
「首相、できれば彼らにも、この場に加わり国家機密に関わる許可を。」
…さて、ここで事なかれ主義に走られたら、すべてが水泡に帰すが…
「…いいだろう。しかし守秘義務はあるぞ。」
「ええ、よく言い聞かせてあります。
…亜森君たち、入っていいぞ。」
―*―
うわっ。そう口に出しそうになって、慌ててこらえた。
「うわっ。」
…おい康介バカ!
ザワザワと騒がしいのは、テレビで見かける大臣や有力与党議員、東京都知事。中央に座るのは、現職の首相。
「…彼らは?朝本君、まだ子供ではないか。」
「ええ。ご紹介いたします。
右から、内川田グループ後継ぎの内川田康介君、彼の許嫁の中井美久君、二人の親友の亜森数真君、そして、彼の彼女であり義妹であり、今回の騒乱の発端、亜森流羅君です。」
内川田グループの名を聞いて、表情を変えた大臣がいた。康介がいやそうな顔をする。
「彼らはこの騒動の始まりである山形での襲撃事件から、伊勢、富士演習場と、最前線で関わってきました。本官の情報も、すべてこのルイラ君に基づいています。ですから今回改めて状況を説明するにあたり、本官より適任であろうと思う次第です。
…亜森君、頼めるか?」
「…はい。」
「か、カズマさん!本当は私が!説明すべきなのに!すみません!」
…やはりというべきか、誰も皆ルイラのおかしなイントネーションに驚いている。
「…そうは言っても、その翻訳魔法じかどおしのアクセントじゃわかりにくいんだから仕方ない。こうして話せているだけでもイレギュラーなんだから、悔やむな。」
それに、もしかしたら、もっとはるかにつらいことが待っているかもしれないのだから。
「…それでは、僕から説明します。
これは実際信じがたい出来事です。ですからどうか、話し終わるまでは一言も話さないようにお願い申し上げます。」
それから僕は、語り出す。今までの、すべてを。
―*―
「そして、異世界と魔法の存在を信じざるを得なくなった僕は、ひとまずルイラを家に泊めました。」
「一週間後、おそらくはルイラが警察に連れ出されて外出したことによって、彼の父にして『魔王』と呼ばれる存在テライズ・アモリ氏が、山形に魔物を連れて襲来。
レジスタンスであるという彼女の言葉をうのみにしたわけではありませんが、しかしあの段階であなた方政府のしかるべきところに頼って信じてもらえなければ後に響いたでしょうし、そもそもパイプもなかった。」
「それでも、何かが起きる場所に行けば、できることがあるかもしれない。そう考えた僕たちは、魔王が『3種の神器』を狙っていると知り、神器のうちもっとも田舎にあり防備が薄いであろう伊勢の『八咫鏡』の元へ向かいました。」
「伊勢で新たに発生した『八咫鏡』を見つけた僕たちでしたが、戦闘になり、魔王テライズから、ルイラが彼の娘であり彼が娘を救う方法を捜していることを知らされました。」
「そこの朝本陸将補に助けられた僕たちは、新たな『草薙剣』が発生した富士での決戦に加わり、剣の破壊に成功。いったんは騒動は終息した。」
「ここまでが、僕の関わってきたすべてです。」
―*―
誰もが、沈黙していた。
やがて、大臣の誰かが、口を開く。
「…それは、結局すべての元凶は、君じゃないのか?」
ルイラを見据えて。
ー決めた。この内閣はもう駄目だ。
「朝本陸将補、僕たちはこれにて、帰らさせていただきます。」
「「「「「なっ」」」」」
「…確かにテライズ・アモリが『魔王』と名乗って神器求めて侵攻してきたのは、ほぼ間違いなく、ルイラを救うためかもしれない。けれど、直接交渉しようだなんて思わないことです。
すでに世界は、この世のことわりと別のことわりを覗き見た。今さら、退けませんよ。まして唯一の協力者をけなして、ルイラをどうこうしたらどうにかなるんじゃないかなんて考えるのは、虫が良すぎる。
さ、帰るぞ。」
康介と中井が、うなずく。しかしルイラは、うなずかなかった。
「…アモリさん!私は!大丈夫ですから!」
…はあ。
「…まあ、そう言うなら。」
これ以上、僕個人の感情を優先する合理的な理由もないか。
―*―
「…彼が迷惑をおかけした。謝罪しよう。
それで、私が聞きたいのは二つ。
神器が3つとも奪われた今、何が起きる?
次に侵攻されるのはどこだ?」
「え?3つとも?」
剣も!?
