59話 ふとした瞬間
就活も落ち着いてきたので、少しずつ投稿します
「ん、斉藤か」
「あ、やっぱり先輩だ。こんちわー」
額に少々の汗を垂らしながら「ハァ……ハァ……と」息を切らしているジャージ姿の後輩である斉藤凛が俺に話しかけてきた。そうか、図書委員の仕事は今日ないのか。
「おう、こんにちわ。何してんの? 見たところ部活?」
「そうですよ~。ちょっと委員会の用事で遅れたので1人で走り込みです。元々今日のバレー部は体育館使える日じゃないので。他の皆も運動場辺りでトレーニング中です」
「ほーん。お疲れさん」
「どもですっ。そういう先輩こそ何してるんですか? なんかボーッとしてましたけど」
どうもこちらに不思議そうな視線を向ける。まぁ、人のいない公園に寂しく佇んでいるのを見かけると疑問に感じるだろう。うん、俺でもそう思う。とりあえず適当にボカして答えるか。
「斎藤の言う通りボーッとしてただけだな。天気良いし人気のないとこでのんびりしてた。わりと気持ちいいぞ。今日はあったかくて」
「……なんだか年寄りみたいですねぇ」
「やかましい。ほっとけ」
「まぁ、天気が良いのは否定しませんけどね。暑くもなく寒くもなく、こっちも走りやすいですし」
いつか凪にも似たようなこと言われたな。……俺ってそんなにあれか、年相応には見えないのか。確かにかなりアナログな人間だし、古くさいと言われればぶっちゃけその通りだが。未だにガラケー使ってる人間だからな。
「とはいえ、こんな天気だと眠くなりますねー」
「それは分かる」
「授業中とかウトウトしちゃいます」
「気づいたら、いつの間にか授業終わってるやつだな」
「ですね!」
ニコニコと同意する斉藤。やっぱ授業中寝ちゃうよね。特に午後とか。うーん、ダメな生徒たち!
いやもうホント数学なんてマジで呪文。あれは子守唄より眠れる。午後の時間割に数学持ってくるのはイケない。
……そうじゃなくて、これ以上部活中の斉藤を引き留めるわけにはいかないな。
「っと、部活の邪魔しちゃ悪いな。そろそろ帰るわ」
「いえいえー、お構い無くー。先輩、もうちょっと話しませんか?」
「……サボるつもりか」
「うっ」
いかにもギクッとした反応を見せ、微妙な表情になりながら後ずさる。あらやだ、分かりやすい。何と言うか、やっぱり斉藤はあざといなぁ。自分がどうすれば可愛く見えるか知っている感じ?
「おいおい、怪しまれるぞ。ただでさえ部活に遅れたんだろ?」
「でも、私足速くないのでそこまで言われないかなーと。それにちょっと休憩したいですし」
「何を抜かすか。頑張りたまえ」
「ちょっと、急に何ですかその口調。そういう先輩は運動得意なんですか?」
「んー、そうだな。実は持久走やマラソンだけなら学年トップに近い。他の陸上競技はどうにかなってるかな。で、球技の成績はぶっちゃけ終わってる」
走ってる年数だけならそれなりのもんだと自負している。
「ほーほー、それまた極端ですね」
「自覚してる」
如何せん球技のセンスが壊滅的なもんで……。
「ていうか足早いんですね。なんだか意外です。よく図書室いますし、ぶっちゃけ先輩って隠キャ系かなと思いました」
「それは偏見すぎないか? 別に否定しないが……むしろ肯定しちゃうな。でも、走るのは好きだぞ。毎朝だいたい5kmちょっと走ってる。どうだ」
「えっ、そうなんですか!? はー、またまた意外です。先輩パッと見モヤシっ子に見えるのに」
「さっきからちょくちょく失礼だな?」
ズカズカとキツいこと言う後輩についツッコミを入れる。とはいえ、ずっとニコニコしていてなんかこの子楽しそうだな。話がつまらない俺と話してここまで笑顔なの凪くらいだぞ。
