6 海戦ー第二次日本海海戦波高し
※くどいようですが、実在の国家、組織、その他諸々とは一切関係ございませんのであしからず。
ー草薙剣は、破壊されたと言えどなお、未だ失われてはいなかった。
最後の神器を巡り、中露の後押しを受けた世界帝国が、ついに日本へ侵攻する。
ー再開戦の場は、出雲ー
ー*―
2040年7月6日(金)、島根県出雲市出雲大社
どこからともなく出現した「新たな八尺瓊勾玉」を護るため、荘厳な神域であるところの出雲大社を、いかめしくも戦車隊や自衛隊員が包囲している。
外側に向けられた砲口は、何者をも通さないという鉄壁の決意の比喩だった。
上空では、ヘリや無人機が四六時中飛び回り、監視体制を築いていた。
ーだから誰も、まっとうに出雲が攻撃を受けるなど、想定すらしなかった。
―*―
2040年7月6日(金)、日本海、出雲沖
「艦長やべえっすよ、海自は絶対に気づいてますわ。」
「おい、少尉、士気が下がる。」
「…攻撃をしてこないのに、あなた方はどうしてそう言い切るのですか?」
「そりゃあ、海自の対潜能力は世界一だってもっぱらの評判ですからねえ。」
「…ふーん。まあいいでしょう。もとより気配遮断の術式をかいくぐる手段など敵にはないようですし。見つかりはしませんよ。」
「…貴殿がそういうのならそうなのだろう。しかし…
…貴殿らが何をしようと勝手だが、正直、落ち着かない。」
「そうですか。」
改キロ級潜水艦の狭い艦橋でささやくように話すその男を、日本人ならこう評しただろうー「狐」と。それまでに細くとがった顔と細い目、それ自体、彼が地球人類から多少逸脱していることを示していた。
しかしまあ、そんな身体的特徴は、狐顔の足元で回転する文字の挟まれた同心円の前には、些細なことではある。それはとりもなおさず、このロシア海軍の現役主力潜水艦に乗り込んでいるのが、異世界の魔法使いであることを示していた。
「…とにかくだ。俺は大統領閣下直々の命令で作戦を遂行している。そして命令文には、必ずしも貴殿らを救助し連れ帰らなくてもいいことになっている。
…勝手にするんだな。」
「ええ、私としても、それくらいの立場がちょうどいい。」
「…ちっ」
「艦長!攻撃予定地点です!」
「…了解。
…貴殿ら、とっとと荷物まとめて出ていくんだな。そうしなきゃウラジオまで絶対に出さんぞ。」
「同意ですよ。
…バラン!上陸だ!」
「りょーかい。」
艦の奥からぞろぞろと、杖やほうきを携えた一団が現れる。戦場をなんだと思っているんだとロシア軍人たちはあきれたが、しかし、バランと呼ばれた男が杖を垂直に立てて「皇帝陛下の御為に!」と叫んだ瞬間全員が直立不動となりまったく雰囲気が一変したのを感じて、驚いた。
一年以上魔王軍と世界大戦を繰り広げたアディル帝国軍は、実のところ地球人の誰よりも戦争をしている。しょせんは「紛争地域にとどめを刺しに行ったことがある軍人と知り合いである」程度にしか戦場を知らないロシア軍人とは、迫力が違う。
気圧されつつ、それでもロシア軍人たちは、命令に忠実だった。
「急速浮上!目標出雲!3M14E巡航ミサイル、発射用意!」
「急速浮上!」
「巡航ミサイル、照準完了を確認!」
「発射管開け!」
「海自の哨戒機レーダー波感知!」
ーああ、これで、日本との戦争は、避けられない…
「艦長…」
「…仕方がない。ミサイル発射ぁ!」
クラブミサイルシステムから吐き出された極超音速ミサイルが、海上を、衝撃波で海に波紋を描きつつ南下していった。
―*―
2040年7月6日(金)、島根県出雲市、出雲大社
「朝本陸将補!大変です!」
「どうした!?」
「北方より、マッハ10超で迫る飛翔体アリ!間に合いません!」
マッハ10ならば秒速3,4キロ。狭い日本海の、もし対岸から発射されたのだとしても、到底どうなる距離ではない。
「全隊に告ぐ!対爆防御!」
やむなく朝本はマイクをひっつかみ、叫んだ。
直後、どこからか爆発音がとどろく。
「ちゃ、着弾しています!」
「発射源は!?」
「海上の潜水艦です!数は20!ロシア潜!」
「は!?」
日本の対潜感知技術は世界トップレベル。そう簡単に、20なんて膨大な仮想敵の侵入を許すとは思えない。
―いったいどうしてそんな事態になった?