「本官から、この騒動の中心にある新たな『3種の神器』について、あらためて説明したいと思いますが、よろしいでしょうか?」
「ああ。朝本君、任せた。」
「…まず基本原理として、元の神器にまつわる場所に新たな神器が出現していると思われます。
『八咫鏡』があった伊勢神宮に、新『八咫鏡』が出現。これは既に奪われました。
日本神話においてヤマトタケルノミコトが自分を助けるため『草薙剣』を使った焼津の近くの富士浅間大社に出現した新『草薙剣』は内川田君により破壊され。
そして先日、古代の日本で勾玉産地として有名だった出雲で保護されていた新『八尺瓊勾玉』が、中露潜水艦からあらわれた異世界の軍勢との交戦中、魔王軍によると思われるパニックのさなかに失われました。
また、そこの亜森くんの『破壊された剣が別のところで再生したかもしれない』という指摘に基づき調査したところ、源平合戦において草薙剣の形代が失われた関門海峡壇ノ浦海底において、大規模に攪乱された跡が確認されました。本官はこれを、壇ノ浦海底で再生した新『草薙剣』を奪われた可能性を示す物証と考えます。」
「…3つとも!ですか…!」
「ルイラ、神器は本来、その禁忌のかけらなんだよな?」
「はい!いよいよ二つの世界をつなげなくなって!魔法が失われるとき!ヒコホホデミの子孫は『天地の定めをないがしろにする禁忌』を3つに割って!国の宝として!未来に備え3か所に散らばらせたそうです!」
「でもそれがそろってなお、状況に変化はない。足りないものが?」
…普通に考えれば、3つに割ったものを集めてうまくいかないなら、モノが悪いというより時と場所が悪いんだろう。…が。
「ちょっと待て、その禁忌とやらはなんだ?」
「…わからないそうなので、まあとんでもない大魔法くらいに考えてます。」
わざわざタブー扱いするくらいだから、もっとヤバい何かかもしれないが。
「…総理、来客です。百松寺コーポレーションの駆会長が、至急お会いしたいと。」
「後にしてはくれないか?」
「いえ、それが、『魔法についてアドバイスしたい』と…」
ん?首相、中座するのか?
―*―
「…君は誰だ?私は」
「ああ、総理にこの姿で会うのは初めてだっけ?百松寺歩だよ。」
「歩君?たしか駆会長のお子さんだと…」
「おっと総理、それ以上はいけない。
…それより、総理、異世界や魔法について、半信半疑みたいだね?」
「な、なぜその話を?」
「まあまあ。それより君、信じることを勧めるよ?
向こうの神話では、力を得た者が天から下り、力を3つに分けた。
3つの力を手に入れたものが最後に何をするか、すぐにわかりそうなことだけどね。
…でも、これすら戯言か。
だけど…理解の及ばない物事って、あるからね。」
―*―
「兄様、こんなテコ入れする必要あった?」
「いや、愚鈍すぎてつまらないから引っ掻き回そうかと。」
「さすがね。さすがよ。でも、ちょっと寂しかったわ。」
「…じゃあもうここはこれでおしまいでいいか。」
「ええ♪しょせんジジイ、脅しも効くでしょ。」
-どうせ放っておいても、2つの世界は理想へと近づいていくから。
-もう、おしまい♪
―*―
「禁忌」を手に入れる→異世界から渡る→神器3つに分ける。
これが、2つの世界の神話の正体。そう、思ってきた。だから今起きようとしていることはほぼ逆だと。
異世界から渡る→神器3つを手に入れる→「禁忌」を手に入れる。こうだと。
しかし見落としがあるとすれば?
…そもそも、異世界からくる「天孫降臨」と、神武天皇の即位につながる「神武東征」が、なぜ異世界の神話で混じっている?
禁忌を手にしたヒコホホデミが異世界に国を立ち上げる、それが「神武東征」の正体だとして、その中の一部分、異世界転移が「天孫降臨」だろう、そう思ってきた。
しかし、神話に語られるところの「天から人が降りてきた」イメージと、ルイラが知る異世界からやってきた方法は、合致しない。
星ーつまりは隕石を落とし、世界に穴をあける。ルイラはそう言っていた。2700年前もそうだったと。偶然か必然か、こちら側の開口部は隕石並みのエネルギーが加えられる核実験のあった場所。その情景は、(空から光が落ちてきて)大爆発し、土砂が巻き起こって、その中にいた者たちが消え、反対側では見渡す限り何もなくなったクレーターから人が出てくる、そういうものになるはず。
落ちてくる隕石の明かりが人だったと感じて「天孫降臨」と言ったのかもと考えることもできる。しかしー
-「天孫降臨」は、異世界からやってくることではなく、本当に、「人が天から降りてくる」ことじゃないのか?
