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4 心戦ー揺れる想い

 伊勢での遭遇戦は、引き分けに終わった。しかし、4人は「魔王」の強大さを思い知ると同時に、この先どうすべきかを考える必要に迫られる。一方、自衛隊が動き出し…


・ルイラ・アモリ

 苗字が同じだという点に意味を見出して亜森数真の家に隠れ住んだ、異世界の銀髪少女。魔法に詳しいが魔力を持たない。固有魔法のようなものとして「翻訳」と意図せずに避けられない未来のみを幻視する「絶対未来視」を持つ。


・テライズ・アモリ

 「魔王」。生物系の魔法に熟達し、そう畏怖される。また無数の魔法陣をマントに仕込んでおり、防御・攻撃共に万能を誇る。

 実はルイラの父親。

 ルイラには「生命力」を魔力に変換してしまう持病があり、しかも普通のその患者と違い固有魔法があるためにそのオート発動時に命が削られると発覚した。そのために魔王として神話に伝わる絶大な魔法を求めている。


・バギオ・クィレ

 テライズと魔法を研究していた男。語尾「である」。光の波長を操る魔法を独自開発し、太陽光をすべて放射線に変換し致死量ベクレルへ到達させたり、また電波をすべて可視光に変えて通信遮断したり、逆に可視光を電波に変えて電磁パルス攻撃したりする。


・ルゼリア・エンピート―

 テライズと魔法を研究していた、人呼んで「魔女」。語尾「?」。天女のような赤いヒラヒラのドレスを好み、また意味もないのに魔法発動の時魔法で髪の毛を後光のように丸く展開させてからその上に魔法陣を作る。

 振動魔法の使い手で、強烈な振動で破砕結界としたり分子レベル振動で熱防壁としたりする「ウェービングウォール」、振動の槍状塊で破砕する「ウェービングスピアー」を使う。


・「虚ろに響く世界の理」

 2つの世界を渡った者が手にしたと古の神話に伝わる、「魔法という理を超えた『理外の理』」。正体不明。※前作「鎌倉幕府滅亡せず!」にて既出。次々々々々作くらいまで正体を明かさない予定(終わるのか…)


・「天地の定めをないがしろにする禁忌」

 古の神話で、天孫降臨後ヒコホホデミノミコト=神武天皇が手にしたと言われる、禁忌魔法(魔法かどうか正確には不明)。テライズは、ルイラを救う魔法だとしている。

                    ―*―

2040年2月2日(木)、静岡県小山町富士駐屯地、自衛隊富士病院

 「アモリさん...」

 目を覚まして、最初に目に入ってきたのは、涙を垂らしながらベッドわきに座るルイラの姿だった。

 「ルイ、ラ...?」

 「ア、アモリさん!?大丈夫!ですか!?」

 起き上がろうとするが、全身に力が入らない。なぜかと腕を見ると、両腕ともに、ギブスで固定されていた。

 「つーっ!」

 ルイラが、ナースコールを押した。

 

                    ―*―

 -良く生きてたなあ…

 それが、医師の話を聞いて、最初に思ったことだった。

 聞いた限りでは、皮膚表面の毛細血管がいくつか破裂し、傷んでいるらしい。右腕には大規模な内出血が発生していて、おそらくあざのようになり一生跡が消えないだろうと言われた。ただ、そんな結果や、やはり何本か折れていた骨のことはどうでもよかった。問題は破裂の原因ーほんの一瞬、コンマ数ミリ秒、皮膚表面の血流が逆行したかららしい。

 ルイラいわく、彼女の父、「魔王」テライズ・アモリの必殺技「血流氾濫ブラッドオーバー」と言って、生物の血流を表面から奥まで数秒かけて逆転させることで、全身をぶっ壊す魔法が一瞬作用した効果らしい。脳や内臓に魔法が到達する前に魔王を追い払ったおかげで史上初の生存者などと言われても、あまりうれしくなれない。

 何はともあれ、生きていた。全身から血を流し倒れる僕と、僕を何とかしようとするルイラを置いて、魔王は飛び去り、伊勢は数十軒以上焼失・倒壊の大被害を受けたらしい。

 「大丈夫だったようだね。」

 そして今、一生分くらい両親にこってり絞られたのちに、僕は、迷彩服を着た精悍な男と向き合っていた。

 「はあ。それで、あなたは...?」

 ほぼ間違いなく自衛隊員だろうけど...

