表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

5 決戦ーフジヤマノボレ!

神話の~編前半戦は、ここでいったん終了となります。あっけない感じですみません。

                    ―*―

2040年2月5日(日)、静岡県小山町、自衛隊富士演習場

 毎年の火力演習で知られてきた草原に、10式戦車が整列する。

 一部のミリタリーオタクは自衛隊が臨戦態勢で何か動いていることに気づいていたが、ここで発砲してしまえば、平和が完全に破られたことは、もはや隠しようもない。

 自走高射砲が南を向いていくつもの陣地を形成し、大小の無人ヘリが飛び回る中、緊張感と懐疑感が高まっていく。

 「南方よりの電波ノイズ、なおも接近、静岡市上空を通過し、あと17分で到達します!」

 敵の正体は不明、あらゆる電磁波に対する完全なステルスを有し、その姿をレーダーで直接捉えることは不可能で自然電波の不自然なタイムラグから察知することしかできない、さらに戦略級の破壊力を持つ可能性があり、また地球上ではありえないような怪物を従えるー

 -この話と、「円と幾何学模様からなる『魔法陣』に気をつけろ」などという命令を受ければ、誰しも正気を疑う。だから朝本の上で総指揮を執る人々は指揮権は持っても説明義務は譲ってしまった。そうでなくてもルイラの話や山形・伊勢での報告を集積している朝本は、圧倒的な情報量から実質的な指揮権を持っているといっても過言ではない。

 直下に市街地が広がるところで、いたずらに刺激するわけにはいかない。だから超音速機を出すわけにもいかず、じりじりと現代戦ではありえないほどの接近を許していく。

 そうして、永遠のような時間が、過ぎていく。

 「閣下、そろそろ...」

 「うむ、朝本君。

 …撃ち方初め!」

 ここに、日本国はじめての、先制攻撃が行われた(駆除という名目ではあるが)。

 無音で、03式中距離地対空誘導弾の改修型をはじめとする地対空ミサイルが、大型トラックの後ろで立ち上がるコンテナから射出されていく。

 

                    ―*―

 「…コバエがうるさいである。」

 魔王軍の両臣の一方、バギオ・クィレは、光を扱うことにかけては右に出る者のない魔法使いであった。まだ光の波長・周波数も量子性もわかっていない文明レベルで、「そこにある光・電磁波の波長を変えて性質を変換」する魔法を完成させてのけたのだから、その天才性は刮目すべきものがある。そしてそれはそのまま、すさまじいまでの攻撃性に反映され、太陽光のすべてを本来ならば無視できる割合であるエックス線やガンマ線に変換して行われる放射線攻撃は、本人すら放射線のことを「有害な見えない光」くらいにしか思っていない文明レベルだったために、まず生き残ることができない必殺技であった。

 しかし、この世界では、放射線に対する防御や検知の方法がはっきりしている代わりに、もう一つ、弱点がある。

 バギオは、魔力で空中に魔法陣を描いた。廻り出したのは、現状テライズ、ルゼリア、バギオしか解読できる者のない、その言葉の解読成功自体が戦争の引き金になった異世界版ルーン語こと古リュート語を含む魔法陣。規定するのは「通過するすべての太陽光を機械に有害な不可視光(電磁波)に変換せよ」。

 けっして魔王たちは、騒ぎを起こさないためだけに透明化していたわけではない。こうした化学的な産物への対抗策を練るため、家電量販店に侵入して泥棒したりして研究を進めていたのである。

 フェーズドアレイレーダーや核爆弾の放射電磁波を超える強力な電磁パルスが、迫りくる多数の地対空ミサイルを直撃する。それは対空ミサイルの対EMP防御の許容値を上回り、弾頭の精密機器が一瞬で過電流によりショートする。

 信管が使い物にならなくなったミサイルが迷走するのを悠々通り過ぎ、もう一人の両臣ことルゼリア・エンピートーが、不思議に空中でも広がることのなかった髪を後背で円形に広げる。その上で真っ黒な魔法陣が起動し...