すべてがきっちりはまって、一筋の光が見えた気がした。
「…朝本陸将補、全部、わかりました。
次の戦場は、九州です。」
「九州、だと?」
「はい。異世界の神話によれば、『禁忌』」を手に入れた者が『天孫降臨』し日本を治め『3種の神器』に禁忌を分けた。
だから異世界から『天孫降臨』すなわち転移して神器を集めれば力が手に入る、そう思いました。
でも、違うんです。」
「え?」
「転移が『天孫降臨』でないならば?本当に、ヒコホホデミが天から降りてきたのだとしたら?
分けられた力を集めたら、降りられた道を登らなければならない。
高天原から高千穂峰へ天を降りて来たなら、今度は逆に高千穂峰から高天原へ登っていかなくちゃならない。
…次の戦場は、九州宮崎、高千穂です。」
「…筋は通っている。島根の軍勢も西へ向かっているようだし。」
大臣やら役人やらが、話についていけなかったのか、目を白黒させている。
「よし、わかりました。次の異世界の軍勢の侵攻予想地域は宮崎県南部から鹿児島県北部!島根からそこに至るまで全域が、避難、く、い、き...」
「あ、朝本君、それは、山口県と…」
「九州全域って意味じゃないのか…?」
―*―
首相官邸で、直ちに記者会見が開かれた。そこで首相は公式に「魔法が存在する異世界からの3勢力による侵攻」を認め、「沖縄県及び対馬壱岐五島を除く九州全域への避難指示」を発令した。
該当の人口は約1300万人に及び、警察・消防・自衛隊をかき集めたところで到底移動も受け入れもできない。内閣は公式に日本国が戦時下にあると宣言し、各国に援助を求めた。
一方でニューヨークの国連総会では、中国並びにロシアの潜水艦が異世界軍に加担していると日本の国連大使が批難した。しかし両国もまた、日本が異世界からの侵攻という大事を隠蔽するばかりかその技術を隠蔽しようとしていると批難した。
また北朝鮮政府は3日後、地下核実験場の坑道に何者かの痕跡が見られたとして、坑道を再度核爆発を起こして破壊・崩落させたことを報告した。
これで、ひとまず異世界の軍勢は根無し草になった。しかし国際社会は、全く安心することができなかった。
7月18日、陸自の遅滞戦術むなしく、関門橋に魔法陣が現れた。
陸自は小倉側から戦車・大砲を並べ、橋にも爆薬を取り付け、関門海峡トンネルは存在が見つからないように厳重に隠匿した。すでに歩兵同士でやりあえば、例え塹壕の有無という差があろうとも何の意味もないことを学習していたのである。
しかし結論から言えば、何の意味もなかった。いつの間にか数千に膨れ上がっていたアディル帝国軍もまた、陸自と同じく1キロ以上遠くを攻撃するすべを持っていたー重力にとらわれない魔法攻撃は、そもそも射程という概念に疎いーからである。
関門橋の反対側へ砲撃を始め、渡橋を防ごうとした陸自部隊だったが、直後、ゆっくり飛来する無数の真球形の火の玉に対応しなけらばならなくなった。
誰かが火の玉を撃つと、爆弾であるかのように爆風を全方位に放射、戦車の装甲板をも歪めた。
慌てて火の玉への発砲禁止が下命されたが、火の玉はふわふわといつまでも浮かび、そして、近くで砲撃が行われるとそれだけで大爆発した。
うかつに刺激すればそれだけで大きな被害を被る「空飛ぶ機雷」のような何か。そんなものが次から次へと飛来するせいで、攻撃することができない。しかも機雷と違い、魔力の塊に過ぎない「火の玉」には対処方法がなかった。
やむなく上官へ通信で撤退命令を仰いだちょうどその時、アディル側の指揮官は、指を鳴らして手のひらの上で浮かんでいた魔法陣を弾いていた。
あちこちで回る赤い魔法陣が、すべて、消滅する。
そして、同時に海峡の向こう側では、数百個浮かぶ火の玉が、全く同時に巨大な炎の球体へと拡散した。
戦車が、自走砲が、兵員輸送車が、赤い爆風に四方から押しつぶされる。
閉鎖部隊の通信途絶を受け、67年の歴史を持つ世界有数のつり橋が、盛大に爆破された。地震の時ですらほとんど揺れない橋が、爆発の轟音と共に上下に大きく揺れる。
いったん、九州は本州と切断されたかに見えた。
途切れ、崩れつつある橋の先端で、数十人の鎧兜をした兵士がひさまづき、左手を膝において右手を橋面に付けた。
黄土色の円が内側から外側へ3つ展開し、円と円の間に十数文字の文章が回り始める。
一人一つ、手を中心に構築される魔法陣。
一方で自衛隊側も、この隙を見逃すほど馬鹿ではない。
F-i3「心神」戦闘/攻撃機の3機編隊×6、それに陸上基地から誘導される雑多な無人攻撃機ーステルス機型あり、オクトコプター型あり、ヘリコプター型ありーの雲霞のような群れが襲来し、F-i3は高空から誘導爆弾を投下、無人攻撃機は低空を縫って機銃弾を浴びせ、あるいは爆弾を投下する。
もくろみでは、ここで関門橋を跡形もなく破壊して九州への渡海を阻止し、同時に全滅とは言わないまでも大きな打撃を与える、そのつもりだった。
だからモニターを眺める誰もが、目をこすった。
投下される爆弾が、真っすぐ落ちていかず、ある高度を境に、フラフラと軌道が一定しなくなって、街中でも見当違いのところへ落下していくのである。無人攻撃機もまた、地表に近づくと途端に軌道が不安定になり、地面に激突したり、民家に突っ込んだりする。
すでに下関市内に人がいないとはいえ、爆弾全てが誤爆しているようでは大問題。最初はEMPなどの電子機器攻撃が疑われたが、ならば映像が届くはずがない。
やがて、モニターを眺めていた一人が、あっと叫んだ。
-違和感があると思っていた。道理だ。
-山の木が、グニャっとずれている!
