45 鴨下初音1
濡葉弥美の欠席はこれで四日目だ。
この状況がクラスでは三角関係のこじれと噂になってしまい、どうも教室に居づらい。
昼休み、俺は噂から逃れるように旧校舎裏に足を向けた。スマホを確認するが、花音からも弥美からも返信は無い。
溜息をつきながら部室のドアノブを回す。先約がいるのか鍵がかかっていない。羽衣先輩か。
……ちなみに先輩とも最近何となくギクシャクしている気がする。
「先輩、お疲――れっ?!」
俺は息を呑んだ。部室にいた先約は羽衣先輩ではなく見知らぬ女性。
女子大生くらいの年頃か。長い髪を無造作に頭の上で縛った可愛らしい娘で――
「きゃああっ!」
なんか着替え中だ。下着姿の女性は何故か顔を覆ってしゃがみ込む。
「すいません!」
慌てて扉を閉める。
……てゆーか誰だ。見た感じ高校生には見えなかったが。そもそも部室には鍵がかかっていたはずだし、OGか?
戸惑う俺に扉越しに声がかけられる。
「……笹川君、まだいる? もう入っていいよ」
「はあ、失礼します」
あれ、今俺の名前呼ばれた?
部室に入ると、シャツを羽織りながら俺の傍に来たのは担任の鴨下初音先生だ。
「ごめんね、着替えてるところにいきなり入ってくるからびっくりして」
「先生、さっきここに誰かいませんでしたか」
「はい?! ここって私の他に誰かいるんですか?」
え、だって。さっきいたのは可愛らしい若い女性で。
あ、そういえばさっきの女性とブラが一緒だ。
「さっきの先生だったんですか?! というか、シャツの前開いてます!」
「顔……見た?」
「はい? いや、まあ」
いや、だから前隠してください。
「ああああああああ」
再びしゃがみ込む初音先生。
「あのチラッとですから。大丈夫です、そんな恥ずかしがるようなものでは」
なんで担任の先生の顔を見ただけでこんなに気を使わないといけないんだ。
それより下着姿に気を使ってくれ。
「そういえば、なんで部室で着替えてたんですか。先生用の更衣室ってありませんでしたっけ」
「職員更衣室、なんか居づらくて……」
あー、うん。教室から逃げてきた俺にはその気持ちは良く分かる。
とはいえ、この部室の鍵を持っているということは。
「ここの顧問って、先生だったんですね」
「知らなかったんですか? ちょくちょく来てたのに」
ようやくシャツのボタンを閉じながら、初音先生。
羽衣先輩といい、この部に関係する人は顔を隠す決まりでもあるのか。
「部室で会ったことありましたっけ」
「鉢合わせないようにタイミングを見計らってましたから」
何故か得意気に言う初音先生。なんなんだそれ。
まあいいや、とりあえず昼飯を食べてしまおう。
昨日の残りを詰めた弁当箱を開いていると、何故か初音先生が向かいの席に座る。
「先生もここで食べるんですか」
「いえ、あの。職員室、なんか居づらくて」
もう何も言うまい。
先生も手作り弁当のようだ。
興味本位で覗いた弁当の中身は、ゆかりご飯に梅干しと何かの梅紫蘇巻き、鶏肉の紫蘇巻き揚げ梅ソース掛け。
……何でそんなに梅と紫蘇ばかりなんだ。
「笹川君、最近、他の皆とはどう?」
「そうですね、まあどうにかこうにか」
初音先生と食事をするのは初めてだが。
おかずを掴んだ箸の先が髪の間に入って行き、箸だけが出てくるこの光景は何だか新鮮だ。中に何か居る、と言いたくなる。
「笹川君って、濡葉さんと仲良かったよね?」
「良いというかなんというか。体調、そんなに悪いんですか?」
何気なく尋ねた質問の答えに、俺は思わずをが止まった。
「体調というよりも、学校に来たがらないというか。濡葉さん、登校拒否みたいなことになってるの―――」