 「『波長槍ウェービングスピアー』?」

 任意の線上にある物すべてに任意の振動を与える不可視の槍は、ミサイル発射機の一台に狙いを定め、半径数センチの範囲に、まずは地震のような振動を、次いで激しく、振幅を小さくし、一瞬で分子レベルの熱運動に加算される振動が、金属をして昇華させた。

 振動が熱運動化したことで高温になった部分から、昇華した金属原子により伝えられた熱は、ミサイルを誘爆せしめるに足りるものだったー彼女は数秒で1万度の熱運動相当の振動を与えられるから、当然の結果である。

 発射機が突如として爆発、煙を噴き出し、オペレーターたちが退避した直後、轟然大爆発した。 

 同時に、同士討ちを防ぐため透明化の魔法が解かれる。

 突如空中とレーダー画面に現れた、無数の飛行物体。

 戦いが、加速し始めた。


                    ―*―

 「もはやミサイルが効かないことは明白です!高射機関砲の使用を!」

 「ああっ!」

 戦車改造の87式自走高射機関砲は、半世紀前の遺物である上にミサイルより射程が短いので、盛んに廃止論が唱えられてきた。今や30輌しか残っていない日本最後の対空機関砲が、復権の叫びをあげる。

 砲塔の両側のエリコン35ミリ機関砲は、4キロ上空まで砲弾を送り込める。これは魔王軍の魔物すべての飛行限界高度を、はるかに超えていた。

 無数の弾が、高空へ送り込まれて、プテラノドンモドキや豪脚のついた巨鳥を血に染めていく。

 対抗するように、プテラノドンのような魔物が、クビナガリュウのような細長い首を地面へ向け、口を開く。

 喉の奥でひらめくのは、魔法陣から放たれる、電撃。喉前面に展開される防御術式のおかげで自身の被害はなく、のどの奥から吐き出された吐瀉物が、通電加熱によって乾燥、圧縮された砲弾となって電磁加速され、マッハ3で地表へ到達する。当然、直撃された物体は砲でも車両でも大きくえぐれてなんの使い物にもならなくなってしまい、地面に命中した場合でも大きな砂ぼこりとともに爆風が周りにダメージを与えた。

 そしてそれを尻目に、空の全面いっぱいに、円と直線からなる黒い魔法陣が広がり始めた。


                    ―*―

 「間違いありません!アレが!『波城壁ウェービングウォール』の陣です!」

 ルイラの声が通信機から響くや、朝本はそれのスイッチを入れた。

 振動面を生み出す波城壁「《ウェービングウォール》」は、すべての攻撃を振動面で止め、破壊してしまうので、出現すれば突破も防御も不可だと思われていた。しかし亜森数真が見出したように、さすがに味方や自分に不都合があるために音をどうやってか通しており、さらに原理上当然とはいえ光も通していた。現代科学を生かせば、付け込む隙はあったのである。そうして手はず通り、ミサイル迎撃用の高出力レーザーシステムが、砲弾やミサイルすら余裕で破壊するマイクロ波レーザーを放出した。

 電磁波の一種であるマイクロ波は、媒質が存在しないがために振動魔法では防ぐ手段がない。空気中の振動面など歯牙にもかけられることはなく、エネルギーは魔物を直接に焼き焦がした。

 皮膚の水分が急速に乾燥する痛みに耐えかねて、一瞬すべての魔法が消え去る。むろんその隙を逃すわけがない。

 残りの地対空ミサイルが一斉発射され、数秒で高空に到達し、近接信管が作動して弾片を散布、周囲の魔物を殲滅する。

 魔物に乗っかっていた魔王軍の兵士が落下していく中、かろうじてバギオのおかげでレーザーの無害化に成功した魔王軍首脳陣は、さすがに危機感をあらわとした。

 直線状の万物を分子レベルで振動、崩壊に至らしめる不可視の槍が、地表をなぞっていく。

 ー戦略的には、新草薙剣を渡さなければ自衛隊の勝利である。しかしそうは言っても、実際には魔王軍を「駆除」できなければ国土防衛に成功したとは言えない。

 倒すには火器を集中できる地上のほうが良かったのだが、引きずりおろせば剣を奪われる可能性は高まる。しかし空中で倒すにはEMPを警戒して航空機を使えないことが足かせとなっていた。

 ー結局、天秤は倒す方に傾いた。いや、倒さなければいけない方に。


                    ―*―

 埒が明かないと、巨鳥が降下する。その背から飛び降りるのは、顔にV字型の仮面をつけた兵士たち。

 「せ、戦車隊、自走砲隊、撃ち方初めっ!」

 155ミリ、120ミリの榴弾が、一列に並んで退避壕から顔を出した戦車・自走砲から炎とともに発射された。

 砲弾はすべてが弾片を散らし、爆風が地面をえぐる。

 「「「「「『壁絶』」」」」」

 いくつもの魔法陣が空中で黒く回転し、爆風と弾片を防ぐ盾となる。しかし一部は衝撃波でびりびり震え、第二弾で砕け散り、守り切るに至らない。

 携行対地ミサイルの雨が、白煙の弧を引き放物線を描いて降り注いだ。2方向からの攻撃ではさすがに 防御ならないかと思われたが、しかし直後に虚空から出現した巨大なカメによって、すべてのミサイルが受け止められる。