認識阻害魔法。それが、からくりの正体である。空間にこの魔法がかけられた場合、知能ある者は景色を歪んでとらえ、なかなかそれに気づけない。なまじAIによる精密制御を組み込んだ結果、人口「知能」もまた魔法にかかり、プログラムにない物理法則を外れた挙動をさせられエラーを起こしていたのだった。
誘導弾ではなく通常爆弾に換装するため、編隊は基地へ引き返してく。
ー戻ってきた時F-i3の操縦士がカメラ越しに見たのは、にょきにょきと伸びて崩れかけた九州側とつながる、関門橋だった。
―*―
「気配遮断」の致命的弱点は二つある。一つは目視だけはどうしても逃れられないこと、もう一つは人数に応じて魔法を使うために魔法感知魔法で人数までもすべて筒抜けになってしまうこと。いずれにしろ構造的な欠陥であって改善は不可能ではあるが、魔法の感知方法などないこの世界においては二つ目の弱点はないも同然。そのため、自衛隊はディペリウス軍の九州上陸を許すしかなかった。
一応は見張り員を乗せた護衛艦・巡視船が決死の覚悟で福岡・大分沖を張り込んでいたのだが、その穴をつき島原半島に上陸されてはどうしようもない。
長崎県には海上自衛隊3番目の大基地佐世保が存在する。鼻先での密上陸に怒りただちに出港、出撃した最新鋭汎用イージス艦「もがみ」以下の第二護衛隊群だったが、彼らが港外で目撃したのは、上空を群れ飛ぶ翼竜のようなものの群れだった。
魔物の群れ、そう理解した各艦は、直ちに対空戦闘に移ると同時に 対潜戦闘準備に入った。
「もがみ」の平らな後部甲板から対潜無人ヘリが5機も発艦していき、前部甲板ではVLSのふたが全開になる。
イージス艦3隻のデータリンクと地上のスーパーコンピューターを使った並列処理で、1000を超える魔物の群れを識別、脅威順位を判定、攻撃順を振り、そして、全艦のVLSが、白い煙に包まれた。
異変に気付いたプテラノドンモドキが、胴体以上の長さにまで首を伸ばして下を見、口を大きく開け、喉の奥の魔法陣で電気をため始める。
しかし、どう考えたって、プテラノドンモドキが吐瀉物をマッハ3に電磁加速できるほど電気を生み出すよりも護衛艦の艦対空ミサイルが到達するほうが早い。
ミサイルが近くを通り過ぎる瞬間、近接信管が発動、爆発、炎と弾片を音速以上でまき散らし、魔物を切り刻む。プテラノドンモドキも、ゴツイ獣の脚をぶら下げた3メートル以上あるタカのような魔物も、等しく煙の中で赤い血に染まり、撃墜されていった。
海中でも、信管を触発・近接併用にして微調整した対潜魚雷が、数頭のクラーケン目掛け殺到する。触手を振り回すクラーケンだったが、百メートルの遠距離から全方位からの爆発による水中衝撃波でおしつぶされては軟体動物の弱み、黒いイカスミを全身から漏らしながら、白い巨大な胴体を海面に浮かび上がらせた。魚を焼いているグリルと納豆の臭いを足して2で掛けたようなキツイがクセになるにおいが艦内の奥深くまで広がったという。
なおもディペリウス軍の上陸地点を目指す第二護衛隊群だったが、バギオの「意変光」特有の電磁波を感知し、EMP攻撃を喰らってはどうにもならんと、泣く泣く全速で西へ退避していった。
―*―
2040年7月25日(水)、宮崎/鹿児島県、高千穂峰
青空を、爆音が通り過ぎていく。
空に、無数の花が咲いた。いやむしろ、綿毛かもしれないが。
