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無色透明のトロイメライ  作者: 皐月凉
1章 空っぽの人間から
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5話 歯車は動き出す

 今まではほとんど話したことのない九条さんと一緒に帰るとこになった。まぁ、クラスで鬼塚と以外全くと言っていいほど喋らないけど。話すにしてもせいぜい先生。それで、帰ることになったはいいが……お互い黙ったまま歩いているから気まずい。

 どうやら俺に話したいことがあるっぽいらしいけど、向こうからはなかなか切り出してこない。まぁ、一番の目的は殺人犯がうろついているかもしれない場所で1人で歩くの怖いから、一緒に帰ろうって話しかけないとなんで別にいいんだが。


 鬼塚曰く、九条さんも積極的に話すところは見たことないらしいから。無口の人見知りの俺と一緒にいるならそうなるわな。

 とりあえず俺から話しかけてみるか。えーっと、話題は……無難に…………。


「そういえば、家はどちらで?」

「……あ、北の方です」

「北ですか。てことは、電車で?」

「はい、そうですね」


 ここ、天生市は俺がいつも走っている河川敷の川を境に、北と南で別れているのが特徴だ川幅は200mとそこそこ大きい。

 一応地名とかあるけど、そこまで広くない街だし、住んでる人はみんな北と南と呼んでいる。


 で、北と南を繋ぐわりとでかい橋があるんだが、そこはバスやら電車が走っている。電車といってもモノレールみたいな感じ。天生市の端から端まで走る。利用客はそれなりに多い。大半は北に住んでる人たちだな。


 俺が住んでる場所や椿坂高校は南。南は基本的に都会って言えるレベルの街。ビルも多く、天生市の中で一番大きいモールがある。ショッピングとかはみんな南でするかな。映画館もこっちにあるわけだし。

 北は若干田舎風な街。山があって、南より標高が高く、南と比べればかなり自然が多い。とはいえ、普通にマンションとかけっこう建ってるんだけど。あくまで、南と比べたらの話。それに、住んでる人も多い。奏さんが言うには、北の方が物件が安いだとか。


「なら駅まで……10分くらいですかね? 俺はあまり駅の方行かないんで、どのくらいかかるかイマイチピンと来ないんですが」

「だいたいそのくらいです」


 改めて駅まで歩こうとすると、突然九条さんはなぜか深呼吸をし始める。

 えっ、どうした……? いきなり何?


「そ、それでですね。黒江君」

「は、はぁ……」

「あの、さっき話したいことあるって私言いましたよね?」

「まぁ、はい」


 本題きたか。

 …………それはともかく、話って何だろうか。九条さんと話したことなんて昨日までなかったと思うし、接点とかなかったはずだが。

 そして、さっきから俺の返事が適当すぎる。いや、違うんだ。適当というよりはキョドってるだけなんだ。人見知り舐めないでくれ。


 と、俺が内心オドオドしていると、九条さんが口を開く。


「実は、私、前々から黒江君のこと知っていたんです」

「…………え?」


 突然の告白にどう反応すればいいか分からない。


「それって、いつ頃から……ですか?」

「覚えてない……というより、知らないかもですが、私と黒江君、中学で、3年間同じクラスでした」

「あー……マジですか」


 …………どうしようか、反応にめちゃくちゃ困る。さっきよりも気まずすぎる。

 まさか中学一緒だったとは思いもしなかった。この前も凪とそのことについて会話したけど、中学ではホントに誰とも話さなかったレベルで黙ってたし、クラス人たちに無関心貫いてたから、当然名前なんて知らなかったので……。

 やっべ、どう返せばいいだろう。


「えっと……なんかごめんなさい」


 とりあえず謝ろう。


「いえいえ、違うんです。そんな気はなくて」


 必死に身振り手振りで否定してくれる九条さん。


「……って、俺通ってたの南の方ですよ? 九条さんの住んでるとこって北ですよね」

「あ、高1の時に北に引っ越しました。それまで南に住んでたんです」


 あぁ、そういうこと。家庭の事情やらで引っ越すことなんてよくあるしな。例えば……子どもが成長するにつれて、相対的に家が小さくなるから大きい家に住みたい。でも、高いから北引っ越す……みたいな? ごめん、けっこう適当。


「それでですね、黒江君、よく教室で1人でいること多くて……」

「それが不思議ってことですか……」

「はい。どうしてなのかなって。あの、気を悪くされたらごめんなさい」

「別にそんなことは」


 要するにボッチでいることが気にかかるってことだよなぁ。


「んー……学校で1人で過ごす奴なんて探せばいくらでもいると思いますけど。そういえば、鬼塚も昨日九条さんが喋ったのほぼ初めて見たって言ってましたが」

「一応、他クラスに小学校からのお友達がいるので……」

「それは……すいません」


 なら、わざわざ自分のクラスで話す必要ないわな。分かる。自分から知らない誰かと話すのは精神的にキツい。向こうから声をかけてくれても、そうじゃなくても変に焦る。


「高2でまた黒江君と同じクラスになって、誰かと喋ってる黒江君を初めて見て……ちょっと、話してみたいかな……って興味が湧きまして。今まで話してるとこも見たことなかったので」

