07 転校生 ~濡葉弥美2
1限の授業が終わると同時、俺は花音に首根っこを掴まれて廊下に連れ出された。
「なんなのよあれ! 何で転校生があんたに声をかけるのよ」
「いや、俺にも何が何だか」
転校生の美少女が、何の前触れもなく俺にランチのお誘いだ。
中学生男子の妄想でもなければ、そんなことが起こるはずはない。
それは花音も分かっているらしく、疑わし気に俺の顔を覗き込む。
「悠斗、ホントに濡葉さんとは初対面なのよね?」
「当たり前だろ。初めましてって言われたぞ」
エレベーターですれ違っただけの関係は初対面と言っても良かろう。
……まさか、本当にお守りの効果なのか?
俺は思わずポケットに手を触れる。
教室を覗き込むと、濡葉弥美はクラスメートに囲まれて質問攻めにあっている。
俺が見ているのに気付いたか、彼女は小さく手を振ってくる。
なにこのイチャイチャ感。
「どちらにせよ滅多にないチャンスじゃない。頑張んなさいよ」
花音は俺の背中をバチンと叩くと、教室に戻ろうとする。
「え、いいの?」
「いいのって?」
花音は不思議そうに大きな瞳をパチクリさせる。
えー、あれ。そういう感じか。うん、反対に聞き返されると言葉に詰まる。
「昼ご飯一緒に食べるんでしょ。私も付き合ってあげるわよ。悠斗一人じゃ手に負えないだろうし」
ほう、俺も見くびられたもんだ。初対面の美少女と二人切りのランチにビビる男だと思われているのか。俺の返事は決まっている。
「……はい、お願いします」
よし、ここは素直が一番だ。
「そうだ、俺に任せろ悠斗。大船に乗ったつもりでいるがいい」
朔太郎、なぜ出てきた。なんか肩とか組んできてウザいし。
「いやいや、お前は関係ないから。うちの市って水道水が美味いらしいぞ。昼休み中、飲んでたらどうだ」
「冷たいぞ、マイブラザー。なるほど、水だけに冷たいってことか。ふふ、上手いこと言うじゃないか」
うわ、うぜえ。花音もイライラと腰の工具に手を伸ばしている。朔太郎の頭のネジでも締め直してくれるのか。
「うーん、まあ、朔太郎でも頭数くらいにはなるかなあ。一緒に来る?」
「水だけに水臭いぞ、花音。俺達3人の仲だろう。俺の力が必要だというなら」
あ、やばい。花音の目は無脊椎動物を見る時のそれだ。
「いいのよホント。来たくなければ。もう一度聞くけど、どうするの?」
「……すいません、調子に乗ってました。俺も仲間に入れてください」
そうだ、朔太郎。素直が一番だ。