朝本は、一瞬躊躇した。彼らの平穏を再び乱すのは、褒められるべきことではない。
ーそれでも本官は…
―*―
2040年7月6日(金)、山形県某市
ラ~ララ~ラララ~
突然に、授業中の教室に、若干神秘的な音が鳴り響いた。
「亜森流羅さん、端末をきりなさい。授業の邪魔です。」
国語科の女教師が、電子黒板に置いた手を離し、注意してきた。
「はい!ええと...!」
ルイラが制服のポケットから端末を取り出し、マナーモードにしようとしている。
-いやな、予感がした。
「ルイラ、ちょっと貸せ。」
「あ、はい!」
端末の表示を確認する。…「自衛隊異世界対策部隊」、やっぱりか。
「先生、僕とルイラは早退します。すみません。」
「…仕方ありませんね。他の先生には私から伝えておきます。」
物わかりのいい先生で、助かった。
―*―
「それで、なんですか?朝本陸将補。あ、昇進おめでとうございます。」
「…おや、数真くんもそこにいるのか。ちょうどよかった。
…急で済まないが、ルイラ君、魔法に、『音を伝わらなくする』ものはあるかい?」
「…音?」
「ちょっと待ってください。なんで突然?」
「…きみたちを巻き込みたくはなかったんだが…
…いいか、軍機だから絶対漏らすな。つい先ほど出雲地方に、数十のミサイル攻撃があった。発射源は海上の潜水艦、それも10以上だ。わざわざ潜水艦を持ってこられたことからすれば敵は上陸を企図している。」
「…それって、戦争になるってことじゃ!」
「そうだ。ルイラ君が『魔王軍には存在するだけで呪いで戦争を誘発する』と言っていたが、こういうことか…
それで、それだけいたにもかかわらず浮上されるまで我々はその存在に気づけなかった。さすがにおかしい。これは何か、ソナーをかいくぐる方法があるのではと思ってね。」
「…ソナー!が、何かは知りませんが!敵に見つからない魔法なら!あります!奇襲用の軍事魔法!『気配遮断』です!」
「それは、いかなる効果が?」
「直接目で見る以外の!すべての感知方法を!遮断します!」
「ソナーもやられたか…」
「でも!『透明化』がある魔王軍は!そもそも!『気配遮断!』なんて使わないですし!」
「すると、君が教えてくれた世界帝国二つのうちのどちらかか?」
「はい!神に仕える神軍は奇襲なんかしませんから!おそらく!陸上国家!アディルかと!」
アディルという国家の話は、ルイラから何度か聞いた。皇帝の下で直轄領と朝貢領からなるロシアよりずっと広い国土を統べる、アレキサンドロスや大元ウルスの成功版のような国家、そして同時に、対魔王軍戦争において、参加勢力で最もえげつないことをした武装勢力。
「魔法なしに!アディル軍と戦うのは!無理です!」
「…そうは言われても「閣下、敵襲です!」...もう、始まってしまったようでね。切るよ。」
「あ、ちょっと!?」
ピ。
…はあ。
「…数真さん!あの!私!」
「…ああ、わかった。」
もう一度、誰にも知られない英雄に、なりに行くか。
―*―
2040年7月6日(金)、島根県出雲市
「周辺域の全艦艇に告ぐ!敵勢力と思われる上陸用舟艇を拿捕、さもなくば撃沈せよ!」
そんな命令を受け、巡視船「いわみ」は、ロシア潜水艦から出てきたと思われる上陸用舟艇を追っていた。
高速で波を引いていくモーターボートに、30ミリ機銃の照準が合わせられる。日英中朝露その他の言語で警告が発せられている。
しかしモーターボート側は、気に掛ける風すらなかった。
「繰り返す!停船せよ!」
「船長、どうします?」
「…威嚇射撃を行う!」
「威嚇射撃了解!」
放水銃が、モーターボートに向かって高圧水流を吐き出した。一筋の水の下に、虹がかかる。
モーターボートの後ろが、輝き始めた。
青色の三重同心円が浮かび、円と円の間に書かれた文字のようなものが回転し始める。
巡視船の船長は、底知れない悪寒を感じ、とっさに転舵を指示した。
同心円の中心から、ビームのように何かが巡視船へと一直線に突っ込んでいく。
ガッ!
