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22 不愛想ロリ 藍撫葉世里2

 じゃあ、どうしろと。


 戸惑う俺に彼女は変なことを言い出した。


「私に考えがある。木の根元に仰向けに寝て欲しい」

「それでどうやって助けるんだ」

「私がそこに飛び降りるから、頑張って耐えて欲しい」


 ……無茶言うな。


「いやいや、そんなことしたら死ぬって。いいから人呼ぶぞ」

「分かった。じゃあ、間を採ろう」


 間を採ると、どうなるんだ。人を呼んで並んで寝ろとでも言うつもりか。


「両手を木の幹につけてその場で踏ん張ってくれ。私がそれを使って降りる」


 俺をハシゴ代わりにするということか。

 まあ、最初の案に比べればずいぶんましだ。俺は言われた通りに幹に手をついた。


「遠慮せず、肩や背中に乗ってくれ。危ないと思ったら無理をせず――」


 最後まで言い終わる間もなく、俺は衝撃に吹き飛ばされた。


 一体何が起きたのだ。

 一瞬途切れた意識の中、気が付けば女の子が俺に馬乗りになっている。


 ……こいつ、俺に向かってダイブしたのか。何て奴だ。


「計算通りだ。丁度良いクッションだっだぞ」


 女の子はスカートの汚れを払いながら立ち上がる。


「お、お前、俺を殺す気か」

「殺す気ならもっと別の手段をとる。私が助かってよかったな」


 女の子が差し出した手を掴み、何とか立ち上がる。マジ痛い。


「いやもうホント、死ぬかと思ったぞ」

「改めて礼を言う。私は藍撫アイブだ。ちゃんとした礼はそのうち」


 アイブさんか。変わった苗字だな。なんかちょっとエロい響きだし。


 結構ロリ可愛い子だが油断ならない。

 最近すっかり感度を増した俺のやっかいさんレーダーが反応している。


「俺は笹川悠斗。怪我がないようなら何より。それじゃ」


 そそくさとその場を立ち去ろうとしたが、逃がさないとばかりに手を掴まれた。


「え、なに?」

「笹川悠斗といったな。なぜフルネームで名乗ったのだ。私に気でもあるのか」


 特に深い意味はないですが。


 まあ確かに普通ちょっと挨拶するときにフルネームを言わないよな。

 まさか無意識でこの娘に気でもあるのか。


 悩む俺の顔をやたら近い距離でのぞき込んでくる藍撫さん。


「やっぱりか」

「え、どうしたの?」

「どこかで見た顔だと思ったら。こないだ占い屋にいた人だ」


 ああ、そういえばうちの学校の女生徒もいた気が。こいつもいたのか。


「アイス食べてる女子高生をナンパしようとしてただろ」


 うわ、なんてとこ見てやがる。しかもしようとしたの朔太郎だし。


「いや、それは友達の方だ。俺は何も変な行動は」

「でかい胸がどうとかずっと話していたじゃないか。同じ高校の生徒として、とても恥ずかしかったぞ」


 おっと、これは言い訳できない。


「私は理解のある方だがな。男はでかいのが好きなのだろ」

「ちょ、ちょっと人聞きが悪いぞ。俺はでかいとかのが好きとかそんなことは」

「じゃあ、小さい女の子が好きなのか」


 やめて。もっと人聞きが悪くなった。


「まあ、そういう趣味なら私に気があるのも分からなくはないが。さすがに初対面だし節度を守ってくれ」


 ……いやいや、こいつも何言ってんだ。

 俺のやっかいさんレーダーの値はレッドゾーンを指している。


「それに猫と話をするほど寂しいのなら、話相手くらいにはなってやるぞ。A組の藍撫葉世里あいぶぱせりを訪ねてきてくれ」

「いやさっきのあれは。突然声がしたから猫が話しかけてきたのかと思って」

「え、猫が話しかけてきたと思ったのか」


 何故か俺からゆっくり距離を取る藍撫葉世里あいぶぱせり


 ……あれ、なんだこれ。


「そうだけどそうじゃないというか。誤解があるようだし、ちょっと話をしないか」

「うん、そうだな。いつか猫と話せるといいな」


 じりじりと俺との距離を広げる藍撫葉世里あいぶぱせり


「笹川、知ってるか? ここで大声を上げると、職員室まで聞こえるそうだぞ。意外と近いんだな」


 待て待て。ひどい誤解だ。俺が女生徒に狼藉を働こうとしたなんて話になっては困る。


 名前もばれてるし、このまま彼女に去られてはまずい。何かないか。俺は苦し紛れにポケットの猫おやつを取り出した。


「……それは?」

「猫界で大人気。今一番来ている液状の猫おやつ、ちゅるりらだ」

「液状おやつ?」


 よし、興味を示したぞ。俺はゆっくり、ちゅるりらを彼女に差し出した。


「ああ。ちゅるちゅる絞り出し、猫が夢中になってペロペロ舐めるって寸法だ」

「ほう。私を餌付けしようというのか」

「……だとしたら?」


 藍撫葉世里あいぶぱせりは眠そうな目に警戒の色を浮かべつつ、俺に向かってにじり寄ってくる。


「ちなみに、猫たちの間では直舐めがトレンドだ」

「!」


 滑るように距離を詰めてきた藍撫葉世里あいぶぱせりは指先でちゅるりらを受け取った。 


「そういうことか。分かった、ありがたく受け取ろう」


 そういうことってどういうことだ。

 一瞬正気に戻る俺だが、それ以上は考えないことに決めた。


 フラフラと猫を求めて彷徨し始めた藍撫葉世里あいぶぱせりを見送ると、俺は部室の扉を開ける。


 

 貴重な日曜日。今日は月間ムーの80年代を制覇するとしよう――


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