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11 UMA 五所川原羽衣1

 疲れた。いやもう色々と。


 俺は足を引きずりながら旧校舎裏の芝生エリアを訪れた。

 ここは猫の溜まり場で、今日みたいに心が疲れた日はこっそり猫分を補充しに来るのだ。


 が、今日は誰か先約がいるようだ。うちの女生徒のようだが、その異様な姿に足が止まる。


 女生徒は黒いマントのようなものを羽織り、なんか知らんが目隠しをしている。

 マントはギリのギリでありとして、あの目隠しはいただけない。


 これは関わってはいけない系だ。


 その場を去ろうとした俺は女生徒の前、地面に描かれた五芒星の中央に黒猫がグンニョリ伸びているのに気付いた。


 目隠しの女生徒は何かぶつぶつ呟きながら、スマホで伸び猫の撮影中。

 

 ……これはあれだ。

 心を病んだ闇深い人が猫とか虐待してネットにアップする系ではなかろうか。


 きっと猫は怪しげな薬とかを飲まされているのだ。

 そうでなければあんなに伸びている説明がつかない。


 人として止めねば。俺は意を決して女生徒に歩み寄る。


「きゃっ!」


 にゃにゃーん、ごろごろごろ。

 突然飛びついてきた猫にバランスを崩し、仰向けに倒れる女生徒。


 あれ、なんか猫、元気そうだぞ。猫は女生徒の上でグネグネと伸び始める。


 女生徒は戸惑う俺に気付くと、スマホを差し出してきた。


「そこの一年。我の姿をこの魔具に留めてはくれないか」


 え? 俺? あたりを見回すが俺しかいない。


「なんでまた俺に」

「……だって、動くと猫ちゃん逃げちゃうじゃない」


 何で急に可愛いんだ。


「構わないですけど。いや、なぜ手で目元を隠すんですか」

「我には敵が多い。魔具に納められし姿絵が、獅子身中の虫により波動の海に彷徨すると聞く」


 この人のキャラが良く分からないが、多分写真の流出とかの心配をしているんだろう。

 なんか面倒なのでさっさと終わらせよう。スマホの画面越しにアングルを確認する。


「じゃあ撮りますよ」


 ……あれ。なんかこの人スタイル結構いいな。

 華奢な身体だが胸は結構大きいし、くびれも凄い。


 何というか花音かのんともプリンセスとも違う、煽情的な大人の身体というか。

 初見では異様に感じた目隠しも、画面越しに見るとインモラルな雰囲気作りに一役買っている。


 ごくり。


 思わず唾を飲み込む。まずい、なんか変なスイッチが入りそうだ。


「撮れた?」

「えっと、もう少し猫のいい顔を取りましょう。ちょっと身体を反らして、お腹引っ込めましょうか。はい、あと膝も少し内股気味に。いいですね、はい、息止めて」


 バシャバシャバシャ。よし、この機種の連射モード良い仕事をしているぞ。


「あの、猫の写真――」

「次はちょっとあなたも表情を出してみましょうか。頭を反らして、口をちょっと開いてみましょう。左手は掌を空に向けて頭の横に。右手はお腹の猫の上に。はい、いいです。息止めて」


 バシャバシャバシャバシャ。


 撮られることにより女は綺麗になる。とある幼馴染の言葉だが、今日ばかりは頷かざるを得ない。戸惑い気味な表情もいい味だ。


「最後にもう一度、両肩を地面につけて、両手を頭の上に。はい、そこで手首の内側を合わせて縛られているイメージで。右の膝ももう少し内側に。頭と胸を逸らして口はもうちょい開こうか。猫ちゃんもっと伸びて! まだ伸びれる! はい、いいですよ! 息止めて! 最高!」


 バシャバシャバシャバシャバシャ。


 よし、至高の一枚が撮れた。俺は感極まりながら手を差し出し、女生徒が立ち上がるのに手を貸した。


「最高でしたよ。いい写真が撮れました」


 女生徒は頬をほんのり桜色に染め、乱れた髪を整える。なんか事後な雰囲気が俺の心をかき乱す。いかん、ちょっと冷静にならねば。


「ありがとう。猫ちゃんの写真、見せて」


 俺からスマホを受け取ると、女生徒は撮った写真を見てにやにやと頬をほころばせる。


「うへへ……猫だ。良く伸びてる」

「そんなの巻いてて見えるんですか?」

「ふっ。これは我が邪眼を封印せしもの。邪眼はまた裏返れば心眼と化す」


 この人、思い出したようにキャラに戻るな。


「あ、それって透ける素材なんですね」


 良く見ると目隠しの向こう側、うっすらと目が見える。


「透けてなんていない。それはそうと少年、礼を言う。我の仮名は二年の五所川原羽衣ごしょがわらうい。超常現象研究会の部長だ」

「はあ、俺は一年の笹川悠斗です。お役に立てて何よりです」

「ユートか。懐かしい名だ。君は前世からの盟約に従い、我とえにしを結びに来たのだな。歓迎しよう」


 ? えーと、つまりどういうことだ。


「あー、いえ。入部希望じゃないです。それでは俺はこれで」 


 深入りし過ぎた。俺はその場を立ち去ろうとしたが、五所川原先輩が俺の腕をつかんでくる。


「うちの部室そこの小屋なんだけど。周り、猫いるよ。めっちゃ懐いてるよ。お茶淹れるから、ちょっと寄ってかない?」

「えー、もう時間遅いし。そろそろ夕方ですよ」

「今年、見学者すら来てないの。ね、助けると思って。いま撮った猫の写真、あげるから」


 ……今の写真、もらえるのか。


「じゃあ、少しだけ」


 笑顔がパッとはじける。


 なんかちょっと可愛いぞ、この人。顔は良く分かんないけど。


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