ビームのような何かは、船橋の壁に5センチほどの丸い穴をあけ、反対側に突き抜けた。
わずかに貫通穴のあたりをしたたる水を見て、誰もが真っ青になる。どうしても、十数メートル向こうから放たれた鉄板をものともせず貫通するビームの正体が、自分たちと同じ超高圧ジェット水流だとは信じがたかった。
ビームが、船橋を移動していく。
人体もかすっただけで危ない、そう感じた保安官たちは、慌ててかがんだり飛び越えたりして、横切っていく水流ビームをよけた。巡視船自体、大慌てで面舵を取り右へ旋回していく。
「我海上保安庁巡視船『いわみ』、ジェット水流によると思われる攻撃を受く!ただちに」
瞬間、水流が配電系統を直撃し、通信はおろか全てがブラックアウトする。
水流が大きく船橋を薙ぎ、船橋の上半分が切り離されてどこかへ飛んでいった。
「…このままではマジで沈められますよ!」
「やむを得ん!撃て!」
船首の30ミリ機銃が、非常電源を以て火を噴く。
殺到する火線が、モーターボートの後ろに展開された青い同心円を貫通し、そして、火花をあげた。
「待て!なぜ、当たっているのに、沈まない!?」
「船長アレ!」
部下が、双眼鏡を手渡す。
双眼鏡でモーターボートを見て、船長は絶句した。
青い同心円の背後に隠れ、灰色の同心円が回っている。そこでひっきりなしに散る火花。それが、「巡視船の30ミリ弾をはじいて」いることは、直感で分かった。
離れた位置から巡視船を切り裂いていくジェット水流に、機銃弾をはじく謎の光。
人間、人智を超えた事態に陥ると、受け止めきれないものである。
船長は、へなへなと座り込んだ。
直後、魔法陣から発射されるジェット水流は巡視船のへさきから船内に突き抜け、機関部が砕け散り、水蒸気爆発によって巡視船「いわみ」は爆発、吹き飛んだ。
―*―
巡視船数隻が相次いでSOSとともに消息を絶つという異常事態に対し、沖合から海上自衛隊の護衛艦が南下を始めた時、その報告はあげられた。
「哨戒中の海自機より入電!海中より浮上する物体複数!」
「敵潜か!?」
「敵かどうかは...国籍出ました!中国!」
「対潜戦闘用意!」
「対潜戦闘よーいよーそろー!」
-もしこれが普通の潜水艦であれば、対潜ミサイルがロックオンされた段階で、その運命は決まっていたのかもしれない。しかし、潜水艦、否、その乗組員は、普通ではなかった。
「『これは聖戦なり。我ら天道を往く!』」
「『これは聖戦なり。剣は何より早く悪を滅する!』」
法王のような服を着た男たちの目の前に、銀色の光からなる同心円が、何層にもわたって形成された。
ある直線上を神域となして、なにものからの妨害も拒絶する魔法「天道」。
剣に付与し、神敵まで神敵が発揮できる最大の速度で直進させる魔法「神追」。
この二つを複合させると、絶大な効果が発揮される。
事前に船体外部に設置した剣は、「神追」により護衛艦のマッハを超えるミサイルと等速で動く。その周囲の水の抵抗はすべて「天道」でなかったことになり、結果、衝撃波どころか波一つ立てることなく、剣は護衛艦を真上へと貫通した。
重力の妨害すら「天道」は拒絶するーうまく使えば天空へと飛び出せるから「天道」なのであるーので、剣ははるか宇宙まで飛んでゆく。
剣数本が貫通したくらいで、どうにかなる護衛艦ではない。しかし次に「神追」がかけられたのが剣ではなかったことは、さすがに致命的だった。
「『これは聖戦なり。万物を浄化する神水よ!』」
潜水艦の前面に、銀色の巨大な魔法陣がいくつも重なり合う。その周りから、魚が押し出されるように遠くへ。
「『これは聖戦なり。剣は何より早く悪を滅する!』」
瞬間、「神追」で加速された水の塊が、摩擦・抵抗なしに海中を急上昇した。
角ばった護衛艦の中央、真下から真上へ、水でできた巨大な剣が突き抜ける。
箱型の艦橋が水に吹き飛ばされ、透明な巨剣が空高く直進していった。
浸水過多となった護衛艦は、みるまにずぶずぶ沈んでいく。
犠牲は一隻では終わらず、あちこちで護衛艦の中央から透明な剣が飛び出す。そして、7隻の艦上構造物が宙を舞ったのち、やっと惨事は終わった。
複数の大穴が空いて沈みかけている艦や、複数の攻撃を受けて砕け散っている艦がある中、それでもAIが残存艦からの対潜ミサイル発射を指示した。
VLSのふたが開き、中から一本ずつ、対潜ミサイルが飛びあがる。ミサイルはそのまましばらく飛翔、目標の真上でパラシュートを開いて着水、格納されていた対潜追尾魚雷が海中へと潜っていく。
「『これは聖戦なり。不浄なるすべてを絶せよ!』」
瞬間、潜水艦の前後に、魔法陣が現れて回転を始めた。7つの同心円からなり円と円の間には細かい文字が数千数万と書き込まれた、考えうる限りのすべての攻撃を遮る鉄壁の城郭防御用神聖魔法が、対潜ミサイルの爆発を抑え込む。水中衝撃波も弾片も、すべてが魔法陣にぶつかって、泡立つ海の中を潜水艦が浮上していく。