 「済まない、自己紹介が遅れた。本官は陸上自衛隊一等陸佐、『異世界侵攻軍対策班』隊長、朝本覚治という者だ。」

 「『異世界侵攻対策班』...?すると内閣は、一連の事態を...?」

 「お友達から聞いていた通り、頭が回るみたいだ。

 …そうだ。あれだけ山形と伊勢で『魔法陣』を見せられ、魔法としか思えない事態に出くわせば、認めざるを得なかった。まあ非公式、発表はされてないから、くれぐれもSNSに流すなよ?パニックだ。」

 「流しませんよ。」

 おそらく知っているのは政府と防衛省上層部、それに米軍、米政府、もしかしたら安保理常任理事国すべてと近傍の台湾、南北朝鮮…か。

 「我々を『対魔法使い部隊(アンチ・マジシャン)なんて言ってるやつもいるね。それはともかく...

 …魔王軍とやらは、新たな『3種の神器』を狙っているんだって?」

 そういいながら、朝本陸佐は、木箱をベッドわきの白いデスクに置いた。

 ふたを開けて、「見てごらん」というから、踏ん張って身を起こし、覗き込んでみる。

 「剣!?」

 「そう。1月27日の朝、山頂の富士浅間大社で見つかった。」

 「山頂?...ここ、伊勢じゃないんですか?」

 「そうだよ。ここは富士山麓の自衛隊基地だ。またルイラ君が狙われる可能性を考えると、一般人に被害が及びにくい演習場に匿ったほうがよさそうだからな。それに、魔王とやらに充分かかわってしまった君たち3人も。」

 これを、匿われたと考えるか、情報漏洩を防ぐために隔離されたと考えるか…

 「だから、見つかった剣もここに在る。」

 一見、それは、鉄でできた銀色に光るただの剣に見える。大して装飾があるわけでもない。しかし、持ち手には文字らしきものが刻まれていた。

 「この文字は?」

 「神代文字...またの名を、異世界言語『古リュート語』らしい。八咫鏡にヘブライ語だか神代文字だかが刻まれていたという都市伝説の出どころも、コレだろうな...とっくに逸失して、ルイラ君でも読めないらしいが、今専門家に解析させている。もっとも成分のほうはお手上げだ...超硬合金の刃でも粉一つ削れなかったから成分不明。こりゃいざというときに破壊するのは無理筋だ。」

 鏡は奪われた。新たな剣はここにある...

 「勾玉は!?」

 「皇室の八尺瓊勾玉に異変はない。本官がこの目で確かめた。今は、全国の古社に問い合わせている。」

 …万が一、古墳とかに出現したら、お手上げか。

 「それで君はどうする?

 …考えうる最高の装備を整えた。ルイラ君のアドバイスに従い、振動面を生み出す魔法と光の性質を変化させる魔法、それに生物に変化を起こす魔法についても、対策を練っている。

 …決して、君たちが出てくる必要はない。どうする?」

 「…少し、考えさせてください。それと...」


                    ―*―

 また、めまいがする。

 私は、身体を木にもたせ掛け、息をついた。

 最近、「絶対未来視」が発動していなくても、辛くなってきた...

 なんとなくだが、わかる。誰かと話し、聞き、しゃべり、文章を読み書きする、そのたびに命が削られていく。そして、そこまでしても私は何一つ、変えることは出来ない。

 「亜森数真君には黙っておこう。」

 私が、「神器の新たな剣が奪われる未来を見た」、そう伝えると、あのアサモトという軍人は、そう応えた。

 -いっそ、私がいなければ、アモリさんは...

