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間章(天上の意)

 富士山麓での戦闘が、地球の科学技術では不可能と思われた「草薙剣」を魔法の力を借りて破壊することで収束したのち。

 -誰もまだ、あきらめてはいなかった。

 再び、火の粉が舞い上がる…

 -君は、疑ったことがないかい?

 -ある出来事が、他の何かの踏み台にすぎない可能性を。

 -ある人が大事件だと思った出来事が、前座にすぎない可能性を。

 ー世界が揺らぐような大事件が、誰も最後まで知らないまま、使われている可能性を。

 -君たちは地上にしかいられないが、地中のモグラが黒幕かもしれない。

 -だとしても何も変わらないよ。知らないところで知らないうちに利用されてなんの害もなく終わる、そういう話だ。

 ーだから我々/私たちは、歴史を俯瞰する愉悦を味わえるのよ。

 -なに、怖い?大丈夫、踏み台に興味なんかないわ。

 -何、性格が悪い?まあ「虚ろに響く世界の理」の獲得者でまともなのは、あのお二人だけよ。

 -さてと、じゃあ兄様、テライズ・アモリに、娘を救う方法を教えに行きましょうか♪


                    ―*―

2040年2月6日(月)、島根県出雲市出雲大社

 多数の自衛隊員が、広大な出雲大社の敷地を取り囲む。一般人は締め出され、戦車や自走砲が周囲を睥睨する。

 沖合にはヘリコプター搭載護衛艦「いずも」を旗艦とする護衛艦隊が哨戒機とともに警戒を厳とし、上空からは早期警戒機(AWCS)の飛行音が聞こえる中、予想以上の厳戒態勢におののきつつ、出雲大社の神官は木箱を開けた。

 木箱から現れたのは、翠の勾玉。さして大きくもない、一見何の変哲もない勾玉。よく見ると文字のような模様が刻まれているが、それだけの勾玉。だがこれこそ、日本で一連の騒ぎを起こした新たな3種の神器の最後の一つ「八尺瓊勾玉」。

 「騒動が沈静化しましたら、すぐにお返しいたします。」

 「どうか、よろしくお願いいたします。」

 神官たちが頭を下げる。朝本もまた、深く頭を下げ、木箱を閉じた。


                    ―*―

2040年2月10日(金)、山形県某市

 「父さん母さん、頼みがある。…ルイラを、うちであずかれないか?」

 僕は、90度に頭を下げて、心の底から、願った。

 「…何があった?」

 「昨日のことを、思い返しながら。


                    ―*―

2040年2月9日(木)、静岡県小山町、自衛隊富士駐屯地

 「もう!行かれるんですか!」

 「ああ。早く帰って叱られてこないと。」

 これもまた戦後処理かなと、頭を痛める。

 「…でしたら!いっしょに!謝らせてください!」

 「…いや君は、ここにとどまるんじゃないのか。」

 ルイラの処遇は宙に浮いていた。そもそも存在自体が超法規的で、日本政府が「既存のどの国家にも属さない勢力の、既存のどの分類にも属し得ない動物を用いた、既存のどの体系にも基づかない攻撃」を受けて撃退したと発表した今となっても、存在を認めたものかはっきりしなかった。またスパイ対策もあり、当分警備体制の厳重な国家施設ーおそらく今いる富士駐屯地ーにいるのだろうなと推測していた。

 「…そうしてもいいらしいのですが!

 …私は!アモリさんに!ついていきたいんです!」

 「…それは…」

 「アモリさん、私…!

 …家に泊めていただき!ごちそうもいただき!私の話をちゃんと聞いてくれて!

 …ウチカワダさんのおかげで!変えられない未来を超えることができるってわかったのも!もとはと言えば!アモリさんのおかげで!

 …私をいつも救ってくれて!だから!

 アモリさんー」

 あ、告白されるのか。…え?本当に!?

 「-結婚して!いただけませんか!」

 「…結婚!?」

 「ダメ!でしょうか…」

 「あいや、年齢的には…」

 こくりと首をかしげるを見て、結婚適齢が異世界では10代後半なのだろうとあきらめる。説明は後でじっくりするとしよう。

 「…いいのか?

 僕は君の父さんに敵対した。偉そうに言ったが、まだ、生命力が実在しない証拠はつかめていない。もしかしたら僕は、君の寿命を縮めてしまったかもしれない。だったら殺してるようなもんだ...

