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10 ただの幼馴染?

 弁当を食べ終えると、俺はトイレを口実に屋上を逃げ出した。


 ……やれやれ。美少女転校生とお知り合いになれたのは嬉しいが。

 何故、花音と弥美があんなギスギス空気になったのか。


 何気なく教室に戻ろうとした俺は、一人の男子生徒に呼び止められた。

 その長身の生徒は襟のラインからすると3年生だ。


「ねえ、君。C組?」

「え。あ、はい」


 男子生徒はちょっとチャラそうな見た目と裏腹、やけに威圧するような態度で俺の顔を覗き込む。


「なんですか?」

「今日さ、濡葉さんって子が転校してきたでしょ。どこいるの?」

「……え」


 弥美の知り合い……って訳ではなさそうだ。


「いや、良く分かんないっす」


 どことなく反発心を覚えた俺はぶっきらぼうに返す。

 男子生徒は軽く舌打ちをすると、他のクラスメートに話しかけている。


 ……なんかこいつ感じ悪いな。

 弥美のこと、何も言わなかったのは正解か。


 よく見ると、あのチャラ男先輩だけではない。

 教室の外にやたら人が多いのは、おそらく弥美目当ての野次馬だ。


 無理もない。濡葉弥美はちょっと普通にはいないくらいの美少女だ。

 何故、地方都市の公立高校にそんな娘がいるのかちょっと訳が分からない。


 と、廊下の向こうからざわめきが起こる。


 弥美が花音と並んで教室に向かってきているのだ。 

 花音は教室の前の状況に気付くと、無言で腰からスパナを抜いた。


 弥美に話しかけようとする男達を睨みつけると、スパナを指先でハンドスピナーばりに回して見せる。


 男達が鼻白んで後ずさると、そのまま弥美と連れ立って教室に入った。


 ……思い出した。花音もこの学校では結構な有名人だ。


 花音は残念ながら顔だけは悪くない。

 入学早々、不幸にも彼女に言い寄った男達を文字通り力ずくで返り討ちにしたのだ。


 県下一番の土建屋の一人娘という話も伝わり、まともな男もそうでない男も近付かなくなってしまった。


 まあ、俺や朔太郎にとっては幼稚園の頃から変わりなく、ただの幼馴染だが。


 教室で弥美と話している花音に近付こうとすると、ギロリと睨まれ追い払われた。


 ……はい。ただの幼馴染は大人しくしています。



                ◇



 最後のねじを締め終えると、花音はドアを開け閉めして建付けを確認する。


「女の趣味に口は挟まないけどさ。悠斗あんた、あーゆーのが好みなの?」


 放課後、屋上で鍵の修理に付き合わされた俺は花音の愚痴を聞かされていた。


「好みというかなんというか。そりゃ可愛いとは思うけど、今日会ったばかりで分かんないって」

「ふーん、確かに弥美ちゃん滅茶苦茶可愛いもんねー。胸も大きいし。男子、あーゆーの好きよねー」


 最後、乱暴に扉を閉めると俺をジト目で見つめてくる。


「もちろん好きに決まっているさ。無理するな、悠斗も大好物だろう」


 ガツン。朔太郎が花音に脛を蹴られて悶絶する。つーか朔太郎、居たのかお前。


「だよね。あんな可愛いんだもんね」

「いや、あの、俺は」

「安心して。ちゃんと邪魔、じゃなくて、うん。応援してあげるから」


 電動ドライバーの先をドリルに交換すると、意味もなく壁に穴をあけ始める花音。

 地面には朔太郎が足を押さえて転がっている。なんというか軽い地獄絵図だ。


「で、あんたの嫁はどこよ」

「弥美なら教科書を受け取りに本屋に行くって帰ったぜ」


「ふうん。で、弁当は作ってもらうの?」

「単に会話の流れでそうなっただけだろ。そんな夢みたいな話があるわけないしな」


 初対面の美少女がいきなり俺にグイグイ来るとか、恋人みたいに弁当を手作りしてくるとか、流石に現実感無さ過ぎだ。


 新しい学校に馴染もうと、ちょっと頑張り過ぎているだけではないか。


「好きでもない男にあんな態度を取る訳ないだろう。俺の恋愛方程式の2番公式に当てはめれば明白だ」


 復活した朔太郎が絡んでくる。


 えー、まさか。あんな可愛い子が本気で俺に一目惚れ?

 そんな馬鹿なと言いかけて、ポケットのお守りを思い出す。


 本当にこのお守りの効果なのか。今日の弥美の態度はそうでもなければ説明がつかない。


 まさか濡葉弥美が俺の運命の人なのか。


「ついに俺にモテ期が」


 そわそわする俺の肩に朔太郎が手を置いた。


「とはいえ悠斗。お前には花音もいるだろう。ここではっきりさせてやれ」

「はあっ?! なんで私が悠斗と!」


 顔を真っ赤にして抗議する花音を尻目、朔太郎がまた余計なことを言い出した。


「ハッキリって何をだよ」

「花音が次の恋に進めるよう、はっきりフッてやるのも優しさだぞ」

「!」


 二人揃って花音の下段蹴りで沈没。何で俺まで。


「私帰るから! ちゃんと鍵閉めといてね!」


 去り際、放物線を描いて飛んできた鍵が俺の掌に収まった。

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