魔法陣を光らせつつ現れ、ハッチを開き司祭のような白い法服の集団を船外へ出す潜水艦。
前後で魔法陣に押しとどめられるミサイルの爆発が、日本側の無力を示していた。
―*―
「…この強力な魔力…軍司祭でもないとありえんぞ!」
「どうするの?」
「…おそらく、門を閉じ切っていなかったのだろうな。ルゼリア、破壊できるか?」
「私たちでは破壊力が足りない?」
「…増援は増える一方か。あまりこの世界を巻き込みたくはないが…」
「叩き潰すであるか?」
「…そうしよう。勾玉をとられては面倒だ。」
「了解?『波長槍』?」
―*―
2040年7月8日、島根県出雲市
護衛艦隊は、接近すら不可能である。それが、司令部の下した結論であった。
護衛艦のミサイルは、効いていない公算が高い。さらに言えば、対艦ミサイルはゴムボートのようなものを照準することは出来ない。
無人攻撃機による対戦車ミサイル攻撃も計画されたが、対潜ミサイルを完全に無効化する魔法的防御の前に、効果は悲観的。
もはや、水際防御しかない、そう考えて陸自は早くも西側の海岸の砂浜に塹壕を掘り始めていた。
一刻も猶予はならないと、あわただしさを増す一帯。しかし、突如にして世界が真っ暗になる。
-この場にルイラがいれば、突然空間が光を失う現象を、バギオの「意変光」によって「目に見える光」が「目に見えない光」に変換されてしまったからだと断定しただろう。しかし魔法陣の発光そのものすら変換されて見えない状況では、誰一人対応できない。何しろ光がないので、全員視力を失ったような状況だ。しかも光ファイバーやレーザー照準器までも変換の影響を受け、実質自衛隊は戦闘能力を喪失した。
電波もまた変換を受け、ためにGPSデータを受信して飛行するタイプの無人機がすべてあらぬ方向へ飛んでゆく。
異世界での魔王軍圧勝の最大の要因の一つ、その呼び名はシンプルに「夜」あるいは「夜以上の夜」。あらゆる光が消える状況で、「波城壁」を上からくらえば、振動に砕かれるより他に未来がない。
「なっ、まさか、敵は中露だけじゃないのか!?」
遅まきながらも下手人を察した朝本が、手探りでもすぐに避難するように命じた。
「そうだ、勾玉!」
朝本が、机の上に置かれていた木箱を手に取る。
バサバサッ
「な、なんだ!?」
顔を何かに強くたたかれ、驚いて朝本が手を緩めたその隙に、何かが木箱を引っ張った。
「こっこら何をする!?」
何かがひっきりなしに木箱にぶつかり、そして、バキッという折れる音とともに、木箱が軽くなる。
そして、何かの群れが、バサバサハ音を響かせて飛び去って行った。
「…勾玉は!?手探りでいい!捜すぞ!」
-しかし、大の大人が何人床を這いつくばり手のひらを広げて床を撫でさすろうとも、勾玉は見つからなかった…
―*―
夜になり、やっと、戦場に光が戻ってきた。
電波までも変換の憂き目を見たために体勢はめちゃくちゃだったが、それでも、自衛隊員はまたくじけ切ってはいなかった。
迫りくるモーターボートに対し、戦車砲の照準が合わせられた。
もはや愚直に専守防衛などと言ってはいられない。だから巡視船「いわみ」は沈んだのだ。容赦などかけている場合ではなかった。
120ミリ戦車砲が、相次いで砲弾を煙とともに吐き出す。
海上に、いくつもの魔法陣が屹立した。すべて、圧巻の文字数がその魔法の精密さと強力さを物語る。
魔法陣が無敵の盾となり、砲弾はすべて魔法陣で爆発させられてその向こうにダメージを与えられない。
逆に、赤色の魔法陣が現れ、回転を始め、火の玉が中央から発生し始めた。
ーその時、赤い光が後ろから、ゴムボートを襲った。
ゴムボートが次々、赤い炎に呑まれていく。
「な、仲間割れか?」
―*―
「な、後ろから攻撃、だと!?」
「ディペリウスの神聖魔法です!」
「あんの腐れボウズども!海の上だからってでかい顔しやがって!」
本来が匈奴やモンゴルのような陸上国家であったアディル帝国軍には、海上戦闘のテクニックが乏しい。ために、海洋国家であるディペリウス神国軍の攻撃を耐えることなど、できない相談だった。
そもそも神に仕える身であることを自慢するディペリウスの軍司祭は、手間がかかるが大規模な術式を組むことにたけている。海上をスキーのように滑る魔法など、造作もない。モーターボートで船酔いしかけている連中とは訳が違う。
「急げ!陸にあがりゃこっちのもんだ!」
「んなこと言っても!」
そしてまた、陸自も、そんなもめ事を見逃すほど間抜けではない。
ドローンの編隊が襲来し、機銃を撃ち鳴らす。
「くっ、結界を展開しろ!」
血を吹いて倒れる仲間たちを見て、彼らは初めて、上空からの攻撃の存在に気が付いた。
結界を急遽展開するが、飛び回るドローンはすでに魔法陣の隙間を撃つプログラムを持っている。簡単には防御できない。
全周防御の結界が張られたときには、アディル軍はかなりの犠牲を出していた。
―*―
グォッ!