 …それどころか僕は、朝本陸佐の確認を待たなかった。仮説が外れて、魔法発動後の衰弱が原因不明、本当に命を縮めているとしても、平和と君を天秤にかけて迷いなく剣を譲らなかった。それでも、それでもか...?」

 「…それでも!例え100日後に死ぬとしても!アモリさんに殺されるとしても!私はそれまで!隣にいたい、です...!」

 「…ありがとう。赦してくれて。」

 「い、いいんですね!う、うれしいです!拒絶されたら!どうしようって!私…!」

 僕は、痛々しくも点滴のつながった腕ごと、ルイラを抱きしめた。

 …ああ、これが、理屈じゃ説明できない感情、非合理的な、だけど暖かい…

 「大好きだ、ルイラ」

 「はい!カズマさん!」

 …異世界人にその呼び方されるのはイヤなんだけどな…


                    ―*―

2040年2月10日(金)、山形県某市

 「…プロポーズされた。」

 「…マジか。」

 父さんがそういったきり顔を下に向けて沈黙し、母さんが目を点にせんばかりに唖然を表情で表す。

 「…か、数真、わかってるの…?」

 「…知ってる。まだ18歳になるには多少必要だから、待ってもらうことになった。」 

 「そういうことじゃないわよ。いい、この娘には国籍すらないんでしょ?そんな娘を選んだって…」

 「…母さん、そんなことは当然わかってる。そのうえで、そうしたいんだ。」

 朝本陸佐がなぜだか事前用意していた、ルイラを無戸籍児であることにして戸籍を授ける(違法の)書類一式を示す。

 「…養子か?」

 「…そうすることが一番穏当でルイラにとってもいい選択だって勧められた。」

 「なるほど…」

 「ちょ、ちょっとあなた、なるほどって…」

 母さんが父さんに詰め寄っている。

 「…あの!迷惑!でしたら…!

 …でも!」

 ルイラが、袖をぎゅっとつかんでくる。

 「ははは、なつかれたな。」

 「他人事じゃありませんよあなた。」

 「…母さん、母さんも頼む。…もう、ルイラと離れたくないんだ。

 …僕のことを思っているのは知ってる。そのうえで、僕のために、うちであずかってほしい。」

 それは、「僕のために」は、ルイラを見て慌てて、ロクに考えもせず泥棒でないなら僕が誘拐したのかもしれないと通報した母さんに対する、殺し文句。だてに合理主義の権化扱いされてはいない。

