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13 濡葉弥美 来襲1

 五所川原羽衣先輩、か。

 ちょっと変わっているが、なんだか可愛い人だったな。


 鼻歌交じりに帰宅した俺は玄関の見慣れぬ女物の革靴に気付いた。

 リビングには人の気配。はて、桃子さんの担当あたりが来ているのか。


「ただいまー」


 扉を開けた途端に漂ってくる出汁の臭い。


「おかえりなさい、悠斗さん」


 ぱたぱたと走って俺を出迎えたのはエプロン姿の濡葉弥美。

 俺は思わず立ち尽くす。


 え、なんだこれ。結婚か。結婚なのか。


「弥美、どうしてここに」

「やだ、私。お玉持ったままだった」


 照れた様子でペロッと舌を出すと、頭をコツンと叩く弥美。

 あざといけど可愛いぞ。


「タラが美味しそうだったから鍋にしようとかと。白ネギも綺麗なのが出てたんですよ」


 あーいや、だからなんでここに弥美がいて飯の支度をしているのか。

 それにどうして俺の家を知ってるのか。


 はてなマークを頭上に漂わせる俺に、ほろ酔い、というか完全に酔っ払いの桃子さんがお銚子をちゃぽちゃぽ振って見せる。


 まさか朝からずっと飲んでるんじゃなかろうな。


「弥美ちゃん、お前の生徒手帳を届けてくれたんだぞ。ちゃんとお礼を言っておけよ」


 え、生徒手帳? それで住所が分かったのか。


「そうだったのか。ありがと、弥美」

「どういたしまして。さあ、ご飯そろそろできますから着替えてきてください」

「えー、あー、はい」


 俺は流されるままに弥美と三人で食卓を囲む。

 取り分けてもらったお椀を受け取りながら食欲をそそる匂いを吸い込んだ。


 桃子さんが一口食べるなり驚きの表情を浮かべる。


「弥美ちゃん、これ美味しーね。麺つゆ?」

「いえ。昆布出汁を中心に、すり下ろした生姜をちょっと足して。後は材料を生かして塩とお酒で味を調える程度で」

「凄い。麺つゆ使わなくてこんな美味しいの作れるんだ」


 なんだその麺つゆへの厚い信頼。


「悠斗さん、迷惑じゃなかったですか? 突然来ちゃって」

「いや、迷惑だなんてちっとも」

「良かった。図々しいとは思ったんだけど、桃子さんにお願いして夕飯の支度もさせてもらったんです」


「材料費も結構かかったんじゃない」

「それも桃子さんに頂いて。冷蔵庫の中身も使わせてもらいました」 


 そうなのか。冷蔵庫に何が残ってたっけ。

 ぼんやり考えていると、花音との今朝のやり取りを思い出した。


「そういえば冷蔵庫に肉豆腐無かった?」

「さあ。気付きませんでした」


 箸を置き、なぜか今日一番の笑顔を浮かべる弥美。

 まあ、桃子さんが俺の分も食べちゃったんだろう。俺は鍋の汁を啜った。


 ……いやしかし美味いなこれ。


「あの、口に合いませんでした?」


 不安そうに俺の顔を覗き込む弥美。


「いやいや、凄い美味しいよこれ」

「ほんと弥美ちゃん、これ美味しいわー。うちに嫁に来ない?」


 この酔っ払い、初対面の相手に何言ってんだ。つーか手当たり次第に言うのやめろ。 


「わあ嬉しい。桃子さん、私本気にしちゃいますよ」


 手を合わせて弾けるような笑顔を見せる濡葉弥美。


 二人の会話を聞いてるだけでむず痒い気分になる。


 ……彼女とは今日で会ったばかりだよな。

 あんまり調子に乗りすぎると痛い目に合うのが定番だ。


 平常心平常心。

 楽しそうに話をする二人を見ながら、俺は自分に言い聞かせた



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