突然、北の山から、炎が吹き上がった。
「まさか、あいつらっ…!」
戦慄を禁じえない。出雲大社の北側は山と深い森、西はすぐ海だから、普通に考えたら西側で水際戦闘になるはずなのに…!
「あいつら、北を吹き飛ばして突っ切ってくるつもりだっ…!」
「マジですか!?」
「ああ…
…もしもし?
ルイラ君、今どこに?東京?新幹線?そうか…済まない、山一つ吹き飛ばすあるいは破壊する魔法は…ある!?
山が燃え上がり、次いで凍り付き、それを何度も繰り返して、とうとう山が崩れ去る…」
見れば、北に燃え上がる炎は、まるで幻でもあったかのように消え去っていた。
…きっと、熱膨張と収縮を繰り返させて弾性疲労を起こし破壊に至らしめる魔法なのだろう。しかし、もしかしたら向こうのイメージする山が丘ぐらいの代物なのかもしれないが、戦略級と言っていいレベルの破壊力、尋常じゃない。
「それはいったいどうやって…?100人以上の司祭が?」
異世界とやらの力に、改めて畏怖する。
「北側の兵力は持ち場の範囲内で南に寄れ!海自と空自に連絡、北からくる連中を排除しろ!」
そんな連中が大挙して国内に侵入すれば、誇張抜きに日本は滅ぶ。
すぐにミサイルの飛翔音が空に響き始めた。無人攻撃機の羽音もする。
再び、北のほうが赤く光り始めた。何か岩が崩れるような音が混じっている。
-本官は本格的に、撤退を検討し始めていた。
―*―
2040年7月6日(金)、神奈川県横浜市
「康介、中井、よかったのか?お前らまで早退して。」
「そうです!戦争に!巻き込んでしまうかも!しれないんですよ!」
「亜森くん、ルイラちゃん、水臭いよ?」
「せっかくパトロンになってるんだ。ついていかせろよ。」
パトロンってお前な…
「…わかってるんだろうな?
ニュース、検索結果、そして朝本陸将補からの問い合わせ。これらを鑑みるに、現地は既に完全な戦争状態に陥っているはずだ。新幹線も止まった。帰ってもいいんだぞ?」
僕はルイラについていくけど。…また親に黙って出てきてしまったしな。
「何言ってるんだ?亜森2回目だろ。親に口座止められるぞ?俺が帰ったらどうやって旅費を手に入れるんだよ。」
いや、いくらでも手はあるが。
端末に送られるニュースは、事態がのっぴきならないことを示している。
-島根県出雲地方沿岸に、中国およびロシアのものと思われる潜水艦多数が領海侵犯。-
-出雲地方において、未知の攻撃手段を用いる武装勢力と自衛隊が、戦闘状態に。護衛艦7隻、巡視船多数が沈没。政府は島根県全域に避難指示。-
街頭テレビでは有識者を名乗る人々が、「政府の対応が後手後手に回った」などと評している。しかし富士での経験からすれば、実際政府も自衛隊もどうしようもなかったのだろう。
もともと、ミサイルは船や戦車や飛行機を狙うことはあっても、「対人ミサイル」なんてない。個人で行われ甚大な被害をもたらす魔法攻撃は、現代軍事技術との相性が悪いのだろう。
「それでどうするんだ?」
「一泊する。交通機関がだめなら...
…まあ、向こうから迎えに来るだろう。
ルイラ、3種の神器がそろうと、どうなる?」
「お、おいちょっと待て、神器は俺が、確かに粉になって消滅するのを見たぞ!」
「ああ、康介が言うならそうなんだろう。だけど向こうがそれに気づいていないと考えるのは無理がある。3種の神器がそろっていない状況でわざわざ勾玉のある場所で戦いが起きるのは不自然、加えて、ルイラ、本当に、ルゼリアが参戦しているんだよな?」
「はい!海に丸い細い穴が開いて!船が穴をあけられて沈んだというのは!ルゼリアさんの!仕業です!」
「…中国軍の潜水艦数隻を瞬時に沈めたのは、それだけ、重要な局面だってことだろう。富士であれだけの力を出しておきながらほとんど息をひそめていたのは、本来あんまり戦いたくないからのはず。なのにいきなり有無も言わさず撃沈なんて...勾玉狙いに違いない。
…でも、勾玉をとったところで剣がなくちゃ無意味だって言うなら、わざわざ戦いに来たわけがわからない。」
「…でも、剣はコースケが…」
「…そこがわからない。わからないけど、一度新たに出現できたなら、二回目も行けるのかもしれない。それを考えなかった僕の責任だ。」
「じゃあ、剣はまた、富士に?」
「まさか。ならとっくに見つかってる。
…今まで神器は聖地から見つかってきた。だけどそれは法則で、かつ誰も見つけられていないってことは、もしかしたら、もう2本目の新たな草薙剣は取られてしまったのかもしれない。
