09 転校生 ~濡葉弥美4
「あの、悠斗さんと花音さんってお付き合いされてるんですか?」
唐突な質問に花音が女子らしからぬ音をたてて唐揚げ吹いた。
「は? いやいや、悠斗と私はただの幼馴染よ。姉と弟みたいなものだから」
ハンカチで口元を押さえながら答える花音。
「二人、仲がいいから私てっきりそうなのかと。すいません、不躾なことを」
「濡葉さん、俺達そんなんじゃないから。遠慮せずに花音と友達になって――」
「悠斗さん。どうぞ私のことは弥美と呼んでください」
「へ? じゃ、じゃあ。弥美さんって呼べばいいかな」
照れながら言った俺の唇に、彼女は触れるギリギリまで人差し指を近付けた。
「やーみ」
「じゃ、じゃあ。弥美」
「はい。なんですか、悠斗さん」
にこりと微笑みを返す弥美。
え、何このイチャコラ。
このやり取りに呆れたか、花音の口元からお茶がダバダバこぼれている。
「ちょっ、花音! お茶こぼしてるぞ、ほらハンカチ!」
「うわっ! た、た、た」
話題が逸れてちょっとホッとしながら、花音の弁当に注意を戻す。
それにしても量が多い。
パンを食べ終えた朔太郎が物欲しげにこっちを見ているし、なんとかシェアする方向に持っていけないか。
「花音さん、いつも悠斗さんのお弁当を作っているんですか?」
「え? いや、その、今日はたまたまよ。ちょっと材料が余って作りすぎちゃったの」
スカートの染みをハンカチで叩きながら、花音。
「じゃあ明日から、悠斗さんのお弁当は私が作りますね」
「え、いいの? というか、悪いよ。そんな」
「そうよ、弥美ちゃんがそこまでしなくても」
「でも毎日、花音さんがお弁当を作るのは、その」
「大丈夫。いつも悠斗の面倒見てるし、昼ご飯くらい手間は変わらないから」
なんで花音まで俺の弁当を作る話になっているんだ。
「いえ、それよりも」
言い淀む弥美。
「ん? 弥美ちゃん、何かあるの?」
「なんというか、花音さんのお弁当茶色いですよね。まるで、現場仕事してる方が食べる弁当みたいで」
一瞬の内に凍り付く空気。
なんだ。なんか変なルートに入ったぞ。ゲームならBGMが変わる瞬間だ。
「は、は、は。まあ、うちが土建屋だから、かもね。は、は、は」
花音は頬をぴくつかせながら、さり気に弥美と自分の弁当を見比べる。
「悠斗さんが食べるには味付けが濃すぎるかなって」
「いやいや。男子はこのくらいが好きなのよ。ね、悠斗」
ほう、ここで俺に振るか。
「う、うん、花音の料理は美味しいよな。何も不満は」
「でも少し野菜が足りなくないですか」
「いやいやいや、大丈夫だって。野菜もちゃんと入れるから」
言いながら、震えるフォークでソーセージを突き刺す花音。
「あら、茶色い野菜って何がありましたっけ。ごめんなさい、ちょっと急に思い出せなくて」
パキン。折れたプラスチックフォークの先端がソーセージごと味噌汁に飛び込んだ。
「べ、別に無理して茶色にしてるわけじゃないのよ」
「あら、ごめんなさい。私てっきり。花音さん、悪く思わないでくださいね」
「もちろんよ。あはははは。」
「ふふ。私、花音さんと知り合えてよかったです。私達、いいお友達になれそうですね」
「ええ、そうね。ははははは」
なんなんだこの空気。何故か俺達の周りにカラスが集まりだした。
苦し紛れに朔太郎を肘でつついたが、夢見るような瞳で彼女たちを見つめ、
「これが女子トークって奴か。良いものだな」
呑気に唐揚げ食ってやがる。
……こいつ、カラスで鳥葬してやろうか。
今日もまだ更新予定です。
良ければ今後の勉強の為に本作の感想や評価等、お寄せいただければ幸いです。