21 不愛想ロリ 藍撫葉世里1
『えーと。つまりまた、のろけなのかな?』
電話越し、呆れたような花音の声。
「マジか。お前、俺の話聞いた上での感想なのか」
なんだろう、このどいつこいつも話が通じない感は。
『私、カフェとか連れて行ってもらったことないんだけど』
何故そこで張り合う。
「カフェなんてちょっとおしゃれなだけで何もいいことないぞ。女しかいないし、値段の割に量が少ないし」
『じゃあカツ丼とか肉うどんとか頼めばいいじゃない』
無いぞそんなもの。花音の中のカフェって町の定食屋か。
「そもそも、花音が余計なことばっかり言うから。弥美が家に上がろうとするのを断るの大変だったんだぞ」
『えー、いいじゃん上げてあげれば。私だって出入りしてんじゃん』
花音よ。お前のそれとはちょっと違うんだ。
「まあとにかく、友人としてケジメをつけた付き合い方をしないとな。明日からの弁当もちゃんと断ったし」
『え、弥美ちゃんに言ったんだ。素直に聞いてくれた?』
「駅の改札で言って、そのまま全速力で逃げてきたから」
『うわ、かっこ悪』
だって怖かったんだもん。言った途端、顔色変わるし。
なんか背後で改札を突破しようとした弥美と駅員が揉めてる気配がしてたが、大丈夫だったろうか。
『もうちょっと弥美ちゃんに優しくしてあげなよ。最近、学校でも上級生に付きまとわれてるみたいだしさ』
「最近は見かけないけど、まだそんなのが来てるのか?」
『それが、なんかチャラい感じの3年生が一人、懲りずにまだ来てるのよ。気付いたら私が追い払ってるけどさ』
「……お前、なんか相手に酷いことしてないだろうな」
『は? 何で私の心配しないのよ』
花音の声のトーンが低くなる。
「えーと、お前を信用してるんだって。弥美のことよろしく頼むぜ」
『んー、悠斗のフォローもしてあげたいとこだけど。明日は玉掛けの技能講習の予定があってさ』
へえ。なんだそれ。
『まあ、クレーンは物心ついたころからやってたから、後は資格だけなんだけど』
そういえば明日は日曜日。もしかして明日も弥美がマンションに押しかけてきたりするのだろうか。
『山からの吹きおろしの風が厄介でさ。こないだうちの現場で――』
花音のクレーン談義を聞きながら、俺は明日の身の隠し方を考えていた。
◇
日曜だというのに俺は部室のある学校の旧校舎裏に来ていた。
弥美と会いそうな駅前付近を避けてほっつき歩いていたのだが、人目を避けるとなると意外と行く場所がないものだ。
グラウンドからは遠く運動部の掛け声が聞こえる。
俺はポケットを探り、途中のコンビニで買った猫エサを握りしめた。さて、今日は情け容赦なく猫どもを虜にしてやる。
「……もし。……もし」
ん? 誰かが俺に話しかけている。
あたりを見渡すが人の姿はない。
はて。裏庭で俺の他に居るのは、木の根元でゴロリと日向ぼっこをしている三毛猫が一匹だけだ。俺をじっと見つめる三毛猫。
え、まさか。猫が俺に話しかけているのか? あのお守りにはそんな隠れた力が。
俺は恐る恐る猫に近付いた。
「なあ。ひょっとしてお前、俺の言葉が――」
「もし。もし。そこの人」
再び聞こえる声。あれ、これって頭上から聞こえてないか。見上げた俺の目に写ったのは、やっぱり猫――じゃない、猫柄の下着だ。
「うわっ!?」
思わず飛びのく俺。樫の太い枝の上、小柄な女の子が立っている。
「あんた、そんなところで一体何を」
「猫を追って木に登ったら降りられなくなった」
淡々とした口調であくびを噛み殺しながら、
「怖いので助けてくれ」
言ってから、こらえきれずに大あくび。なんだこの緊張感の無さ。
「分かった。人を呼んでくるから、それまでじっとしてて」
「それはちょっと待ってくれ」
え、なんでだ。助けて欲しいんじゃないのか。
「人に見られたら恥ずかしいじゃないか」
じゃあ、どうしろと。戸惑う俺に彼女は変なことを言い出した――