 「おい、何やってんだ?」

 後ろから投げかけられた声に、私は、振り向いた。

 「…まさか、一人で行こうとしてたわけじゃねえよな?ルイラ。」

 「ウチカワダさん...」

 

                    ―*―

 だって、いつまでも、寂しい背中を眺めているわけにはいかなかった。

 「…なんで!わかったんですか!?」

 「…俺もそうしようかと思ったからだよ。」

 「…え?」

 「俺はバカで、無力だ。ステレオタイプなボンボンだからなあ。現に何もできなかった。だから…

 やめたやめた。あんなのに、一人が二人に増えたところでどうにもならねえよ。」

 「…でも、アモリさんは...!」

 「あいつは賢い。合理的でないことは絶対やらないし、それにいつも一歩引いて考えてられる。そんな余裕たっぷりな奴が自分から余裕を捨ててかかるんだ。勝手にさせとけ。

 …あいつが一人で立ち向かえて、俺たちが二人で何もしなくても、できなくても、何も悪かねえよ。」

 亜森はすごい奴だ。嘘はつかないし、いつも、最小の投資で最大の結果を得てくる。とても、俺たちの相手じゃねえ。だからこそ、惹かれるし、思うところも出てくる。

 …俺は、それでも...

 「ルイラ、お前が、未来を変えられないことを無力だって言うなら...

 …俺に任せてくれねえか?」

 傷のなめあいになるかもしれない。それでも、お互いに、「何かできるかもしれない」という、希望が、欲しかった。

 「私にも!機会があったら!」

 「ああ!」

 合わせた手を見ながら、俺は、「俺にできること」を、考えていた。


                    ―*―

 ルイラを救う方法は、実のところ、わかっている。

 …ルイラの話を聞いたときに、疑ってはいた。「生命力を魔力に変換する魔法」って、なんだと。いずれにせよ、現代医療を使えば、おそらくその呪いを解く手立てが見つかる。…見つからず、本当に生命力らしきものがあるなら、その時はー

 -一人のために僕らの世界を犠牲にしないでくれ。そう、頼むしかない。彼がこの世界を犠牲にして迷惑すると思えない以上、魔王と戦うことは避けられないだろうけど、ルイラ一人のために平和を永久に手放すわけにはいかないー日本を、地球人類を、裏切るわけにはいかない。

 …考えていたら、心がとても痛んだ。当たり前の合理的結論のはずなのに。

 実際問題、この先に僕らが出ていく必要があるのかと言えば、もう、無い。ルイラは医療チームの問題、魔王軍は自衛隊の問題。せいぜい翻訳魔法を使わなくていいように日本語を教えるか向こうの言語を習得するかぐらいしか、僕に役目はない。

