26 放課後デート? 2
「――――待たせたな。さあ行こうか」
「いえ、俺も今来たところです」
聞こえてくる落ち着いた声。
わくわくしながら振り向くと、そこには目隠しと刺繍入りマントを身にまとった羽衣先輩。
……おう。この人、校外でもこの格好なのか。
流石の俺も怖気付く。
「そうか、良かった。それでその、あの……」
「? 先輩。行かないんですか?」
羽衣先輩、なんか挙動不審に手を握ったり開いたりながら、こっちをチラチラ見ている。
「あの、先輩?」
「こういった場合のマナーと言うか。手、とか繋ぐものなのか?」
繋がないです。
びっくりした。突然何言うんだこの人。
「う、うむ、今世では男子と買い物など初めてなのでな。前世のカルドラドではユートと轡を並べて竜を駆ったものだったが」
すごいな俺の前世。
羽衣先輩の案内で住宅街を抜けると、人通りもまばらな小さな商店街。
こんなところもあったんだな。
ほどなく一軒の店の前、羽衣先輩はパタパタとマントの埃を払った。
「珈琲豆の店だけど、紅茶の品揃えも良くて」
扉を開けると心地の良いベルの音。
珈琲の香りが漂ってくる。
「ご主人、お久しぶりです」
「羽衣ちゃん、いらっしゃい。新しいの色々入ってるよ」
髭の店主とは顔なじみなのか。羽衣先輩は親しげに挨拶を交わしている。
ともかく、恰好に驚かれないのはありがたいぞ。俺は先輩と並んで茶葉の棚を眺める。
「先輩、とりあえずいくつか買っていきましょうか」
……言ったはいいが割といい値段するな。
しばらく桃子さんにはモヤシとか食わせとこう。
「じゃあ、ユート。アーマッドのアールグレイと、あと何かティーバッグを買っておこう」
「この金色のアップルティーと、水色の缶も部室にありましたよね。そっちも買い直しましょう」
「え、でも結構するよ」
「葉っぱを全部駄目にしたお詫びですから。あ、さっきこれも見てましたよね。一緒に買いましょう」
羽衣先輩が先程興味深げに眺めていた黒いパッケージも手に取った。ふっ、こういった気遣いが好感度を――
あ、やばい。これ、ガチの値段する系だ。
「あの、それかなり高いから。無理しないで」
「いやいや、気にしないで。俺も飲んでみたいし」
男は見栄も大切だ。特に女の子の前では。
……レジでの会計中、無慈悲に上がっていく合計金額を見ながら、当分桃子さんの酒を水で薄めることを心に決めた。
「新しい部員入ったんだ。良かったね」
店主は紅茶を紙袋に詰めながら、からかうように俺達を眺める。
「それとも彼氏かい?」
「ふぁっ?! いえいえ、ユートは後輩で、まだ仮入部で」
やたらワタワタする羽衣先輩。相変わらずちょろ可愛い人だなあ。
俺はお礼を言って店主から紙袋を受け取った。
「じゃあ、先輩。早速戻ってお茶を飲みましょう」
――――部室に着くと、羽衣先輩は紙袋の中身を机に並べ始める。
「店主にも困ったものだな。軽口ばかり」
「でもまあ、そうですよね。これだけダラダラ引っ張るのもなんか変だし」
「ん? どういうことだ、ユート?」
「外から見たら、店長さんの言う通りですからね。俺もはっきりしようかと」
俺の言葉にしばらくぽかんとしていた羽衣先輩だが、突然素っ頓狂な大声をあげた。
「えええええっ! そ、そんな、急に言われても! まだ会ったばかりなのに」
「? でもお試しには十分な期間じゃないですか。初日からって人も多いと聞きますし」
「初日から?! 皆、そんな乱れているの?!」
「乱れ……? あれ、駄目なんですか?」
「え、いや、全然駄目じゃない! けど。え、え、本気なの?」
羽衣先輩、えらく興奮しているぞ。
そんなに嬉しいのか。確かに苦労していたみたいだし。
俺はわたつく羽衣先輩に手を差し出した――――