星条旗をまとったF-35戦闘機の大編隊の中心でパラシュートを降下させながら旋回しているのは、C-130J「スーパーハーキュリーズ」輸送機。1機64名の空挺隊員が乗り込んでいるのだから、50機いれば3000人以上が大して広いわけでもない霧島連山一帯へ降下していくことになる。
特に太い胴体の輸送機が、山の斜面の下側にえぐりこむような角度で接近、前輪を接地し、タイヤから火花を散らせながらも山を上昇、山頂ぎりぎりで止まる。2機がそうして斜面に着陸し、1機は斜面に突き刺さって爆発、もう1機は着陸できたもののふもとまで滑り落ちる途中で爆発して谷底へ転落していった。その上から続々、パラシュートにつられた人やコンテナが、茶色い山肌に白いパラシュートをひっかけていく。
高千穂峰の山頂、イザナギとイザナミが日本を作るのに使ったと言われる天逆鉾の隣に、50の星を持つ旗が、つきたてられた。
―*―
2040年7月25日(水)、宮崎沖
九州と四国の間にある宇和海・豊後水道には、最後の九州避難船団と入れ替わるようにアメリカ海軍第七機動部隊が進出した。原子力空母を3隻含み、旗艦「ドリス・ミラー」に至ってはレールガンと指向性レーザー機銃を原子炉の電源能力限界まで搭載した「戦闘空母」となっている。この部隊は実質地球人類が用意できる最強戦力であった。
「何としても、異世界人を叩き出せ!皆殺しだ!
およそ100年前、ハルゼー大将はおっしゃった、『キル、キル、キルザジャップ!』と!
今一度私は叫ぼう!
キル《殺せ》!キル《殺せ》!キル、モンスターズ!」
「「「「「「「「「「キル、キル、キル、モンスターズ!!!!!」」」」」」」」」」
「全艦、攻撃用意!」
―*―
2040年7月25日(水)、東京千代田区永田町、首相官邸
「総理!大変です!」
「なんだ!?」
「アメリカ軍が、総攻撃を始めました!」
「何!?」
「霧島連山に海兵隊が降下、また、九州沖に到着した空母打撃群も、攻撃隊を発進させた模様!」
「ま、待て!事前通告などなかったぞ!」
仮に日米安全保障条約による米軍の出動だとしても、何か断りがあってしかるべきだ。それもなくいきなり空爆と空挺降下ではほとんど...
「朝本陸将補が、『これではほとんど、米軍の侵攻であります』と…」
「本当にそういう意図だとして、どうしろと言うのだ!」
首相は、吠えたきり、組んだ手に額を押し付けて黙り込んだ。
彼の机から、一枚の報告書が滑り落ちる。題名は「もし米軍が総力を以て異世界3勢力と決した場合」ーそのページは、「仮に最新鋭のジェラルド・R・フォード級原子力空母全7隻が集まったとしても、魔王軍の首脳陣3名に傷をつけることすら不可能であろう」と結論付けていた。
―*―
2040年7月25日(水)、九州、霧島地方上空
私は、神話に語られる「タカマガハラ」と「タカチホミネ」を捜していた。
2700年の間、私たちの世界は大きく変わった。とりわけ朝貢国群に過ぎない辺境は地名すらはっきりせず、おかげでこちらの世界で海を渡らなければならない程に離れた地点に渡ってきてしまった。
やっと神器は集まったが、「天孫降臨」の地を突き止めるのに、島だけ絞り込むにもかなりの時間を費やした。…なんでこんなに島があるんだ!私たちの世界ではこの辺りはすべて陸地だぞ!
…やっと、見つけた。何日不眠不休で飛んだと思っているんだ。
…今は、これで勘弁してやろう。
―*―
…陛下もお疲れのようだし?まあ?バギオは止めておいてあげるわ?
…私一人退けられないなら、それまででしょ?
え?タカチホミネ見つけたの?...やったわね?