 ...だから、ここから先は、自己満足の問題だ。

 「…寒気がするな。そう考えていること自体、ルイラに何かしたいと考えたがっていることの裏返しなら。」

 一体、何が、そこまで僕を不合理にかきたてるのやら。


                    ―*―

 私は、物陰から、亜森くんの後姿を眺めていた。

 …亜森くんが悩むなんて、珍しい。きっと、ルイラちゃんのことなんだろう。

 「亜森くん、何考えてるの?」

 「…いなくてもいいだろうに、なぜ、まだ何かしようと理由を捜しているのか。」

 …私は、全部、腑に落ちた。

 「…亜森くん、そこのベンチに座って。」

 「は?」

 「いいから♪」

 彼の横顔を眺め、怪訝そうにする彼の頬に、軽く唇を触れさせるー

 -ファーストキスの味は、病院の消毒の臭いがした。

 「え...」

 「亜森くん、私、亜森くんのこと、好き、だったんだね。」

 「い、いやでも、中井には許嫁が...」

 「…亜森くん、亜森くん、そういうことじゃないんだよ♪」

 「へ?」

 「そりゃ、きっかけは、コースケがあんまり情けないからかもしれないけどさ…

 …理屈じゃないんだよ。不合理なんだよ。」

 「…わからん。」

 「わからなくていいから、亜森くんのやりたいようにして♪

 …かなわない恋でも、私は、ついていくから。」

 振り向いては、もう、もらえないんだろうけど。

 「…美久、ありがとう。」

 「ほら、行った行った♪」

 「…ああ。」

 去ってゆく亜森くんの背中を見つめ、私は、座り込んだ。

 浮気で、失恋。だけど、私はなぜか、泣けなかった。


                    ―*―

 100年近く、日本国は、いかなる勢力とも戦闘に陥ったことはない。それがまさか、最初の相手が、「魔王軍」だなんて。

 一応法解釈上、交戦権が認められないために対魔王軍戦は「異生物駆除」ということになる。魔法を使う者を人間と認めていいか怪しいのだから、間違ってはいない。

 …けれど、すでに3桁近く殉職者を出そうとしているこれが、たかが駆除というのも...

 すでに在日米軍が協力を申し出たらしい。当然下心があるのだろう―異世界の存在なんて、うまくいけば資源量が2倍になるようなもんだ。政府も、一般に隠し続けるには限界がある。

 富士山を仰ぎ戦車のキャタピラ音を聞きながら、本官は思考を巡らせた。

 亜森数真君にはああいったが、実のところ、対策など何一つ思い浮かばない。原子まで振動させる魔法はあらゆる物理防御を貫くだろうし、光を変換する魔法は可視光をすべて放射線に変え一瞬で致死線量を達成する。マッハ3の何かを吐くプテラノドンモドキーおそらくは電磁加速砲レールガン-をはじめとした多種多様な魔物を生物操作で作り出してのける「魔王」に至っては、対策のしようもない。

 ーほぼ無策で、多数の自衛官を、死地に送り込まねばならないかもしれない。

 俺は、まだ、踏ん切りがつかなかった。

 交渉の余地はない。娘が出てなおないのだから。というより魔王の目的が娘の命にあることは確定でいい。とはいえルイラ君を人質にとれば、どんな大きな代償を払わされるか。…推定される強さと被害等からのプロファイリングは、魔王の性格が優しく、必要のない被害を招くつもりがないことを物語っていた。手加減されているのだ。

 はっきり言って、正直詰んでいる。

 「…さて、クビになりますか。」

 結局、「俺がやらなきゃ誰がやる」以上のことは思いつかなかった。


                    ―*―

 あの少年、カズマ・アモリなる少年。ずっと、気になっていた。

 「陛下が、姫以外に興味を持たれるとは、珍しいである。」

 「バギオ、アンタ、あの少年に負けていないから言えるのよ...?」

 「ほう?では勝ってくるのである。」

 「やめなさい?『意変光ライト・シフト』じゃ防御ができないし、光についてはたぶんこの世界のほうが詳しそうだから、負けるわよ?なんせ防御では負けることのない私の『波城壁ウェービングウォール』や陛下のコートの多重防御すら貫いたんだから?」

 ルゼリアは鼓膜を破られたハウリング攻撃を、「魔王」テライズは防御したはずが呼吸とともに気管支の奥まで侵入し魔法を制御できなくなるほどの打撃を与えたトウガラシスプレー爆発を思い出し、身震いした。それだけ、彼らの間で、亜森数真という一介の高校生は、評価されていたのだ。

