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04 プリンセス綾乃2

「――安心して。今の持ち主は素敵な彼女ができたわよ」


 へえ、そうなんだ。なんか希望が出てきたぞ。


「今の持ち主って、どんな人なんですか?」

「私の彼氏。これ、彼氏のだし」


 そうなのか。つまり、彼氏はお守りの力でこのおっぱい、じゃなくて彼女を手に入れたのか。


「……でも、そんな大事な物を人にあげてもいいんですか」

「だって私という運命の人がいるんだから、もういらないでしょ? むしろ悪い虫が付かないように処分しとかないと」


 ゆらりと、プリンセスから黒いオーラが立ち登る。


「あいつ、人にあげたとか言って財布の中にずっと大事にしまってやがって」


 えー、なんか怖いぞ。これが大人の女の裏表というやつか。


「捨てても戻ってくるし、誰かに引き取ってもらおうかと」


 戻ってくる? まるで捨て犬だ。 


「あの、このお守りのせいで分かった彼氏の内面のいいところって」

「えー、そりゃ趣味も合って私を分かってくれて。優しくて思いやりもあるし、その、いわゆる相性の方もこれがまた。えへへへへ」


 口元を緩めながら優しく水晶玉を撫でまわすプリンセス綾乃。なんかやらしい。


「これがあれば、俺にも運命の相手が……?」


 恐る恐るお守りに手を伸ばす俺。


「あ、ただじゃないよ。お金は払ってよね」


 やっぱりだ。こうやって高額なお金を請求する気だ。もしくは借金漬けにして俺に汚れ仕事をさせるのか。俺は覚悟を決めて財布に手を伸ばした。


「一体、いくらするんですか?」

「千七百円」


 あ、意外と安い。


 お金と引き換えに受け取ったお守りをじっと見つめる。なんか丹念な刺繍で目のマークのようなものが描かれている。

 こんなオカルトチックな布袋で運命の人が見つかるのだろうか。


 そういえばこれって、さっきまでプリンセスの胸の間に挟まっていたはず。こっそりぬくもりが残っていないか確かめた。


「いいこと? そのお守りは手にしたら最後、誰かに譲り渡さない限り手放すことはできないわ。捨てても燃やしても、いつの間にか手元に戻ってくるの」


 そんな不気味なことは最初に言って欲しい。


「……まあ、話半分に聞いときます。このお守りの効果ってあなたにもあるんですよね。なんか俺への印象に変化はあります?」


「あー、うん。なんというか、仕事中にも関わらず君への興味がどんどん失せるというか。もうホントどうでもいいので、時間までスマホでも見て時間潰そっか。あ、そのお守りって返品不可だかんね」


 机にグデーっと上半身を預けると、プリンセス綾乃は本当にスマホをいじり始めた。ありなのか、それ。まだ何も占ってもらってないぞ。


 文句の一つも言おうとした俺だが、それどころではないことに気付いた。机に押し付けられたプリンセスのお胸が凄いことになっている。これが(暫定)Gカップの威力だ。


「君も適当にくつろいで。ハッピーターン食べる?」

「いえ、大丈夫です」


 スマホを見ながらハッピーターンを食べ始めるプリンセス綾乃。ハラハラと見守る俺の前で、お胸の間に魔法の粉が。


 いいぞ、ハッピーターン。もっとやれ。


「やだ、こぼしちゃった」


 胸元を更に開いてぱたぱたと粉を払うプリンセス。

 邪な視線に気付かれたか。プリンセスは苦笑いをしながら胸元を隠すと、名刺を差し出した。


「まあ、頑張ってね。内面を見てもらえるんだから、あなた次第で彼女の一人もできるわよ」


 ピピピピピ。名刺を受け取ると同時、タイマーの電子音が響く。


「それじゃ、今日はありがとうございました。またのご指名を待っています」


 夢の時間はもう終わり。俺はうんとかはいとか曖昧にお礼を言ってブースから外に出た。


 俺はフラフラと店内を歩きながら名刺とお守りをぼんやり眺める。

 冷静に考えると何故こんなものを信じたのだろう。


「……何故も何もあのおっぱいのせいだよな」


 俺はこっそりお守りの臭いを嗅いでみる。


「悠斗、どうだった?」


 背後からの声に、俺は慌ててお守りをポケットに押し込んだ。


「うわ、なんだよ急に! 別に普通だよ、普通。普通の占いだって!」

「そんなことは聞いていない。デカかったのか?!」


 あの迫力の前には言葉など無力だ。俺はただ頷いて朔太郎の肩に手を置いた。


「くっ、お前ばっかりいい思いをしやがって」

「お前こそどうだったんだよ。ファッション占いだっけ?」

「……制服だったからな。靴下くらいしかコメントもらえなかった」


 しばらく続いた無言。朔太郎は何かを決意した顔で財布を握りしめた。


「よし、恋愛理論構築のためだ。プリンセスに占ってもらってくるぞ」


 心を決めた男に口を挟むような野暮はしない。俺は朔太郎の背中を見送ると、その場を後にした。


 そう、家に帰って『復習』しなくてはならないことが多すぎるのだ。

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