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43 プリンセス綾乃 再臨1



「プリンセス綾乃はすでに退店しております。他の占い師からお選びください」



 受付娘は、頭のカチューシャを揺らしながら笑顔で告げた。


 放課後久しぶりに占いの館に来た俺は、いきなり梯子を外されて立ち尽くす。


「あの、彼女と連絡とれませんか? 大切な話があるんです!」


 そう言った途端、宇宙人娘の表情がガラリと変わる。


「個人情報ですので。どうぞ、お引き取り下さい」

「あの、せめて綾乃さんに聞くだけでも」


「お・ひ・き・と・り・く・だ・さ・い!」 


 宇宙人娘、怖い。

 雰囲気を察した朔太郎が俺を休憩スペースまで連行する。


「おい、さっきのはまずいぞ。あれじゃただのストーカーだ」

「だって彼女に会えないと困るんだよ」

「うむ、確かにあのGに再会したいのは分かるが。お、今日は女子大生の姿も見えるな」


 朔太郎は言いながら周りの女子達に視線を送る。


「あのお守りの件、そんなに気になるのか?」

「そりゃあ、な」


 ここまで色々なことが起こると、流石にナントカ効果で済ませるわけには行きそうもない。

 下手に捨てるのもなんか怖いし、ヘタレた俺はプリンセスに相談しに来たのだ。


 俺は缶珈琲を飲みながら、あの日の花音を思い出す。

 部屋に来るよう促した俺に、俯き加減で手を伸ばした彼女。



 あそこで葉世里が出てこなかったら。



 桃子さんが帰ってこなかったら。



 案外、何もかも上手くいって全てが解決していたのだろうか。


「お前、珈琲こぼしてるぞ!」

「ん、うわ!」


 俺はハンカチで珈琲を拭いて、却って染みを広げてしまう。


「お前、花音と何かあったのか?」

「え、いや。あったかというとなんというか、その」


 朔太郎も気付いている通り、ここ最近花音に避けられている。

 教室で話しかけても素っ気ないし、電話をかけても出てくれない。


「ここ最近、二人の間がぎこちないのは明白だ。喧嘩しているわけでもなさそうだし、一体何が」


 言いかけて、朔太郎は俺の顔をまじまじと凝視する。


「お前、まさか。百合園花音という方程式の解を出したというのか……?」

「は? なんだそれ」


「つまり、花音のありとあらゆるところを展開したのかと聞いている!」

「何か分からんがしてねーって! 花音を展開って……展開?」


 思わず頭の中を半裸の花音の姿が巡る。

 みるみる顔が火照るのが自分でも分かった。


 よーし、落ち着け俺。露出度は水着と一緒だぞ、水着と。

 水着好きだけど。


「誓って何もしてねーぞ! それに、告白されたわけでもないのに、好きとか嫌いと言うのも何かおかしいだろ」

「俺の恋愛理論によればだな。恋愛とは必ずしも宣言や契約によって始まるものではない」


「じゃあどうやって始まるんだ?」

「相手の気持ちをくみ取り自分の気持ちと向き合い、どのようにそれを受け入れるか、何を返すか。告白や返答で始まる恋愛もあれば、時に身体で語る愛もある」


 朔太郎、なんかカッコいいことを言い出したぞ。


「百合園花音のお前を想う優しい気遣い。濡葉弥美の想いを込めた手の込んだ料理。そして羽衣先輩のお前を頼り慕うあの眼差し」


 消火器で頭をかち割られかけたり、勝手に住所を調べられたりと結構な目にあってはいるが。そもそも羽衣先輩の目、お前見たことないだろ。



 ……まあしかし、言いたいことは良く分かった。



「ありがとう。もう少しちゃんと皆と向き合って、自分の気持ちも整理してみる」

「あと一人、なんかお前に付きまとっていると聞いたが」


 藍撫葉世里か。


 結局、あの日有耶無耶の内に合鍵は持ち帰られてしまった。

 あれ以来、風呂場で目をつむってシャンプーができなくなったので、シャンプーハットを買おうかと本気で考えている。


「まあ、あいつのことは考えるのを止めておこう。それより、弥美がこの何日か休んでるだろ。何か聞いてるか?」


 そう、彼女はこの数日学校を休んでいるのだ。


 試しに送ってみたLINEも既読が付かない。

 初音先生に聞いても「風邪とかなんかその辺の理由」とボヤっとした答えしか返ってこず、どうも腑に落ちない。


「いや。花音も同じこと聞いてきたぞ。もう三日になるし、見舞いでも行ったらどうだ」


 あの日、葉世里と花音を送り出した時だ。


 ロビーで待っていた弥美は予想に反して大人しく花音と一緒に帰っていった。


 その寂しげな後ろ姿以来、彼女の姿は見ていない。


「俺が見舞いに行くのはなあ……」


 歯切れの悪い俺を見て朔太郎は察したか。俺の肩をポンと叩いた。



「後はお前次第だ。悔いの無いようにな」




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