 「…それで本当に、スペアプランとして、使うの?彼に魔法は使えないはずだと思うけど...?」

 「魔王ならばやり方もあるのである。」

 「…バギオ、まだ拗ねてるの?」

 「…あんなぽっと出のガキに担わせる重責じゃないである。」

 「…まあ、陛下の姫なのだから、陛下に任せましょう?でもそれで本当に、『虚ろに響く世界の理』まで、たどり着けるの?」

 「無理だな。」

 「あーら。あきらめちゃった?」

 「結局我らなど、前座に過ぎんかもしれん。しょせんは常人の範疇を出られん我らには。」

 「…陛下は、古の『理外の理』については?どう考えるであるか?」

 「…『天地の定めをないがしろにする禁忌』ですら冒涜的なのだ。それらの理の外側の景色にたどり着くには、冒涜の頂点に立たねばなるまいよ。」

 「そんな奴、いるのかしら?」

 「いるさ。」

 やたら確信的な物言いに、二人の家臣は、口をつぐんだ。

 「とにかく目的はそこじゃない。我らなら手をかけられるやもというだけで。」


                    ―*―

2040年2月3日(金)、静岡県小山町、自衛隊富士駐屯地

 「説明できないけど、ルイラのために、何かをしたい。

 …ここに、残らせてくれ。」

 親たちが僕らを連れ戻そうとするだろうことは確実。しかも戦いに陥る可能性が高い。だから、もう、頼るわけにはいかない。

 「…亜森くん、ついていくって、言ったよね♪」

 「…誰がお前を置いていくんだよ。」

 「…中井、康介...ありがとう。」

 「皆さん...!ありがとう!ございます!」

 

                    ―*―

2040年2月4日(土)、静岡県小山町、自衛隊富士駐屯地

 「朝本陸佐!お願いがあります!」

 「なんだ?」

 「ここに、残らせては、いただけませんか?」

 「…親御さんは、自分で説得してくれ。その場合に限り、見逃す。自衛隊も本官も一切の責任をとれないが...」

 もとよりどこの国の国籍も持たないルイラを抱え込んでいる朝本にすれば、事情が一つ増える程度、責任を考えるのも面倒だった。

 

                    ―*―

 「父さん、母さん、ここに、あと3日でいい、いさせてくれないか?」

 「…数真、俺と母さんが、どれだけ心配したと思って...!」

 「…母さん、ルイラを見るなり誘拐を疑って通報したのに?」

 「…それはっ!」

 「…父さん、母さん、僕にも、理屈でどうにかできない気持ちがあったんだ。だから…

 …僕の思うまま、やらせてくれないか?」

 父さんが、うなずく。

 「ちょ、ちょっとあなた!?」

 母さんが慌てて抗議するのを尻目に、父さんはメガネを取った。

 「…数真、勝算は、あるんだろうな?」

 「…ああ。」

 「…俺の息子だな、やっぱり。母さん、これは止められん。」

 「え、あ、あなた!?」

 「…俺と同じだよ。ハッタリ含め、あらゆる手を使ってことを推し進める…俺には止められん。」

 僕の耳元で、「俺が母さんに告白した時のようにな」などと世迷言を吐きながらも、父さんは母さんを引きずっていった。

 …説得できたってことにするか。

 さて、どうするか...

 -その時、怒鳴り声が聞こえてきた。


                    ―*―

 「美久、何を考えているんだ!」

 「何って、亜森くんについていくことだよ。」

 「…お前、わかってるのか!?お前の立場を!」

 「わかってるよ。私がー

 -お父さんの会社の、道具だ、って話でしょ?」

 「…美久!なんてことを!」

 「お母さん...違うの?」

 「…っ!」

 「別にいいんだよ?政略結婚に今さら反対したりはしないから。でもさ…」

 「でもじゃない!」

 「でもじゃないじゃないでしょ!

 お父さんは、私に何かあれば縁談が破談になって進めてきた提携が」

 バシッ!