だから、何が起きるのか、知らないか?すぐに何か起きるのか、それとも時間がかかるのか…」
「…わかり!ません…」
…それは参ったな。
その時、端末がメール着信を告げた。
-勾玉を奪われたと、本官は結論する。ルイラ君を合流させてはくれないだろうか?ー
…がっつり巻き込まれたな。
―*―
2040年7月6日(金)、島根県出雲市
200メートルを超えるはずの山がすっかり崩れ去ってしまっているのが、夜目でもわかる。その中を進撃してくる敵兵の魔法によって、飛ばした無人攻撃機は全滅していた。
確認した限り、ひどいものだ。誘導機の映像は、攻撃に移ろうとする無人攻撃機の編隊が降下し始めた時、法服の人々が掲げた杖の先で丸い魔法陣が現れ、光の網が杖の先から飛び出して無人攻撃機をからめとり空から引きずり下ろす様子を示していた。
戦車隊が、がれきを乗り越えてくる敵に対し、砲撃を行っている。しかし敵の前面には無数の魔法陣が立ちふさがり、揺らぐ気配はない。
西の海岸では、ゴムボートから砂浜へ降りた敵兵が見慣れぬ茶色と赤の混じった旗を立て、塹壕や退避壕に退いた味方と交戦していた。携行式の対戦車砲まで用いても、徒歩で現れた彼らの進撃を止めることができない。
「朝本閣下、上を!」
上空の映像が、異変を示す。
星空の星を、覆い隠すように広がる、銀色の魔法陣。文字らしきものが無数に回転している。
…あ、死ぬな。
ルイラ君に教わったことによれば、文字の文章で魔法の内容を指定し、同心円を魔力の回路にしているらしい。だから、文字が多いほど精密・複雑で、円が多く大きいほど魔力が多く威力が大きいのが通例だという。ならば、全天を埋め尽くすほどの魔法陣の効果は、計り知れない。伊勢では当時市内にいたすべての鳥を支配し魔物に変えてしまった。
どうしようもない。死にたくはないので皆を促して机の下に入る。
…だが、いつまで待っても、覚悟したようなことは、起こらなかった。
―*―
「何?魔王が北上している?神器の魔力反応は?」
ディペリウス軍の指揮を執る戦務神官パーシム・シュライヒュサは、白いひげをさすりながら部下の報告を聞き、白い眉をひそめた。
「北上するより手がないようですな神器を手に入れるためにも」
杖が魔法陣を横にまとう。
「行きますぞ一同『天地の定めをないがしろにする禁忌』は我らが神のもとにお納めするべきなのですからあのような邪道の者どもに渡すべきではありません。」
空の銀色の魔法陣に向けて賛美歌を歌っていた軍司祭団は、その一言で一斉に杖を横に振って魔法陣を雲散霧消させ、杖に魔法陣をまとわせ、がれきの山を杖でなぞって平らにしながら戻り始めた。
彼らの後ろで、魔法陣にぶつかる銃弾が、力なく落ち続けていた。
―*―
2040年7月6日(金)、竹島沖
日本海海戦でも戦場になった通り、日本海の半ばにあるこの島は、争いの地にある運命らしい。
だがしかし、内心「魔王」テライズ・アモリは慌てていた。「まさか、こんな小島に人がいるだと!?」と。
係争地である竹島には韓国軍が駐留している。しかしテライズにとってはただの小島にしか見えず、一休みしようと思った時に北の鬱陵島より無人島っぽい島を見つけ、誰にも迷惑が掛からないだろうと降りようとしたのだ。
「…手を振って一言断ったら降りさせてもらえないだろうか?」
「無理そう?」
「殺気立ってるである。」
係争地に突然空飛ぶ人間が現れたのだから、誰だって殺気立つに決まっている。ましてその時、自衛隊に余裕がなかったからではあるが、竹島沖には韓国海軍のフリゲートが航行していた。
「…やむを得ないか。」
横をかすめていく銃弾をつかみ取って下へ落としながら、テライズはマントを両手で広げた。
マントの裏地に、無数の魔法陣が光り、回り出す。
「な、なんだあれは!」
「う、撃て!」
「ダメです!はじかれてます!」
沖合の駆逐艦からも、その光景は良く見える。
「何者かが襲来している…日本人か?いやしかし…」
「艦長!海自から、応答を求めています!」
その間にも、魔法陣の回転速度は速くなり、そしてその中から圧縮された空気が透明な弾丸となって撃ちだされる。
あっという間に殲滅された駐留軍。そしてテライズは手のひらを広げた。
海の上に、黒い魔法陣が現れる。
「こちら日本国自衛隊陸将補、朝本覚治!航行中の韓国艦に告ぐ!