 ……

 両親をうなずかせるのに、そう時間はかからなかった。


                     ―*―

2040年4月1日(日)、山形県某市

 「お前らどこ受けるの?」

 「ん?コースケと同じ大学♪」

 そんな話から、最終学年が始まる。

 「…それじゃあまともなレベルじゃないな。」

 「そんなことないぞ亜森」

 「…裏口にゅーがく!ですか!?悪いことだと!聞きました!」

 「…おい亜森、何てこと教えてんだ。

 …というか、よく3年の編入試験通れたな。裏口入学じゃね?」

 「康介、こいつたぶんお前の100倍は頭いいぞ。」

 「…うそ」

 内川田康介が、「ルイラを誉めたかったのか俺をけなしたかったのか…」とブツブツ呟いている。

 「たぶん!両方ですね!」

 「…お前らマジで仲いいな…

 ところで違うぞ。俺、美久に教えてもらうんだからな!」

 「…堂々と言うことか?」

 「…ぐっ」

 「で、ルイラちゃんはどこ受けるの?」

 「うーん、わかんないので!カズマさんに決めてもらおうかと!」

 「ラブラブだね。」

 「…数真ぐふっ!」

 「ちょっコースケ大丈夫!?」

 「名前で呼ぶなっ!」


                     ―*―

2040年5月16日(水)、ロシア、モスクワ大統領府クレムリン

 「大統領閣下でございまーすか?」

 「「「!?誰だ!」」」

 「…貴方たちは、何も、見ていーない。」

 魔法陣が大統領執務室の床いっぱいに広がり、大統領を除くすべての人物が卒倒した。

 「な、何をした。」

 「いえなに、我らが皇帝陛下から閣下へ、お伝えしたきことがありましーてね。」

 黒いローブに身を包み、フードで口まで隠したその男は、わずかに覗く口の下端を曲げた。


                    ―*―

2040年6月3日(日)、中華人民共和国、北京中南海

 「総書記閣下、お連れいたしました。」

 護衛の兵士大ぜいに囲まれてはいってきたその男は、恭しく頭を下げていた。好々爺ぜんとした表情とあごひげ、例えるなら「服も白いサンタクロース」といったところか。

 「これはこれは閣下ご壮健のようですな。」

 老人特有のゆったりした語調。しかし口の脇で回る銀色の1センチほどの魔法陣円は、彼がただの老人ではないことを示している。

 「さぞ我らが崇め奉る一にして全なる神々もお喜びでございましょうこのような僥倖にあずかれたこと神帝陛下もまたこのことこそ神国始まって以来の慶事だとおっしゃられかくなる上は直々にお礼賜ろうとお騒ぎになられるほどであり我ら両国の深き友好あらば世界を再び我らが神々に畏れ多くもお返しすることたやすかろうと」

 「待て待て待て」

 ゆったりと謡うような話し方でありながら、言葉を切ろうとはかたくなにしない。速記官ですら音を上げた。

 「…貴人は、どこかの国のものなのか…?」

 「はいあなた方が異世界ととらえるだろう世界のこの星において世界の海を統べ神々に捧げる神帝陛下の国ディペリウスにおいて神々に忠誠誓う一等戦務神官筆頭パーシム・シュライヒュサでございますこの度は貴国と友好を結びたく」

 パーシムと名乗る異世界の神官は、魔法陣を空中に発生させ、その中から紙を取り出した。「収納魔法ストレージ」ではなく、神の祝福を受けた者どうしが使える「共有収納ボックス」である。中から出てきたインクのにおいも芳しい書類には、ディペリウス語で「貴国との軍事同盟を一にして全なる神の唱えるも畏れ多き名のもと締結したい」という旨が書かれていた。

 翻訳魔法によって読めるようになった書類を見て、中国側は顔をしかめる。パーシムの振る舞いによって魔法や異世界の存在を否定できなくなったとはいえ、わけのわからない国家から訳の分からないことを要求されても、困るだけだ。

 「このころ東方で何か異変はありませんでしたか?」

 「東方…?半島と、日本か?」

 結局核実験後の様々な異変の理由が解明できず、賠償食糧を払って撤退する羽目になった国と、年明けから3か所において戦を繰り広げ、この世のものとは思えない怪物と戦っていたとの報告が上がっている国のことを思い浮かべる一同。

 「そのことについて教えることができますしあわよくば我らの世界をひっかきまわしたその力を貴国に授けることができますよ」

 パーシムは、魔法陣から椅子を落としながらも、誰も疑わない近所のおじいちゃんのような笑顔を見せた。

 

                    ―*―

2040年6月6日(水)、関門海峡

 船が行き交う下で、海の中を、巨大な気泡が3つ動いている。気泡は茶色いタコの足のようなもので扱われ、足の根元は5つ足が生えた5角形の平たい岩のようなものについていた。

 オニヒトデという生物をご存じだろうか?ヒトデの、足がずっと細長く胴体がずっと小さいのがオニヒトデ、そしてこの魔物はオニヒトデを胴体10メートル足100メートルに拡大し足にタコのように吸盤をつけた身体をし、足先に人が一人ずつ入った気泡をもてあそんでいた。

 オニヒトデの足一本ずつがそれぞれ鋭敏な感覚センサーとなっており、さらに気泡の中にいるのは魔王テライズ、家臣ルゼリア並びにバギオである。

 バギオが光を水中レーダーのようにして、ルゼリアは超音波でソナーのように海底を探査し、テライズは魚を従順な探査魔物に変えて、それぞれが海底をしらみつぶしに確認していく。

 岩の影、土砂の中、そういうところまで気泡は半分食い込んだり埋まりこんだりして、海水が濁る。

 「あったぞ!これが、うしなわれし真の神器だ!」

 アカエイがくわえる剣を見て、テライズは叫んだ。     

 次回より、後半戦に入ります。とうとう、事態は国際的に拡大していくのです。

 一体、ルイラを救う方法として謎の兄妹が提案した「天地の定めをないがしろにする禁忌」とは?そして、悪意・攻撃性に侵されてしまった異世界国家と接触したことにより無謀化した3大国は、どこへ行きつくのか?

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