19 スマブラは話の後で2
「実はこないだの占いでこれを――」
俺はお守りを入手した時のことを掻い摘んで話した。
ふむ、と言いながらお守りを鼻に寄せる朔太郎。
「おい、何で匂いをかいでんだよ」
「中に何か催淫性の薬品でも仕込まれていないかと思ってな。どうかしたのか?」
「い、いや……」
このお守りがプリンセスの胸の間に入っていたことは秘密にしておこう。
「何か仕込まれていたにせよ、あれほどの奇跡が起こるとは考えにくい。プライミング効果による暗示で、このお守りの効果だと思い込んだのではないか」
「ほほう。プラ……うん、それな」
全然分からんが分かったふりでもしておこう。
「……仮にだ。このお守りの力が本物だとしたら、大変な『チート能力』だと言わざるを得ないぞ」
「チート? 俺の内面を知ってもらえることが、そんなにもチートなのか?」
「逆だよ。“お前の内面を知ることができる”……それが一部の女性にとってはチート級の能力だ」
ふむ、なるほど。つまり――――
「俺の内面が素晴らしい、ってことか?」
「いや、そうは言ってない」
朔太郎、少しはオブラートに包んでくれ。
「例えばイケメンが好きな女性がいるとしよう」
「はあ、イケメン」
なぜ突然、イケメンの話が。
イケメンは嫌いではないが、イケメン好きな女性が好きなわけではない。
「その女性が好みの男性を探す時にはどうすればいい?」
「え? そりゃイケメン好きなんだから、見た目が好みの人を探せばいいだろ」
「うむ。同様に金持ちが好き、頭のいい人が好き、スポーツマンが好き……。それぞれ、外側から知ることができる」
そりゃそうだ。
当たり前の話なだけに先が読めない。俺は思わず身を乗り出した。
「つまりどういうことなんだ?」
「つまりだな。性格や人間性になると、実際に関係を深めて付き合ってみないと分からないことも多い。結婚してすら、知らないことが日々出てくるのが人間の内面という奴だ」
「ははあ……」
朔太郎は真剣な俺の表情を見て吹き出した。
……失礼な奴だな。
「悪い悪い。とにかく単にお前が“人並程度にお人好しでいい奴”だってことすら、それを求める女性には得難い情報なんだぞ?」
「そんなもんなのか?」
「ああ。濡葉弥美みたいな美貌を持っていればなおさらだ。常日頃から男の欲望と女の妬みに晒されているとしたら、精神的な安定を求めることは不思議ではない」
なるほど。朔太郎が長々と説明してくれたが、要するに――
「つまり俺の取り柄が“人並程度にお人好しでいい奴”ってだけってことか?」
「うむ、分かってくれて嬉しい」
「……」
反論しようにも、何か俺に取り柄があるかと言われると。
「だがしかし。このお守りが偽物だったとすれば、単に弥美が俺に一目惚れしたということにならないか?」
「……その場合、今までの恋愛理論を大幅に書き換える一つの仮説がある」
「ほう、聞かせて貰おうか」
朔太郎は俺にお守りを返しながら、眼鏡をクイッと押し上げる。
「濡葉弥美の登校初日、彼女は俺に席を譲るようお願いをした。つまり俺に一目惚れをして、とにかく話しかけたかったという説だ」
なんだその都合のいい仮説は。
「そしてシャイな彼女は友人と思しきお前を昼食に誘い、俺の同衾を狙ったのだ」
ふむ、弥美が朔太郎に一目惚れをしたというならすべて説明が――
「いや、それはない」
「ではお前に一目惚れをしたという説を採るということか」
「まだその方が数学的にありうるだろ」
「意見の一致を得ないようだな。では勝負を選ぶということか」
朔太郎は不敵に笑う。
「望むところだ」
俺は差し出されたコントローラーを受け取った。
第21話で、不愛想ロリ登場。これでヒロイン達が全員登場です。
良ければ今後の勉強の為に本作の感想や評価等、お寄せいただければ幸いです。