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44 プリンセス綾乃 再臨2



 朔太郎と別れた後も、俺は一人で帰る気になれずにマクドナルドに立ち寄った。


「コーラのSと、えっと後は……」


 なんか限定バーガーやってたっけ。


 手元のメニューから何気に顔を上げた俺の視界に、巨大な二つの山が飛び込んでくる。



「……ビッグマック」


 俺は無意識に呟いた。


「はい、コーラSとビッグマックですね!」


 元気よく復唱する店員さん。あれ、この聞き覚えのある声は。



「プリンセス綾乃!?」



 店員はギョッとして周りを見回す。


「え、ちょっとお客様?! すいません、誰かとお間違えでは」


 こんな胸して人違いも何もあるものか。


 俺はカウンターに身を乗り出す。


「占いの館であなたから買ったお守りについてです! 話を聞かせて欲しいんです!」

「いや、あの。少し声を落としくれるかな……」


 諦めたように溜息をつくと、プリンセスは小声で呟いた。


「もう少しでシフトが終わるから。店の中で待ってて」



 ―――――――――

 ――――――――――――――



 珈琲を片手、プリンセスが俺の向かいの席に座る。


「占いの店は辞めたんだから。あんな風に呼ばないで」


 着席早々、不機嫌そうに足を組むプリンセス。


「すいません。でもこのお守りのことでちょっと話を聞きたくて」

「それ、あなたに譲ったんだから。前も言ったけど返品不可よ」


 取り付く島もない。目も合わせず苦そうに珈琲を啜るプリンセス。


 ……ついつい立派なお胸に気が逸れる。全く迷惑な話である。


「分かりました。でも知っていることを教えてくれないかと思って」


 俺は例のムーを取り出した。


 横目で本を見たプリンセスはハッと身を乗り出す。


「これ、良く持ってたわね。私もこの本の現物を見たのは初めてよ」

「この記事のこと知ってるんですか?」


 プリンセスは当然とばかりに頷いた。


「もちろん。書かれてないけど、この記事の死んだ男性ってのから、お守りを譲り受けたのが私の彼氏だし」

「えっ?! 彼氏さん?」


 思わぬ展開に俺は思わずむせた。


 プリンセスは俺に構わずお守りと記事の写真を見比べる。


「写真もこのお守りで間違いないと思う。私の知る限りこの記事に書かれていることは本当だし、あなたのお守りは正真正銘の本物よ。自信をもって」


 何の自信だ。いや、それより気になることが。


「ちょっと待ってください。これって俺が生まれる前の記事ですよ。あなたの恋人って――」


 俺を見つめながらプリンセスは意味ありげに微笑んだ。



「……彼、すごいわよ」



 なにそれエロイ。


 ……つーか何の話だ。俺はコーラを飲み切ると、紙コップを勢いよくテーブルに叩きつけた。


「で、どうすればいいんですか」

「え? 私に告白?」


「そうでなくて! このお守り、どうやって始末すればいいんですか?」

「ああ、誰かに譲ればいいのよ。10円でもタダでもいいから。所有権が移れば、あなたは解放されるわ」


 プリンセスは珈琲に砂糖を入れながら、鼻歌混じりにかき混ぜる。


「……捨てるとか、試したことありますか?」

「それはお勧めしないなあ。彼氏も何度も試したけど戻ってきたし。しかも、そのたびに骨折したり仕事クビになったり同じとこ骨折したりと散々な目に会ってたし」



 何それ怖い。骨折がデフォなのか。



「ちょ、ちょっと待ってください。そんな危険な物だなんて、聞いてなかったですよ」

「だって聞かれなかったし」


 いけしゃあしゃあとそう言うと、プリンセスはからかうように俺を見る。


「……それにさ、このお守りのおかげで少しくらいいい目に遭ったんじゃない?」


 いい目。いい目かー。思わず遠い目になる。


「むしろ大変な目にしか遭っていないというか」

「へえ、そうなんだ。君も見た目に寄らず意外とやるね」


 他人事みたいにそう言うと、プリンセスは美味しそうに珈琲を飲む。


「まあ、力をどう生かすかはあなた次第よ。気をつけて頑張ってね」


 俺は氷の溶けた水を啜りながら、プリンセスの胸を横目で眺める。

 畜生、乳がデカければ何でも許されると思いやがって。



 ……まあ、許すけど。 






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