 中井美久の目の前で、火花が散った。

 「…病院ではお静かに。」

 パーに広げられた手のひらが、亜森数真の手に受け止められている。

 「…お前か!美久をたぶらかしたのは!」

 中井美久の父親は、半ば激昂した様子で、亜森数真をにらんだ。中井美久と母が、一歩後ずさる。

 「…違いますけど。

 …それで、仮にそうなら、どうするんです?ここで、中井が自分の道具に過ぎないことを、証明しますか?」

 「お前...!」

 「…そうじゃなく心配しているからだという言い分が、どうして出てこないんです?」

 中井美久の両親が、「あ」と、顔色を変えた。

 ー合理主義と冷たい印象から勘違いされることが多いが、亜森数真は攻撃的な人間である。自身「有利な方につく」という意味ではなく「機を逃さない」という意味での「機会主義者」だとうそぶくほどで、逆に言えば攻撃の機会だと思えばえぐいことを選べる人間であった。

 「なにも謝るべきだとか、僕のほうがまだしも中井の傍にいるべきだとか、言いたいわけじゃない。もちろん僕は中井のことがどうってわけじゃないし...」

 中井美久が、明らかに不満そうな顔で亜森数真の服の袖をつかむ。

 「…じゃないし。」

 中井美久が、表情を暗くした。

 「それ以前に中井がついてきたいというだけで、僕は止めました。これは中井自身の選択だって、僕はあきらめてます。

 …一生を会社のためにあきらめさせるんだから、あと3日くらいあきらめてくれたっていいじゃないですか。」

 攻撃は終わり、これ以上は親子の問題だ、そう言わんばかりに、亜森数真は去っていった。


                    ―*―

 「…一生のお願い。ちゃんと帰ってくるから、一度だけ、わがまま言わせて。」

 「…美久...」

 「ダメ?」


                     ―*―

 「…親父、あれが、亜森だよ。」

 「…切れ者、そして行動力と決断力もある...すごい人材だな。」

 「だろ?...俺とは正反対だ。」

 「…そうだな。」

 いや、納得しないでくれよ。

 「俺も、亜森に続く。親父、いいよな?」

 「…俺にも、康介みたいな時期があったよ。」

 「…親父に?」

 「その時は一人で日本一周したな。

 …康介、お前も、男を上げて来い!」

 「…親父...」

 済まない親父、そう、内川田康介は心の中でつぶやいた。


                    ―*―

 「朝本陸佐、全員、説得できました。」

 「…そうか。驚いたな。

 …君たちについては半分本官の独断だ。君たちはいないことになるし、指揮系統とは無関係だからアドバイス以上のことは出来ないししない。君たちの行動は自由だが、一切の責任は負わない。」

 「それで、いいですよ。」

 朝本陸佐の提案が妥協なのか何なのかわからないが、しかし、少なくとも最善を尽くしたんだろうとは思う。それに、それだけあれば充分だった。

 「っ皆さん!本当に!どうお礼したらいいか!」

 ルイラが、土下座せんばかりに頭を下げ、そのままー

 -崩れ落ちた。

 「朝本陸佐!」

 「わかった!準備してある!」

 陸佐が、どこかに連絡を始める。その時だった。

 「朝本閣下!敵襲です!レーダーに感アリ!直ちにお越しください!」


                    ―*―

 ルイラの助けになりたい。でも、ルイラを切る結果につながるかもしれない。それでも。

 たとえ命を縮めるかもしれなくても、アモリさんとともにあり、未来を変えたい。

 亜森に並び、何かできるってことを示したい。

 亜森くんには振られるだろうけど、亜森くんについていきたい。

 想い思惑を試すように、決戦が、始まった。

 ー本当のところこういう時主人公は「ヒロインか、国か」で悩むべきなのでしょう。しかし自分自身報国して死ぬような人間でもないし、大切な人がいて国を守るためにはその人の命を捨てなければならないなどと言うシチュエーションで悩める高校生がいるのかーそれだけ一部の若者は「国家」「世間」を遠い概念だととらえるのですーというと、少なくとも自分は神風特攻隊のような愛国心はないです(炎上しないように注意したほうなので、これで不快に思われたならすみません、知りません)。

 さて、主人公たちの心の中の争いなんてものは、決戦前に行われるイメージですが…さてはて。

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