「気にしちゃダメですよ、そこは」
「はいはい」
「あー、先輩と話してたらホントに疲れてきましたー。私も座りたいなぁ」
「おい、ちゃっちゃと走れよ」
「分かってますよー、だ!」
冗談です! と少し叫んでから斉藤はストレッチを始める。アキレス腱を伸ばしたり腰を捻ってから、ピョンピョン跳ねる。
「じゃ、そろそろ戻ります。先輩もお気を付けて~」
「おう。斉藤も部活頑張れよ」
「はーい。……うわっと!」
と、斉藤が公園から離れようと歩いた途端、急に足がふらついたらしく、躓き転びそうになる。
「ちょ、危ね」
「ふみゃ!」
俺と斉藤の距離はそんな離れていなかったので、可愛らしい悲鳴を上げた斉藤の腕を掴みこちらに引っ張る。こける寸前だったのでつい強く引っ張ってしまい、斉藤の頭が俺の体と勢いよくぶつかる。
「ふみゅ!」
「悪い、大丈夫か」
俺とぶつかった瞬間またもや可愛らしい潰れた声を出した斉藤にそう謝りながら……俺はどことなく既視感を覚える。
何だっけか。なんか似たような状況があった気が……あぁ、思い出した。そういえば、前に同じ場所でこけかけた九条さんを引っ張ったっけ。そんなに日は経ってないのにとても懐かしい。色々と濃い日々を送ってきたもんなぁ。
「い、いえ! だ、大丈夫です……」
俺から急いで離れる斉藤。
「お前こそ気を付けろよ。何のためのストレッチなんだか」
「うぅ、面目ないです。最近けっこう躓くんですよね。先週なんか危うく事故りそうになりましたし」
「いやマジで危ないな……」
それはなかなか怖いな。
「はぁ、ホントですよ。ヤになるなぁ……」
「マジで大丈夫? 体調でも悪いのか?」
「そういうわけではないんですよねー。熱ないですし、見た通り普通に元気ですし」
そりゃ部活できてるわけだもんな。もしホントに体調悪いなら、斉藤の性格上絶対休むだろう。
「ただなんか最近わりとボーッとしちゃうというか、ふと意識がどっか行ってしまうっていうか……。といっても、せいぜい数日に1回あるかないか程度なんですけどね」
「それでも気を付けてくれよ」
「およ、心配してくれるんですか?」
「当たり前だろ。唯一話したことのある後輩なんだから」
元々が人見知りな上、部活や委員会もやっていない俺と話す機会のある後輩はある意味貴重な存在だ。斉藤は俺とも気さくに会話してくれるし、関係で表すなら友だち……ではなくても知り合いの部類には入るだろう。そんな後輩が体調とか悪いなら、心配するのは当然の帰結だろう。
「お、嬉しいこと言ってくれますねぇ。さらっとそういうこと言える先輩好きですよ。うーん、確かに思い返せば私も部活の先輩除いちゃうと、交流のある先輩は先輩だけなんですよ~」
「ややこしいな」
先輩の先輩の先輩……。言いたいことは分かるけど、文字にすると「うん?」ってなる。
…………っていうか、あれ? 今コイツ何かとんでもないこと言わなかった? ……いやいや、気のせいだ。顔がどことなく赤くなりそうだが、落ち着け、落ち着け俺……。
「まぁまぁ。じゃ、そろそろ戻りますね」
「おう、マジで気を付けろよ。部活頑張って」
「はーい!」
と、大きく手を振りながら元気に斉藤は去っていった。
「――――」
相変わらず元気なことだ。元気なのはいいことなんだから、ホント事故には気を付けてほしい。ったく、事故に遭いかけるとか危なっかしいなぁ。しかしまぁ、鬼塚もそうだが、部活って大変そうだ。休日も学校行くんだろ。スゴいなぁ。
次回も投稿されたら、よろしくお願いいたします