「…『波城壁』?」
―*―
第七機動部隊から発艦したのは、Fー35ライトニングⅡC戦闘攻撃機204機からなる雲霞のような大編隊であった。
第6世代である日本のF-i3やイギリスのBAEテンペスト、EUのFCASや中国の無人攻撃機「暗剣改」に比べれば第5世代である分電子兵装や機動性に不安があるが、ほとんどが戦闘機、最新のF-i3ですら出撃前の機材の積み替えを要求する「戦闘/攻撃機」である中、完全な一人二役を実現するF-35の汎用性は秀でている。
別に、最新鋭戦闘機に要求されるようなレーザー兵器や電子兵装、航続距離は求められてはいない。魔王軍に対してそのようなものは無駄でしかない。最低限の凌駕性能と数、そういう意味ではやっと数がそろい始めたF-35は最善の選択肢だったー相手が予想以上に強かったりしなければ。
突然、先頭にいた数機が、正面から殴られたようにして、ぺしゃんとつぶれた。
無理に前後からプレスされたような残骸は、その後もいくつも発生し、やっと回避がされたときにはすぐ止まれない超音速機の宿命、20機以上が犠牲になっていた。
約1億ドルの調達費用を要する高額機がいともたやすくレーダーにすら攻撃の兆候なく墜落、これだけでも大変なことだが、受難はまだ続く。
敵はどこだと必死に探し、前方の空に髪を丸く逆立てる謎の女をやっと見つけた米軍機たちは、直ちにミサイルを発射した。
使用されたのは空対地ミサイルAGM-179「JAGM」。数年前までは3種併存だった米軍の対戦車・対地ミサイルの完成版である。空対地ミサイルと言いながらも、対空ミサイルとしての機能が限定的ながら存在した。
「『波城壁』?」
赤いドレスの魔女は、丸く開いた自分の長い後ろ髪を手ですいた。
髪の上に乗る魔法陣が組み変わり、再び回り始める。
直進してきたJAGMミサイルは、すべてが、強烈な空気の波の膜に叩かれ、爆発四散した。一定範囲の平面上のすべてを振動させる「波城壁」は、使いようによっては空間切断術式として比類なき効果を発揮できる。
しかし米軍は、決してこの結果を予想できなかったわけではない。
なおも直進で殺到するミサイル。一方で、はるか上空から、ずっと大きなミサイル数十発が放物線を描いて落下してくる。
ミサイルの弾頭が、パカッと4つに分離し、中から無数の細長い筒状の子弾がまき散らされる。
あくまで艦載機隊のミサイルは囮、本命は艦隊から放たれた艦対空ミサイル、ならびにー
ジッ!
「うわっ?」
ー指向性高エネルギーレーザー兵器。
髪が焦げて茶色になると同時に、その上で回り続けていた魔法陣がふっと消える。
JAGMミサイルが、もはや遮るものもなく、魔女めがけて白い煙を吹き、迫っていく。
ルゼリア自身気づかない間に、超音速で落下する子弾が上から降り注ごうとする。
不可視の必殺マイクロ波レーザー数十本が、囲い込むようにして上下左右をふさぐ。
そして、すべてが一つになった。
50以上のJAGMの近接信管が作動してルゼリアを爆発で包み込み、無数の筒状爆弾が上から加わって、微妙に角度がずれていたレーザーが煙の中で一点に収束する。
「よしっ!」
仕留めた、そう、誰もが思った。
そして、震え上がった。
-爆弾のかけらすら互いに破壊して落ちてはこないのに、何かが、真っ黒になって落ちてくるー
「…私、何が…?そう?負けたの…?
…死ねないのよ、まだ…?」
ジェット機からは、その物体ーいや、人間の形をしているーの動きなど、識別することは出来ない。当然、口の動きも。
「…ドレスも…?ぼろぼろ?
…これは、まずいかも?」
しかし、数十発のミサイル、クラスター状の子弾数百発、それに数十条のレーザー。それだけを生身で浴びてなお、原形を保っていれば、パニックを起こす原因としては過剰ですらある。
何機かが、弧を描くようにしてルゼリアを避けて飛び、そして、後ろに向けてバルカン砲を発射した。
一瞬だけ響く轟雷のような音、そして、数百発の機銃弾。それが、ルゼリアを串刺しにする。煙で黒くすすけたドレスが、真っ赤に戻り、ぼろきれになってはだけた。いくら典型的な西洋美人のスタイルの良さを誇ろうと、血でぬらぬら湿って骨まで赤く染まったまま露出していては、なまめかしくもなんともない。
さかさまに落下し、脳髄を半分むき出しにしながらも、彼女は手を広げた。
「…迷惑、かけるわね…
ああ、死ぬの…?
ぐっ…
あっ…
発、動…
…っつ…
…わた…し...
…『sp tia …q ua』?」
瞬間、空に、漆黒の魔法陣が展開された。
九州全土を覆うほどの魔法陣。同時に、攻撃機隊は、頭痛とともに、叫び声を聞いた。
ー「ぐっ、がっ、rsdffzxcws、mkjfgdfvdrfzdfxcs!!!!!」ー
なんの意味もない、狂わせるような苦痛の叫び。
そしてー
ズ!
ー衝撃が、攻撃機隊を襲った。
「た、隊長!機体が制御できません!」
「な、お前の機、レーダーから…消えて!」
「そんなっ!」
「SOS,SOS!誰かおうと…!」
計器が次々アラートし、何もかもがあり得ない数値を示し、エンジンもレーダーもすべてが停止し、ミサイルが砕け散り、すべての画面がブラックアウトし...