 自衛隊側は、唖然とした。

 すぐに無人機が、そのカメの全容を表示する。

 ほぼ円形の甲羅。その直径は400メートル近く、4本の足に支えられた胴体の下では数メートルはある巨鳥やプテラノドンモドキが鳴き声を上げている。そして、足と足の間、四方の甲羅下から、眠たげな眼を細めた頭がのぞいていた。

 3つの頭が引っ込み、戦車隊をにらむ頭だけが、目をぎょろぎょろさせる。

 しばらく、戦場の空気が、凍り付いていた。

 カメが、足を一本、上げる。

 低層マンション並みの足が降り始めるのを見て、これから何が起きるのか理解してしまった自衛隊員は、半ばパニックに陥った。

 「そ、総員退避ぃーーー!」

 戦車も自走砲も、慌てて後退し始める。恐怖に飲まれたのか、壁のように向こうが見えない巨体にあきらめたか、砲声は止んでいた。

 ドシン!

 足が踏み下ろされた瞬間、地震のような揺れが地面に伝わり、数十トンある戦車が、わずかに宙に浮かび上がった。

 ドンと音を立てて戦車や自走砲が地面に着地する。天井に頭をぶつけたすべての自衛隊員が、「おいおい冗談じゃねえぞ」と思った。

 2歩、3歩。

 揺れては浮かび上がる、危険極まりない妨害を受けつつ、戦車隊・自走砲隊はどんどん後退していく。カメの下から火球が飛びいくつかの戦車が擱座、踏みつぶされたが、しかし、なんとか部隊はカメから離れることに成功した。

 

                     ―*―

 「無茶苦茶だな…」

 朝本覚治は、各所の報告と映像を確認して、あきれるしかできなかった。

 「…ルイラ君、ありゃなんだ、弱点は?」

 「あれは!『四防亀カルテット』です!」

 「カルテット?」

 「はい!4体の巨大なカメが合体して!甲羅を魔法で融合させているんです!カメ自体も!融合もお父様の魔法で...!」

 「なんとか融合を解く手段は…いや、200メートル台のカメが4体出現したほうが迷惑か。」

 「本来は!東西南北を1体ずつで守護して!倒されそうになったら!融合するんです!」

 …山形で確認されたのは、それか。

 リクガメねえ…キャベツで誘うわけにもいかないし。

 「…拠点防衛用の魔物か?」

 「はい!たとえ神の一閃でも!傷一つ付けられない魔物です!」

 では自衛隊じゃどうにもならんか…

 「どこから出現したんだ?」

 「…お父様の飼いカメです!そんなことできるのか知らないけど!その都度!大きくしているのかも!」

 「…移動・収納が簡単、か…」

 引っ越し業者じゃねえんだぞ、朝本は呟き、素直にあきらめることにした。

 「…進言いたします。本官は、我らが装備であのカメを倒せる可能性は皆無と見ます。神器を持って、逃げましょう!」

 「な、何!?」

 「陸自の装備であのカメを倒すことなど不可能です!じきに踏みつぶされるよりは、ここから敵の狙う剣を海上にでも避難させ、撤退願うよりないです!」

 おとなしく、カメの出てこないところで戦わなければ、見るからにどうにもならない10メートルありそうな甲羅を止められず、踏みつぶされるに終わる。目や鼻のような弱点を狙うにしろ、頭すら4つあるのだからすべて出ている時にタイミングよくすべて同時に命中させられるとは思えない。

 「…うむ。」

 朝本の上官も、国土を土足で踏み荒らす謎の集団に背を向け逃げるのは不本意だったが、しかし怪獣映画の怪獣が硬さに飽きて土下座するだろう魔物に、到底他の方策も思い浮かばず、撤退を承諾した。

 

                    ―*―

 「ルイラ、大丈夫か?」

 「…はい。それとそのヘリコプター?…墜ちますよ!」

 内川田康介が乗ろうとするオスプレイ改を見て、頭を押さえつつもルイラ・アモリは告げた。その腕には点滴が刺さっている。

 「ああ、わかった。言うなよ。」

 「わ、わかったって…!」

 「ルイラ、俺はお前の見た変えられない未来を、超えてやるさ。」

 内川田は、ひょうひょうと手を振り、座席に移っていった。

 「ルイラちゃん、何してるのー!」

 「…今!行きます!」

 