今すぐそこから、駐留隊を連れて逃げろ!」
「は?」
最初フリゲート「テグ」艦長は、自動翻訳機のミスかと思った。
「いいか、そっちにヤバい奴がいる!目を付けられないうちに逃げろ!一隻じゃ話にもならん!」
次に謀略かとも思ったが、すでに日本海で潜水艦や謎の武装勢力と日本が戦闘し、多大な被害を出したことは知っている、というよりだから竹島へ哨戒に来たのだ。
「艦長!駐留隊よりSOS…あいや、通信途絶!」
「ちっ、これより本艦は救助に向かう!」
「おいバカ、やめろ!もう来てるなら、相手にならん!せめて海自が到着するまで待て!」
「艦長!水中より高速航走音!」
「魚雷か!?」
「いえ、これは一体…
…っ、衝突まで3秒!」
「総員衝撃に備え!」
-結局、朝本のアドバイスは、どのみちまにあわなかった。
海中から鞭のようにしなってフリゲートを叩き潰したソレは、丸い吸盤がびっしりついた腕でフリゲートに這いあがり、自らの重さでフリゲートを沈み込ませ、黒い墨を吐きながら潜っていった。
―*―
2040年7月7日(土)、竹島沖
南からは、日の丸を掲げた護衛艦隊。
北からは、太極旗を掲げた韓国艦隊。
一見岩だけの島にしか見えない小島をはさみ、灰色の軍艦が並走する。
「こちら日本国海上自衛隊第3護衛隊群。貴艦隊とのデータリンクを求めます。」
「…データリンク了解」
日韓両国とともに、事態の深刻さは理解していた。お互いに一線級の軍艦を喪失し、未だ出雲での陸上戦闘も続いている。この上で圧倒的な力を持つであろう竹島の「魔王軍」を放置してはいられなかった。細かいことを言っていれば国が滅びかねないと、戦慄していたのである。
しかし、韓国側では、送られてきた映像を見て愕然としていた。
「…これはもはや、我々の対応できる範疇を超えているだろう。というか、こんなことがあっていいのか?」
呆れ果てている間にも、両艦隊の指揮AIがリンク・並列処理を開始し、照準までを導き出す。そうなればもう、することはほとんどない。
「こちら韓国艦隊、発射準備よろしいか?」
「こちら護衛艦隊、発射準備よろし。」
「「3、2、1、撃て!」」
ポチ。
5インチ及び3インチの単装砲が、北と南から同時に火を噴いた。
絶え間なく小さな煙を吐き出し、2・3秒に一発、榴弾を竹島に向けて発射する。
一分足らずで岩山が砕けてまっ平になる、その様子を、誰もが想像した。
「『波城壁』?」
その時、レーダー画面がゆがんだ。
電磁波異常を伴うほどの強烈な微少振動の巨大なドームが、空気中に形成される。衝突した砲弾全てが、分子を激しく振動させられ、その振動は熱運動となり、蒸発した。
赤外線関係の装置が、ドームから放射される熱赤外線によってエラーを起こす。
「海中より接近する物体複数…生物判定!?」
AIが、短魚雷の発射を指示する。
両艦隊の対潜短魚雷発射管が旋回し、MK50式短魚雷、12式魚雷が発射管から海へ投げ出され、海中深くへと潜っていく。
その直後、海中から巨大な白い腕が伸びた。
シュバッ!バシッ!
波が巻き上がり、その中から、海中へ潜っていったはずの短魚雷が飛んでくる。
ドーン!!
「イカ!?」
短魚雷はイージス護衛艦「まや」へ投げつけられ、いかに迎撃能力に優れたイージス艦と言えどもそんな攻撃を迎撃するなど思いもよらず、箱型の煙突にめり込んだ魚雷は爆発して盛大に煙を上げる。AIが「『まや』全レーダー破損により迎撃・照準能力低下」と冷静に全艦のモニターに音声で通知する。
二本三本と、タコのような赤い吸盤の付いた白く長いイカの足が、海中からぬっとあらわれては短魚雷をつかんで護衛艦隊へ投げつけた。
北の韓国側でも海が泡立ち、一般道での自動車並みの速度で航走していたはずの魚雷が、巨大なイカ足によって投げつけられる。
ソナーもまた、海中から接近してくるイカ型の物体多数を感知していた。その大きさは小さくても20メートルとダイオウイカを超え、大きいものでは50メートルに迫っている。はっきりとは予想できなくても、そんな巨大イカに襲われれば、クラーケンの襲撃を受けた木造帆船となんら変わるところがないのは目に見えていた。
さすがの戦術AIも、一瞬フリーズする。シンギュラリティを超えていないAIに、かくのごとく想定の埒外にある出来事はきつすぎたらしい。
「こちら護衛艦隊、敵を『クラーケン』と呼称したい。」
「韓国艦隊了解。」
「クラーケン5体、なおも接近!あと1分45秒で本艦に接触します!」
墨を吐いて反動で前進しているらしく、海が一部分黒く染まっている。
