16 弁当対決2
――2キロ太った。
何故か毎日繰り広げられる弁当対決に、俺の脂肪細胞は肥大の一途を辿っているのだ。
結局断り切れずにズルズルと続くこの流れは非常に良くない。
屋上に連行される道すがら、この数日の献立を思い出す。
1日目 花音:ちらし寿司 弥美:ちらし入りの茶巾寿司
2日目 花音:ハムとチーズのサンドイッチ 弥美:エビとアボカドのベーグルサンド
3日目 花音:カレーライス 弥美:タイ風グリーンカレー
……何かがおかしい。というかはっきりおかしい。
どう考えても弥美が合わせ打ちでメニューを被せに来ている。
花音と弥美の二人は談笑しながら階段を上っているが、お互いのやたら大きい荷物に一切触れようとしないのが怖いぞ。
ああもう、胃が痛い。
「じゃ、すぐに支度するね」
まずは花音が並べだしたのはアウトドア用のガスバーナーと片手鍋。
湯を沸かしながら取り出したのはインスタント麺。
具は下茹でした野菜とソーセージ。そして最後に卵だ。
なるほど、校舎の屋上で作りたての袋ラーメンとは考えた。
これなら、弥美も容易には真似できまい。
胸を撫で下ろしながら弥美を見ると、カセットコンロに火を付けるところだった。
……黄色の土鍋にスープジャーから赤い液体を注いでいる。
「えーと、弥美は何を」
「トマトのスープパスタはどうかと思って。後、時短の為に生パスタを用意しました」
さらに取り出したのはチーズだ。
「仕上げにこれをかけるとトロけて美味しいんですよ」
ラーメンの落とし玉子対トマトパスタのチーズ。好みは分かれるところだが、
「うむ、SNS映えの観点からは勝敗は明らかだな」
焼きそばパンを齧りつつ、朔太郎が余計なことを言う。
「ばっ、お前何言って――」
「あら、久我さん。食べてみますか?」
「いいのか! いやあ、光栄だなあ」
空気も読まず浮かれまくる朔太郎。
「あの、花音。俺はラーメンの方が好きだぜ?」
「いーのよ、気を使わなくて」
花音はむしろ色々と諦めた笑みを浮かべ、鍋から直接ラーメンを食べ始めた。
あれ、俺の分は。
「おお、これは絶品だ。恋愛における料理の効果は恋愛方程式の7番公式に明示されている。弥美さん、いいお嫁さんになれるな」
「ありがとうございます。久我さん、お代わりいかがです?」
「じゃあ、遠慮なく」
こっちではなんか二人が仲良さげだ。
「あの、俺の分は?」
「悠斗さん、ラーメンの方が好きなんでしょ」
なんか弥美、つむじを曲げている。
朔太郎は俺を同情の目で見ながら、食べかけの焼きそばパンを差し出した。
「……食うか?」