                   ―*―

 対電磁パルス防御改修を施されたオスプレイ改が次々飛び立つのを見て、魔王テライズ・アモリは腕を一振りした。

 魔法陣が回り出し、その中から、一本の透明な棒の両側に楕円形の細長い翼を無数にはばたかせる何かが現れる。

 -UMAオタクならば、その魔物のことを、こう形容しただろう、「スカイフィッシュ」と。

 はたはたと飛ぶスカイフィッシュは、ゆっくり加速、オスプレイ改の真後ろについた。

 存在に気づいたオスプレイ改が、バルカン砲を打ち鳴らす。するとスカイフィッシュは、弾が通過すると姿がぶれ、弾が無くなると姿がはっきりするという、生物どころか固体としてあり得ない挙動を見せた。

 「ルイラ君アレは?」

 新草薙剣を持つ朝本機からの通信を受け、ルイラが、ガス・もやの類から生まれる魔物の中でも異端な何かだと教える。

 「…UMAは異世界でもUMA扱いか。」

 朝本はとんでもなく面倒で複雑な事態に巻き込まれていることを改めて自覚しつつ、ため息をついた。

 「後方に電波異常あり!…レーダー、ブラックアウト!」

 「速度上げ、振り切るぞ!」

 大戦期の戦闘機並みの速度が出るオスプレイ改の大編隊が、高速で富士山の脇を通過しようとしていく。

 膝に乗せた草薙剣入りの金庫をなで、朝本は地上部隊の安全を祈った。


                    ―*―

 しめしめ。

 俺は初めて亜森のような策をうまくいかせつつあることに、小さな満足を覚えた。

 「加速します!舌をかまないように!」

 オスプレイ改が、急加速を始める。そしてその直後、一瞬、ガクンと機体が引き止められる感覚があった。

 慌てて操縦士がアクセル(?)を入れなおす。

 「…無駄だと思います。」

 「え?」

 「後ろを見てください。」

 後ろに迫る、表情のわからない黒マントの男。マントの裏から、魔法陣がのぞいている。

 「脱出するしかないか。

 …7番機、もはや離脱は不可!脱出する!」

 -操縦士は知らない。内川田が、この機が最後尾になることを知って乗り込んだことを。

 -操縦士は知らない。朝本が剣を持つ先頭機を守り撤退するつもりが、そこに守るべき剣がないことを。

 「そこのボタンを押してください!座席ごと脱出してパラシュートが開きます。」

 「はい、わかりました!」

 -わかっておかないと、な。

 操縦士が、どうして離脱ボタンを先に押さないのかという目で見てくる。副操縦席から手を伸ばし…

 「なんです?」

 ポチッ。

 「え」

 操縦士が外へすごい勢いで飛んでいったのを見届け、触るなと言われていた副操縦席ーなんで副操縦士を乗せなかったんだ?ーの操縦桿を回す。180度回転だ。

 魔王が、仰天している。その顔に、オスプレイ改が突っ込む。

 離脱。

 数十メートルにわたり重なり合う無数の魔法陣が、パラシュートに揺られる俺の目の前に広がっていた。オスプレイ改の大爆発が、魔法陣広がる平面ですべてさえぎられている。

 眼前で炎上し煙に包まれ、砂粒のような粉になって吹き去っていくオスプレイ改を見て、俺はー

ー勝利を確信した。

 

                    ―*―

 「コースケーーーっ!」

 中井が、これでもかと叫ぶ。

 「ウチカワダさんっ!」

 ルイラもまた、窓にへばりついて、泣き叫んでいた。

 「私じゃ、私じゃやっぱり、未来はっ!」

 …この状況で、親友のヘリが墜落したことに泣けない僕は、やはり合理的で冷たい人間なんだろうか。

 魔王は、不思議にも消滅するオスプレイ改のところでじっとしている。追ってこないのか?

