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32 濡れパセリ2



 ガチャリ。脱衣所の扉が開く音。


「ありがとう。先にシャワーもらったぞ」

「あ、ああ。制服、ここ置いてあるから――」


 何気なさを装って振り向いた俺は、思わず息を呑んだ。


 風呂上がりの藍撫葉世里が着ているのは俺のワイシャツ。

 彼女はぼんやりした表情でダボダボの袖をまくりながら大きく欠伸を一つ。


「暖まったし、すっきり目も覚めたぞ」


 うん、それは良かった。

 それよりなんというかワイシャツの下、むきだしの脚が丸見えだ。流石に俺は目を逸らした。


「着替え、それしか無かったのか? 悪い、ジャージかなんか持ってくるから」

「大丈夫、ちゃんと下も履いてるから。こっち見ても構わない」


 あ、そうなの?


 シャツの裾で見えないだけで、短パンかなんか履いてたのか。俺は安心して向き直る。


 ストン。その時、葉世里のシャツの中から落ちてきたのは俺のトランクス。


「っ?!」

「やっぱちょっとサイズ大きいな」


 もそもそと履き直す藍撫葉世里。


「な、何で俺の下着履いてんだよ!」

「え」


 ススス、と俺から距離を取る葉世里。


「ノーパン強要とか、いくらなんでも攻めすぎだ。自重しろ」


 いやいやいや、相変わらず何言ってんだこいつ。


 しかし怒っては駄目だ。

 やっかいさんを相手にする時は刺激せず、一つずつ解決していくのが肝要だ。


「あのな、藍撫さん。俺にそんな趣味は無いから、下着はもちろんズボンも履こう。なんか履くもの持ってくるから」


 また落ちると困るし。


「私のことは葉世里でいい。家族、みんなそう呼んでるし」


 うんまあ、それは家族だからじゃなかろうか。


 俺は自分の部屋からジャージを持ってくると彼女に手渡した。シャンプーと湿った髪の香りが鼻をくすぐる。


 葉世里のワイシャツ姿を何気にチラ見したが。

 あれ、こいつワイシャツの下、何も付けてない……?


「どうした?」

「いやいやいや! 俺もシャワー浴びてくる! 飲み物は冷蔵庫にあるから何でも飲んで!」


 浴室に飛び込んだ俺は熱いシャワーを浴びながら、混乱する頭を必死に落ち着かせる。


 まずは洗濯機が止まったら乾燥かけて、その間にアイロンで制服を乾かそう。

 靴は中敷き外してドライヤーでいけるだろ。


 うん良し、頭の中に邪な考えは無い。

 両頬をパチンと叩くと、俺は浴室の扉を開けた。


 ……そこに居たのはしゃがみ込んだ藍撫葉世里。

 俺の腰の高さ、眠そうな顔で俺のとある部位を見詰めている。



「きゃあっ!」



 俺は思わず悲鳴を上げてしゃがみ込む。なんでこいつがいるんだ。


「笹川悠斗。洗濯機が止まったので乾燥を使わせてもらうぞ」


 表情を変えるでもなくボタンの操作を続ける葉世里。

 あれ。なんだこの反応。


「あの、見えた?」

「大丈夫。小学生の弟と良く風呂に入るし。そういうのは見慣れてる」

「そ、そうか。ならいいが」


 葉世里は動じるでもなくボタンを押すと、脱衣所を出て行った。

 良かった。一瞬どうなることかと思ったが。


 ……ん。いや待て、全然良くないぞ。俺の大人さんを小学生呼ばわりとは。そんなはずはない。もう一度ちゃんと見てくれ――って、それじゃ変態だ。


 俺は頭を抱えた。全裸で。



――――

――――――――



「――――お姉さん、ありがとうございました」



 制服姿の葉世里はぺこりと頭を下げる。

 俺、こいつを2度も助けたんだけど、そんなんされた覚えはないぞ。


「私、悠斗の叔母さんだよ。お姉さんに見えた?」

「え。若いからてっきりお姉さんかと」


 桃子さんは満面の笑み。


「あらー、よく言われるわ。いいのいいの、気にしないで。葉世里ちゃん、いつでも遊びにおいでよ」

「いいのか」

「こんな可愛い子なら歓迎よ。いっそのことお嫁に来ちゃいなよ」


 俺は桃子さんを強めに小突く。だから誰にでもそんなこと言うんじゃありません。



「……心得た」



 葉世里、お前も反応が変だ。

 もう一度頭を下げて出て行こうとする葉世里を俺は呼び止める。


「ちょっと葉世里。お前弟が小学生とか言ったよな。何年生?」


 決して風呂場でのことを気にしている訳ではない。

 最近の小学生は発育が良いと聞くし、ほぼ中学生の6年生なら大人みたいなもので――


「4年生だけど。それがどうした」


 なるほど。4年生。10才くらいか。

 うん、特に気にしている訳ではないが。


「ちなみに写真とか持ってないか? こう、全身が写ったやつとか」

「え」


 葉世里はドン引き顔で後ろ手にドアノブを回す。


「嗜好は人それぞれとは思うが。小学生男子はいかがなものかと」

「あ、おい、そういう意味じゃ。ちょっと待って!」

「それではさよなら」


 逃げ出した葉世里を追いかけようとした俺を、背後から力強い腕が捕まえる。


「ちょっと待ちなさい、悠斗!」

「あいつを捕まえて誤解を解かないと」

「実は私、その辺りの事情には詳しいの」


 えーと、その辺の平べったい界隈の事情に詳しいのは良く知っています。


 桃子さんは怪しく目を輝かせながら、俺を掴む手に力を込めた。



「――その話、詳しく聞かせてもらいましょうか」




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