25 放課後デート? 1
昼休みも終わり頃。
コッソリ教室に戻った俺は、あっさりと花音に連行された。
「悠斗、あんたどこ行ってたのよ! 弥美ちゃん、なんか大変だったのよ! なんか――」
花音はしばし視線を宙に泳がせ言葉を探し、
「なんか、大変だったの……」
疲れた顔で俯く。
……うん、とにかく大変だったのは良く分かった。
「もう全部、新嵩山の現場に埋めちゃいたい……。弥美ちゃんも悠斗も全部……」
うわ、なんかやばいモードに入っている。つーか俺も埋められ候補か。
「ホントごめん! 悪い、ちょっと部室に行っててさ」
「部室? 悠斗、いつの間に部活入ったの?」
「まだ仮入部なんだけど、超常現象研究会とかいうとこで」
「え、それってまさか超常研」
「あー、多分それ。どうかしたのか?」
「本当かどうか知らないけど。あそこって、目隠しした変な先輩がでるとかでないとか」
実在するし確かにちょっと変だけど。
羽衣先輩、UMA扱いか。
「とにかくさ。授業後、買い出しに行くことになって。弥美にうまく言っておいてくれないか」
「うわ。荷が重い」
本気でつらそうな顔をする花音。
「悪いな、頼めるの花音しかいなくてさ。今度なんか奢るから」
「じゃあ、カフェ」
拗ねたように口を尖らせ花音がボソリと言い捨てる。
「カフェ?」
「駅前のカフェ、私も連れてってよ」
「それでいいのか? 分かった。じゃあ今度一緒に行こうぜ」
「うん!」
にやけながら答える花音。
なんだ、やけに素直だなこいつ。そんなにカフェに行きたかったのか。
「じゃ俺、放課後すぐに出るからさ。弥美になんか言われたら適当にごまかしといてよ」
「あのさ、弥美ちゃんと距離を取るのはいいけど、ちゃんと自分の口から話しなさいよ」
話した結果がこれなのだが。
まあ確かに逃げ続けてばかりでは事態は悪化するばかりだ。
どこかでちゃんと結論を出さなきゃとは思うが、何の結論を出せばいいのか皆目見当がつかない。
「それと、あんたろくに昼飯食べてないでしょ。これ」
物思いに沈む俺に小さな紙袋を押し付ける花音。
「なにこれ」
「おにぎり、作っといたから。お腹空いたら食べて」
「お、おう。ありがと……」
教室に戻ろうとした俺は驚きのあまり、思わず目をゴシゴシこすった。
目の錯覚なのか。
現実世界の中、なんか一人だけキャラデザが違う女生徒がいるのだ。
教室の扉の陰から、弥美が晩年のゴッホみたいなゾワゾワした絵柄で俺をじっと見詰めている。
嗚呼、せめて印象派にしてくれないか。
……俺はこの娘を出し抜いて、羽衣先輩と買い物に行こうとしているのか。
俺は自分がしようとしていることの恐ろしさに慄きながら、先生に頭を小突かれるまで廊下に立ち尽くしていた。
◇
コツとしてはカバンを置いたまま、スマホを耳にさり気なく教室を出ることだ。
すぐに戻ってくる感を出すために、机に開けたばかりのお菓子とか置いておくとさらに良い。
教室を抜け出した俺は待ち合わせ場所で息を整える。
待ち合わせの西門は校舎の陰になっている通用門だ。
バス通りに出るには遠回りなので、使う生徒はほとんどいない。
なるほど、人目を避けるには最適だ。
さて、楽しみなのは羽衣先輩だ。
まさか登下校時にもあんな恰好ではないだろう。
サングラスくらいはしているかもしれないが、目隠しをしていない羽衣先輩と初めて会うのだ。
「待たせたな。さあ行こうか」
俺は羽衣先輩の声に振り向いた――――