 「…とにかく、このうちに」

 「朝本さん!お願い、コースケを…!」

 「…ここで引き返せば皆犠牲になる。きっとパラシュートで脱出したはずだ。」

 レーダーはおろか光学機器すら怪しい現状、確認は難しいんだろうけど。

 「でも、どこに降りれるかなんてわかんないのに…!そもそも無事に降りれるかだって…!」

 「中井君、気持ちはわかるが、しかし剣が奪われては…」

 「…朝本陸佐、どうして、魔王が、動かないと思いますか?」

 「さあ…?」

 「言い方を変えます。その剣…

 …本物ですか?」

 -誰もが、目を見開いた。

 

                    ―*―

 ほどなくして魔王軍はもやとなって姿を消し、富士山麓で、撃墜されたオスプレイ改の操縦士と康介は救助された。

 「…それで康介、草薙剣は?」

 「…よくわかったなぁ。」

 「そりゃ、お前の機が墜ちた瞬間に魔王が進まなくなって、軍勢も姿を消したんだ。お前が持ってる、いや、持ってたんだろ?」

 「せーかい。まっすぐ富士まで来たならなんか感知してるにちげえねえから。

 …破壊できないんだろ?成分とか教えてくれなかったし。」

 「…ああ内川田君、非破壊検査で中まで緻密に詰まっていることだけはわかっていたが、いかなる方法でも傷一つつかなかったよ。文字があったし魔法的な物らしいからみだりに傷をつけられなかったのもあるが。」

 「だから、壊せないなら、向こうから壊してもらったのさ。防御させることで。」

 「…振動魔法、か。」

 「ああ、戦車が蒸発するほどの熱を与えるすげえ魔法だ…オスプレイが砕け始めた時に剣を投げつけたら、一瞬で砕けてかっきえたよ。」

 朝本が、唖然とした表情をする。

 「…なら、お父様のたくらみは…!」

 「3種の神器の一つが欠けた今、不可能、じゃないか?」

 「でも、ルイラちゃんは…」

 おそらく魔王の目的は、ルイラを生き永らえさせること。だとすれば、ルイラの寿命はこれに依って…

 「いや、それはない。本官も驚いたが…

 …亜森くんの言った通り、寿命が減っているのではないようだ。」

 「えっでも…!」

 「…中井、冷静に考えると、おかしい話なんだよ。生命力って何だ?僕らの医学はそんなもの証明したことはない。…生命力は幻想、錯覚じゃないのか?そう思って、血液検査をしてもらった。」

 「…誰かと話し日本語を見聞きした直後、明らかに血糖値が下がっていたそうだ。」

 「ど、どういうことだ?」

 「『絶対未来視』のあと体調が悪くなっていたのは、単純に栄養素のエネルギーを魔力に変換していたから、つまり栄養失調だ。そして頻繁に極端な栄養失調と平常を繰り返して、身体を弱らせた、と。」

 「でも、栄養失調を起こしていたからって言うには…」

 「異世界、しかもちょっと前まで戦場にいた人間にとって、平和で文明も進んだ日本の一日当たり摂取カロリーはもともとかなりの水準だろう。僕だって『やったらおいしそうに食べるな』くらいしか気づかなかったしな。」

 「じゃ、じゃあ!私も!みんなも!大丈夫!なんですか…!?」

 「ああ、ですよね朝本陸佐」

 「…新たな神器は欠け争いの理由はなくなり、ルイラ君は点滴で栄養を随時補うことで問題はないとわかった。

 …大丈夫じゃないのか?ルイラ君については確証はないが。

 何はともあれひとまずうまくいった、内川田君、君はヒーローだ。ありがとう。」

 バンザーイ!!!!!

 富士山に、歓声が響き渡った。

 

                    ―*―

 「コースケ、起きてる?

 …寝てるの?

 …ごめんね。私、コースケのこと、男らしくないし、だらしないし不真面目だし、お金と家に頼るし、無理やり許嫁にされたし、ほんとは、あんまり好きじゃなかった。

 …むしろ、亜森くんに告白しちゃった。ダメだよね。 

 …でもね、コースケ…

 今さら、かっこよかったとか、見直したなんて思う、ひどい私でごめんね…だけど、彼女でいさせて…っ!」

 「…美久、じゃあ、一生、いてくれるか?」

 「コースケ…起きてたの!?」

 「体中痛いんだから、寝れるわけねえだろ…

 …美久、うれしいよ。告白を、初めて聞けて。」

 「うう、コースケ、コースケ…っ!」

 月夜、二人は病室で、固く抱きしめあっていた…

 蛇足っぽい結末ですみません、オチを付け損ねました…どこかで回収…できるかなあ…。しかし中世の数多くの迷信も、「生命力」のごとくしょうもないものだったのではと夢想する次第であります。

 何はともあれ、戦いはもはや止まりません。「魔王軍」の快進撃が目的を達成するすべを失い失速すると同時に、事態は一時水面下に移り、やがて噴火することとなるのです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