42 サビ猫視点 ~森の木蔭のやっかいさん
どれだけ時間が経ったのだろうか。
暴れ疲れた五所川原藻瑚は、自力での脱出を諦めて冷たく湿った地面に身を任せた。
……あの男は姉に連絡してくれると言っていたが、助けはいつ来るのだろうか。
こんな建物の隙間を偶然通りかかる人などいない。
助けが来なけばどうなるのだろう。確か天気予報では夕方から雨が降る見込みだったはず。
「むぐーっ!」
もう一度、じたばたと脱出を試みる。
……結果、粘着シートがさらに絡み、全く身動きが取れなくなった。
これも全部、笹川ユートとかいう男のせいだ。
無事生還した暁には、裏の術式を駆使してこの報いを――
からん。
「むが?」
何者かは分からないが、誰かが足音を殺して近付いてきている。
「むぐもがっ!」
よし、これで助かる。そう思ったのも束の間、藻瑚はあることに思い至った。
……その何者かは、何故忍び足で近付いて来ているのか?
最初に声位はかけるのでは?
彼女の背筋を冷たいものが走る。
「もがーっ! もがーっ!」
暴れる藻瑚の前にひょっこり現れたのは。一匹の猫。
「もが……」
猫は興味深げに藻瑚の匂いを嗅ぐ。
しばらくすると満足したのか。くるりと後ろを向いた。
フカフカの丸い玉が藻瑚の眼前に迫る。雄猫のようだ。
それにしてもフカフカだ。
藻瑚がほけーっと見惚れていると、何かに警戒でもしているのか。
猫は尻尾をぴんと立てた。
「もが?」
この行動は、猫好きな姉から聞いたことがある。なんだっけ。
そう、確か――マーキング行動。
「っっ!!! むぐーっ!」
五所川原藻瑚は心に決めた。笹川ユート――こいつだけは許さない。