23 既成事実1
なんともおかしな週末だった。
弥美は押しかけてくるし、新たなやっかいさんとの出会いもあったし。
まあクラスも違うから、藍撫葉世里と関わることはもう無いだろうが。
「おはようございます、悠斗さん」
「お、おはよう、弥美」
「朝からどうしたの。変なの」
そう言ってクスクス笑う。
月曜の朝、教室で会った弥美はいつも通りだった。むしろ機嫌がよいくらいだ。
ビクビクと怯える俺に、弥美は嬉しそうに笑顔を向けてくる。
「この前のカフェ、とても素敵だったね。食事もおいしかったし店員さんラテアートでハートマーク描いてくれて。私達、恋人同士に見えたのかな。ねえ、悠斗さんはどう思う?」
「えーと、あの。どうだろうね」
「それとね、やっぱり私達って外から見てちょうど釣り合いが取れるというか空気感が会うというかそんなところがあると思うの。ご家族も公認だし二人の間に障害はないのだから次の段階に進んでもいいのかなとか思ったりもするんだけど悠斗さんはどう思います?」
興奮して一気にまくしたてる弥美。
ただならぬ雰囲気に周りのクラスメート達がざわめきだした。
「ちょ、ちょっと弥美、落ち着こうか」
「今日のお昼なんだけど。連れて行ってもらったカフェを思い出して、ガレットを焼いてみたの。悠斗さんも喜ぶと思って」
ん。あれ。何でこの娘、しれっと弁当作ってきてるんだろう。
「えーと、あのね。もう弁当は止めにしようと言ったと思うんだけど」
「花音さんがお弁当作りを辞めたっていうから、今日からは二人でご飯を食べれるね。中庭のベンチが空いてたらいいんだけど」
「あの、弁当はもう止めようって話を」
「ふふ、だーめ。中身はまだ見せられないよ」
ドガガシャ。派手な音にクラス中の視線が教室の扉に集まる。
初音先生が扉を開け損ねてぶつかったのだ。
何故そうなるのか分からないが、そうなのだから仕方ない。
「いたた……。みなさん、席についてくださ~い」
だらだらと自分の席に戻るクラスメート達。
弥美が俺の腕をチョンとつついた。
「今日の昼休み、楽しみだね」
◇
休み時間、先生が教室を出るや否やクラスメートが俺と弥美に殺到した。
「ねえちょっと、二人付き合い始めたの?」
「おい、笹川! お前いつの間に!」
目をランランと輝かせる女子達と対称的に男子の目が怖い。
どいつもこいつも血走ってるぞ。
「いやいやいや! 俺達そんなんじゃないから! な、弥美」
「えー、そう見えちゃったかなー。まだ違いますよ。まだ」
『おおーっ!』
意味ありげな弥美のセリフに盛り上がる教室。
いやいやいや、まだも何もなんにもないだろ。
「え、でも百合園さんは」
誰かが余計なことを言う。
というか、俺と花音って周りからそんな風に見られてたのか。
皆が一斉に振り返り、注目された花音がビクリと身を震わせた。
「え、なに? 私?」
土木施工管理技士の参考書から顔を上げた花音は興味無さ気にボソリと答える。
「私と悠斗はタダの幼馴染だし、好きにすればいいんじゃないかな」
『おおーっ!』
今のどこが盛り上がりポイントなんだ。クラスの連中、完全に面白がってやがる。
このまま俺と弥美の仲が既成事実になってしまうのか。
いやそりゃ、こんな美少女に熱烈に愛されて何の不満があるのかって話だが。
――休み時間のたびに質問攻めと弥美の熱烈なアピールにさらされた俺は、昼休み、チャイムが鳴った途端に教室を逃げ出した。