03 プリンセス綾乃
プリンセス綾乃。水晶玉占いの使い手にして(推定)Gカップ。
俺は受付嬢に促されるまま、黒いカーテンをくぐった。向こう側には大学生くらいだろうか。写真よりも可愛いらしい女性が笑顔で待っていた。
そして、写真と同じく胸元に大きく空いた穴。内心で思わずガッツポーズ。
「いらっしゃい。どうぞ、そこに座って」
「あ、はい」
緊張しつつ椅子に座る。なんか暗い空間で綺麗なお姉さんと二人切り。
そのシチュだけで何だかお腹いっぱいです。
プリンセス綾乃は水晶玉に手をかざすと、何事かを呟いた。
「君、恋の悩みをお持ちね?」
「え、分かるんですか」
「まあね、この水晶玉に全部映ってるわ」
俺の返事に気を良くしたか、プリンセスは満足そうに頷いて水晶玉に視線を戻す。視線が逸れたのを確認し、プリンセスの胸元に目をやった。
写真通り、なのかもしれないが、リアルの”G”は画面では伝わらない迫力で俺を圧倒してくる。
「見える、見えるわ。君、好きな人が自分をどう思っているのか気になるんでしょ?」
「え? いや、俺、好きな人とかいないです」
思わず本音で答えた途端、場の空気が変わった、プリンセスの顔から営業スマイルが消える。
「君、何しに来たの?」
胸を、じゃない。えっとなんだろう。俺、何しに来たんだっけ。
「冷やかしはお断りなんだけど。ここ、恋占いだから」
ああ、そうだ。運命の人に出会いたい。ずっと前から願ってきたじゃないか。
「いえ、その、好きな人はいないんですけど、世の中にはきっと運命の人がいるんだと思うんです。その人と出会えるかどうか占って欲しくて」
「え。いないわよ、そんなの」
占いもせずに即答だ。プリンセス冷たい。母性溢れる胸元のくせに。
「で、でも、俺の内面を見てくれて好きになる運命の相手とか、どこかにいるかもしれないじゃないですか」
「えー、だってあなたの内面を見てもらえるくらいの仲になって、そこから初めて惚れた腫れたになるんじゃない?」
悔しいが正論だ。
「だから内面を見てもらって運命の人と結ばれるために、人は自分を磨いて人の輪を広げていくのよ」
髪の毛の先をくりくりしながら、出来の悪い生徒をたしなめるように言葉を続けるプリンセス。
「やはりそうなんですね。かぼちゃの馬車に乗ったお姫様なんていないのか……」
「うわ、なにそのキモイ妄想」
やっぱり俺、キモイのか。うん、年上の綺麗なお姉さまに言われるとかなり染みるぜ。
「……あなたと同じことを言ってた奴を一人だけ知ってるわ」
こんな奴が他にもいるのか。少し救われた気持ちになる。
「いいでしょう。自分を知ってもらうためのプロセス。それを飛び越えられる、たった一つの冴えたやり方があるわ」
プリンセスはこともあろうに胸の間に手を突っ込むと、何かを取り出した。
「うわ、な、なにを!」
「やーね、興奮しないでよ。これよ、お守り」
プリンセスが胸の間から取り出したのは小さな布袋。なんだかモヤモヤした気持ちのままの俺を置き去りに、説明を続けるプリンセス。
「このお守りを持っていれば。本来、友達や仲間として過ごす中で見えてくるはずの、あなたの内面を最初から女性に見てもらえるの。まあ、周りの女性全員が幼馴染になるようなものね」
「内面……? それで、運命の相手が見つかるんですか」
「それはあなた次第ね。そもそもあなたの内面に魅力を感じない子にはどうもこうもないから、脈のない子と付き合ったりできないし。反対に悪い所も伝わるから却ってモテなくなることもあるからね」
無数の幼馴染に囲まれながら、誰からも見向きもされない場面が目に浮かぶ。
「まあ、これで駄目なら諦めがつくよ。切り替えていきなさい」
「だけど、これって本当に効き目があるんですか?」
最もな俺の疑問に、プリンセスは怪しく微笑んだ。
「――安心して。今の持ち主は素敵な彼女ができたわよ」