ー実際には、すでに、F-35の姿は、一機もなかった。
―*―
2040年7月27日(金)、アメリカ、ワシントン、国防総省
「閣下、これが、世界各地の重力波天文台の、2日前の観測結果です。」
差し出されたグラフ。
-重力波は、重力場の振動による波である。それは空間の伸縮となって現れ、そのため世界各地の埋設装置ー日本のKAGRAのようなーによって検出が可能である。しかし、重力波自体が弱いためにブラックホールの衝突のような大規模な重力変動でもなければ検出できる強度に達しない。
だから、全世界の検出器が、一様にすべての波長帯で、測定限界をはるかに超過した数値を同時に記録する、なんてことは、あってはならなかった。
「…このデータは、何を示している?」
「…2日前、第七機動部隊全機を消失させ、本隊にも撤退を強要するほどの損害を与えた謎の現象が、空間そのものの振動であることです。」
「…空間そのものの振動?」
「はい。これを防ぐ手立ては、人類には存在しません。」
「…それでは、この攻撃の限界は?」
「…わかりません。しかし合衆国への脅威には間違いありません。」
「…少し、大統領と、相談してくる。」
―*―
2040年7月28日(土)、太平洋上、高知沖、護衛艦「かが」艦橋
「この攻撃、心当たりはあるか?」
朝本陸将補が机に乗せたのは、数枚の写真だった。
空中で子供が力いっぱい投げ捨てたかのようになってから砕け落ちる飛行機、大きくゆがんで地割れ状のひびが入った灰色の軍艦、無理に両側から押しつぶしあるいは引っ張ったかのようになった尾根...
まるで、何かの癇癪の痕のような惨状。
ルイラが、額を押さえた。
「…ルゼリアさんにここまで!やらせるって!何したんです!か?」
いつになくルイラの声が、責めるようなものになっている。
「…ミサイルやレーザーによる飽和攻撃だと聞いている。ドレスの魔女は死んだ、とも…」
「死んで!ないですよ…!」
「えっ?」
「…この魔法、『震空《スぺ―シアル・クエイク》』!です!」
「効果は?」
「…お父様は!死にかけた時!本能で魔力を暴走させて!世界のほうを歪ませて自分を救う!魔法だって言ってました!」
「…世界を歪ませる?」
「はい!空間ではなく世界そのものに!地震を起こして!事実すらも!歪ませる!そういう、魔法です!」
「…なんてこった…それは無茶苦茶すぎるぞ…」
「…私たちが魔王軍と呼ばれるようになった!原因!ですから…!」
「…察するに、強くなりすぎて目をつけられた、と…」
「…はい…!とりわけ!2帝国が!狙っている地、でしたから...!
…まさか、空間以外を!揺らせるようになって!拷問中に!ひねりつぶされるとは!思わなかったようですが…!」
「…ある意味、覚醒だな。」
「はい…!アディル軍にさらわれたルゼリアさんが!町ごと破壊して戻ってきた時!お父様は!戦争を始めたんです!」
「…およそ何もかも、事実でさえも破壊できる可能性が、致死状態に限るとしてもあるとすればな…
世界そのものを空間に地震を起こすようなやり方で歪ませる…仮に衝撃的な正体を知らなくても、攻撃機はおろかフネじたいぶっ壊すような空間震だ。見た目からして凶悪すぎる。
…覚悟した方がよさそうだな。」
―*―
2040年7月31日(火)、東京千代田区永田町、首相官邸
「た、大使殿、本気で言っておられますか?」
「はい、首相閣下ならばわかっていただけるかと思ったのですが…」
「いや、でも…我が国の国土に核攻撃など、とても許されることでは…!」
「到底許されないのはそちらです。何も我が軍の若者の命が失われたことまでは申しませんが…
…異世界の魔法は、物理法則を完全に逸脱しています。その結果としてこれほどの、想像の埒外の空間のひずみも生まれた!
…これ以上魔法を使用する勢力を野放しにすれば、宇宙が耐えられなくなって崩壊する可能性すら指摘されています!
