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35 お守りの正体1



 俺は花音を正面から見つめながら、重々しく告げた。



「世の中には2種類の人間がいる」



 花音もまた真っすぐ俺の目を見つめ返す。



「味噌汁に茄子を入れる奴と入れない奴だ」

「好き嫌いせずに食べなさい」



 制服姿の花音は白菜の浅漬けを口に放り込み、小気味良い音をたてた。


 今日の朝飯は卵焼きとおろしナメコ、茄子の味噌汁。

 花音が平日に朝飯を作りに来てくれたのは弥美が転入してきたあの日以来か。


「茄子は嫌いじゃないんだぜ。でも味噌汁に入れたやつはだけは苦手でさ」

「茄子の揚げ浸しとか普通に食べてんじゃん。慣れよ慣れ」


 取り付く島もない。まあいい、それよりも火急に話をしておくことがある。


「お前さ、もうちょい羽衣先輩に優しくしてやってくれないか。あの人、お前らと違ってナイーブなんだから」

「なんかやけに先輩の肩を持つわね」


「先日のあれは本当に何でもないんだぜ。いきなり扉をぶち抜かれたら、誰だってびびるだろ」

「それは反省してるけどさ。……私が着くまで一体何をしてたのやら」


 味噌汁を啜りながら、ジト目で俺を見る花音。


「なっ、何にもしてないって!」

「いいけどー。私と弥美ちゃんの入部も正式に受理されたみたいだし」


 図らずもそういうことになってしまった。


「私も少しやり過ぎたと思ってるから、ちゃんと大人しくするわよ。相手は先輩なんだし」


 あれが少しか。こいつが全力出したらどうなるんだ。


「ねえ、そういえば弥美ちゃんに聞いたんだけど。先輩の妹さんが来たんだって? 似てた?」

「うんまあ、似てたといえば似てたな。色々と」


 嵐のように引っ掻き回して去っていった藻瑚ちゃんは、なんか別方向で厄介度が高そうな子だったな。


 しかし藻瑚ちゃんが現れてから、羽衣先輩はすっかり元気を取り戻したように見える。

 孫が遊びに来て元気になるお年寄りみたいなものか。


「弥美ちゃんにも話しとくよ。出入りするからには先輩と仲良くしようって」


 お願いだからそうしてくれ。


「それと今日の放課後だけどさ、私と弥美ちゃんは担任面談があるから少し遅れるよ」


 ふうん。そうなのか。丁度いい機会だ。一つ羽衣先輩と二人切りの時に聞いておきたい話がある。


 俺は味噌汁を飲み切ると、お椀を勢いよく食卓に置いた。


「ちゃんと具も食べなさい」

「……はい」



              ◇



「見てもらいたいものとはこれか?」


 羽衣先輩は、手の中の布袋を興味深そうに凝視した。


 話というのは他でもない。

 放課後、俺は羽衣先輩に頼み、例のお守りを見てもらうことにしたのだ。


 明らかにオカルトチックなこの見た目、よくよく考えればすぐ側に詳しそうな人がいたのだ。


「ええ。ちょっと手に入れたんですけど、気になって」

「外見は中近東でよく見られるタリスマンの一種だな。図案はエジプトのラーの目の紋様をモチーフにしているようだが、一つ気になるところがある」


 羽衣先輩は整った眉をしかめる。


「気になるとこ、ですか」

「これ、紋様は手刺繍なんだけど。裏返しじゃないかな」

「裏返し?」


 刺繍に裏とか表とかあるのか。


「見るがいい。綺麗に仕上げているけど、見えている面は裏糸だ。刺繍の表はお守りの内側を向いている」


 羽衣先輩の指先が刺繍をなぞる。


「じゃあ袋を縫う時、裏表を間違えたとか?」

「他の部分の刺繍は表向きなんだ。あえてここだけ裏向きに刺繍したんだと思う。となるとこれは右目でなく左目だから、ラーの目ではなく月の女神であるウジャトの目。ウジャトの目を裏返しにしたものだな」


 興奮気味に早口になる羽衣先輩。

 俺は微妙に話から置いて行かれているのを感じる。


「はあ。じゃあその、ウジャの目とかいうのにはどんな意味が」

「うむ」


 俺の質問に羽衣先輩は意味あり気にうなずくと、指を俺の額に当ててきた。


「ウジャトの目は癒しや再生の他、すべてを見通す知恵を現わす。しかし、裏返しということは患いや破滅、そして逆に持ち主が見通されることになる――」




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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり呪いのアイテムじゃん!
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