砲や機銃では弾が水きりのように跳弾するため、手は少ない。
「爆雷だ!爆雷投射!」
海自護衛艦は搭載している対潜ヘリから、韓国艦は潜水艇対策に小型艦に常備する投射機から、小型爆雷を海へと放り込む。
放り込まれた爆雷は、一定深度に達した瞬間爆発し、爆発の壁を水中に形成。
タコのような吸盤を持つ冗談のように長いイカの足が、水面にいくつも浮かび上がり、海面が黒く粘っこくなっていく。
「やったぞ!」
「『波長槍』?」
瞬間、韓国駆逐艦「チェ・ヨン」の船腹が、ビリビリ震え、赤く赤熱し始め、すぐに反対まで見える丸い穴が空く。そして次の瞬間、灰色の船体は、穴の両側から轟然猛火を噴き上げ、浮かぶ花火と化して漂流を始めた。
周辺の韓国艦が、巻き込まれてはかなわじと退避する。しかしそのうちの一隻が突如荒波にあおられ、転覆した。混乱はこうなってしまっては収めるべくもなく、AIがエラーを連発する。
そこへ「意変光」によるEMP攻撃が行われ、艦隊は全く機能を喪失、漂流を始める。
一方南側の海自護衛艦隊も、悲惨な状況に陥っていた。
―*―
「司令!出雲の朝本陸将補から入電です!『北上しつつある敵あり!出雲に上陸したものの徒歩で海上へ戻っていったものと見られる!』」
そう言うことは早く言え、誰もが思ったが、そう言ってもいられない。
「南方への警戒を厳とせよ!レーダーは?」
「特に何も…」
「艦長!南方、水平線に何か見えます!」
「何!?」
ならばレーダーに映らないはずはない、誤報であろうと双眼鏡を手に持った艦長は、卒倒するかと思った。
水平線より少しこちら側に、巨大な銀色の光のサークルができている。そしてその中央部には光の柱さえ立っていた。
「て、転舵しろ!まずいぞ!」
ゾワッと体を包み込む寒気を振り払うように、司令が全艦取舵を命じる。しかし、間に合わなかった。
銀色の光の柱は、みるみる背丈を伸ばし、それから、竹島めがけ一気に倒れた。
それはまるで断罪の光。ずっと南の銀色の魔法陣から竹島まで伸びる銀色の柱に呑み込まれた艦は、艦内まで空間が銀色の光に満たされ、乗組員がその光を浴びると同時に意識を失って卒倒した。
機能不全を起こした護衛艦が、銀色の光を抜け出し漂流を始める。またリンクしていたAIも、全艦で機能を停止した。
「戦術AI、データリンク、ともに完全にアウト!プログラムを破壊された模様!」
「な!?」
銀色の光の柱、神聖魔法「永凶夢」は「波城壁」をも貫いて竹島を完全に呑み込む。その中では、テライズのマントの魔法陣が赤黒く輝き、島中の魔物たちの足元にも同じ魔法陣を顕して守っていた。
光を浴びた異教徒はすべからく眠りに落ち、神罰下るまで悪夢に狂わされる、そういう本来は宣教師の自衛用の魔法も、百人以上の高位聖職者の手にかかれば数キロにわたり数百人と人工知能いくつかを一瞬で破滅するまで狂わせられる攻撃になる。そんな魔法を自身の対生物魔法とマントに編み込んだ魔法遠隔転送魔法だけで抑え込んでしまっているテライズも、さすが「魔王」の呼び名にふさわしい存在ではあった。
急遽、データリンクが切断され、個艦AIが南方の魔法陣へと脅威判定の順序を変える。そして対艦ミサイルが、VLSから無数に撃ちだされた。
上空へみるみる上がっていく白い煙の筋。クイッと下向きに曲がり、銀色の光のサークルに飛び込んでいった。
結界が張られ、光の柱が消え去る。ミサイルはすべて、水の上に立つ白い法服の軍司祭たちに届くことは出来ず、ぺしゃんと空中でつぶれて爆発していく。
しかし、上空に意識を向けた司祭たちの足元に、巨大なウミヘビが迫っていることを、護衛艦のソナーは示していた。その大きさは少なくとも100メートルを超え、UMA「グレート・シーサーペント」をさらに巨大化させたようなバケモノが、とぐろ巻いて司祭たちを取り囲んでいたのである。
海面より上に、ウミヘビというよりは竜のような、ひげと二本角の生えた頭ががま首をもたげる。そしてやにわ口を開き、5条の黒い光の束を口から吐きながら首を回した。
そのひとなぎで、海面が司祭たちごと凍り付く。その様子を睥睨し、竜の頭にウミヘビの身体を持つ怪獣は、満足したかのように首を縦に振って、海中に姿を消した。
-この時、海上自衛隊護衛艦隊にも韓国海軍艦隊にも、戦える状態のものなどいなくなっていた。
授業が忙しくなってきて、やれやれです。…今まで日3000字が目標だったのに、週ですら届いてない…(エタりません。結末まで書き溜めたので)。
さて、神器はついに3つとも魔王の元へ。そして、戦いはどこへ行くのか。
-神話をなぞる戦いが、今、始まるー