首相閣下、もう、魔法を使わせるわけにはいかないのです!」
「…しかし、我が国としては、国土への核投下を容認するわけには…!」
「…では、敵性条項を以て国連軍として行うことになりますが…」
「…国民には、事故だと言えるようなカタチにしていただけませんか?」
「大統領閣下に伝えておきます。」
―*―
2040年8月7日(火)、太平洋徳島沖、護衛艦「かが」艦橋
「…朝本陸将補、どうして南下しているんですか?」
「…中井君、よく気づいたね。」
「…内川田グループは防衛省にも納品しているのは御存じですよね?」
「なるほど、いくら隠匿しても無意味だったか。」
「…どうしてなんですか?何か、私たちに言えない理由があるんでしょうけど…」
「…君も、内川田グループ会長夫人となるつもりなら、今のうちに学んでおくといい。
…重責ある大人が本気で隠そうとしているなら、いくら揺さぶったところで、真相は話してもらえないものだ。」
「…そう話したって事実だけで、私の初恋の人には充分だってわかって、言ってますか?」
「それは軍機だ。」
「…理解しました。」
私は、すべて亜森くんの予想通りに推移していることに驚きながらも、場を後にした。
―*―
「…米軍は、覚悟を決めたか…」
「亜森、どうなるんだ?」
「…普通に考えれば、いくら「魔王」とはいえど、核攻撃に耐えられるとは思えない。異世界の魔法でもあの3人は規格外だというルイラの話を鑑みると、ルゼリアを『震空《スぺ―シアル・クエイク》』を使う間もなく蒸発させられれば勝利は固い。
でも、これまで僕らは、そんなまともな推測の埒外にあることを目の当たりにさせられてきた。
とりわけ、ルイラ自身はテライズが魔物を作り生物に干渉する以外に魔法を大規模攻撃に使うのを見たことがないらしいが、とはいえ『魔王』の称号に自負がないわけがない。予想もしない隠し玉を持っている可能性もある。
…結果も読めないのに、悪手だ。ただ、この理屈だとそもそも悪手しかないが。」
「…それで、この先どうするのが正解なんだ?」
「…官邸がそれだけ覚悟を決めたなら、僕らがどうにかできる話じゃない。様子を見守るしかない。
…逆効果に終わるか、テライズが死ぬか、どっちにせよ僕とルイラには辛い結果になるけどな。」
…それを直視して客観的に考えられる亜森は、マジですごいやつだ。
―*―
2040年8月9日(木)、グアム、アンダーセン空軍基地
轟音を発し、巨大な三角形が、滑走路から持ち上がる。
真っ黒な、上にはなにも飛び出していない平べったい姿。後ろ側こそカクカクした線で構成されているとはいえ、エイのような胴体が浮き上がり脚をしまい込むと、もはや飛行機とはだれも思えない。
アメリカが誇る無尾翼全翼機、B-21レイダー。ボマーのBが示すとおり、まごうかたなきステルス戦略爆撃機ー破壊を告げる死の鳥である。
「こちら、『ボックス・カーⅡ』。天候は良好。これにて、第七機動部隊のかたき討ち任務を開始する!」
―*―
2040年8月9日(木)、九州、長崎上空
黒い怪鳥は、雲の上、はるか成層圏から、アクティブレーダーを一瞬だけ使用して目標を認識し、爆弾槽を開いた。
長さにして3,67メートル、直径はわずかに45,7センチ。たったそれだけのロケット型の白い筒が、クルクルと落ちていく。雲を突き抜け、真下、かつて一度、原子爆弾により取り返しのつかないほど人類の愚かさを示した地へ。
ピカッー!
太陽が二つに増えたかと思うほどの、閃光。
通常爆薬による爆縮レンズで圧縮されたウランによる臨界核爆発により圧縮された重水素・トリチウムの核融合反応。
B83水素三重爆弾は、確かにそのスペックデータを十全に発揮し、4億度にも達した中心温度と、地球を一周することも可能な衝撃波を発生させた。
-はずだった。
次の轟音、ドーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!は、いつまでたっても、訪れなかった。
光以外のカタチではエネルギーは放射されず、B-21の線量計は0を示し続けた。
爆発成功を表す残光だけが、ゆっくりと薄まっていった。
核攻撃は、失敗した。
―*―
「…これで、高天原への天の路が、完成できる...!」
私は、魔法陣輝くマントを絞り、中の途方もない力を神器に注ぎつつ、感慨にふけった。
ここまで、長かった。
「陛下、さすが?」
「いくら『意変光』でもその中の有害な光を変換しきれないだろうに、『魔王』は伊達ではないである。」
「…そんなことはない。二人の研究協力があってこそ、ここまで来れた。」
「あーら、最後までついていくのに?」
「未だ道半ばである。姫を取り戻し、救わねばならぬある。」
「…そうだな!」
次回、ついに、決戦へ。計6か国8勢力が高千穂峰に集結することになります。
ーそれぞれにそれぞれの思惑があって。
ーそれぞれが、一切の理性をかなぐり捨て。
-その時、ただ一つ、魔王の呪いを受けない合理主義者率いる集団は、何を選ぶのかーいや、選べるのか?
そして、父娘が再会したその時ー
-「天地をないがしろにする禁忌」の正体が、語られるー