「と、言われても……」


 誰かとって言っても、鬼塚くらいしかいないんだけどな。あと先生。

 何を話せばいいのか。そもそも、そんなに気になるものかね? いくら中学一緒だったとはいえ。


「何か話題あります?」

「え? えーっと……じゃ、じゃあ、あの、敬語、外してほしいなって」


 九条さんが、そう自信なさそうに告げる。

 ……そうきたか。ぶっちゃけ誰かと話すとき、とりあえず敬語使えばどうとでもなるから楽なんだよな。関係が深まることはなくても、敬語で話して悪化することはない気がするから。


「えー……分かりま……んんっ、分かった、努力する」


 なんかムズムズする感覚。


「あー、九条さんは話しやすい方でいいよ。もう敬語に慣れてるんだったら、外さなくていいし。俺は特に気にしないから」

「あ、すいません。それでは、私はこのままで」

「いいよいいよ」


 ……………。

 …………。

 ……。

 うん、会話が途切れた。

 で、ここからどうしようか。天気の話……してもどうしようもないし。今さら天気の話とかバカか。じゃあ、何か九条さんに質問するか? いや、まだあまり九条さんのこと知らないから、何聞けばいいのやら。

 得意教科? 何か違う。

 趣味? ……アリだが、俺芸能界とかそういうの詳しくないし、そっちで来られると会話が続かない。読書好きならワンチャンあるかも。わりと色んなジャンル読むし。

 家族構成? 他人行儀すぎるな、それ……。


 やっぱり人見知りで、今まで極端に会話してこなった俺だからな……ここらで限界か。鬼塚と話すときはわりとアイツが話題振ってくれるんだよな。なんとありがたいことか。

 マジでどうしよ――――


「あの、1つ質問……というより、気になってたことがあるんですが」

「……何?」


 ありがとう。そして、上手いこと話題振れなくて申し訳ない。


「その、頬の傷どうしたのですか?」

「コレ? 別に大した理由あるわけじゃないけど。そうだな……だいぶ前に地震ここであったじゃん?」


 何て言うか……いきなりすぎてビックリした。流石に予想外な質問だった。一応、それなりに痕がくっきり残ってるから、気になるのかな? 5cm程の小さな傷だけど。


「はい。私の家族は無事でしたが、家はかなりの被害がありました」

「ほー、あの時は大変だったよな。……話戻すけど、地震あった後、当然避難しようとしてたわけだけど」


 ホントはどこに行けばいいのか分からず、適当にほっつき歩いてただけだが。今それを言う必要はないな。


「……」


 …………大丈夫、心は落ち着いている。昨日とは違う。昨日はあんな夢見てしまったがために、あんなに取り乱してしまっただけ。普段は大地震の話をしても、あんなに心が乱れることはない。


「けっこう火事酷くてさ、ここら辺りやもうちょい東の方とか。それで、崩れた瓦礫が俺に向かって思いっきり倒れてきたんだよ」

「ぶ、無事だったんですか……?」

「無事じゃなかったらここにいないって」


 軽く笑って答える。九条さんも、そうですね、と微笑む。


「まぁ、倒れてきた瓦礫は俺に当たらなかったけど、破片やらがけっこうな勢いで頬掠めて怪我したわけ。でまぁ、その時の傷痕が治らずにずっと残ってるだけ」


 ――――あの時の光景は覚えている。


 燃え盛る街の中で、瓦礫が倒れてくる。生きる目的を失ってた俺は呆然と立ち尽くした。ただ、それでも、怖いという感情は消えなかった。


 人としての防衛本能か、咄嗟に逃げようとしたが、上手く動けず尻もちをついた。そして、もう直撃する……! そう思ったその時――


「…………」


 何故か、急に軌道が逸れた。何かにぶつかったように弾けた。

 下手すればあれで死んでたかもしれない。だからこそ、不思議だ。もちろん今でも。


「……黒江君、どうかしました?」

「何でもない。ま、そんなことがあっただけ」

「わざわざありがとうございます。というより、そういうこと聞いてすみません」

「いや、ホント大丈夫なんだけど」


 なんつーか、律儀だな。


「それでですね」

「何?」

「話はガラリと変わりますけど、よく教室で本を読んでますよね」

「まぁ、暇な時間とかは」

「どんな本を読んでますか?」

「……もしかして、読書好き?」

「はい」


 趣味が1つ共通してた。


「特にジャンルは問わないな。家にある本や図書館で適当に借りたりしている。あ、でも基本は1冊で完結してるやつかな」

「シリーズ物はあまり好きではないのですか?」

「んー、そうじゃなくて、続きが家や図書館になかったりする場合があるから、かな」

「なるほど。まだ私たち高校生ですからそんなにポンポンと買えないですよね」

「そうそう」

「何かオススメとかあります?」

「オススメって言われてもなぁ。基本家にある本はそれなりに一昔前のだし。最近のとかあまり知らないぞ? せいぜい妹から借りたラノベぐらいしか」

「はぁ……ラノベ、ですか。私はあまり触れたことはありませんね。というより、妹さんいるんですか」

「おう、いるぞー。その妹がわりとサブカル好きだからな。こうして、色々と借りてるわけ」

「いい妹さんですね」

「……ん?」

「そうやって、自分の趣味を誰かれ問わず、こう……共有できる人は。……私だったら、その、口下手で……上手に話せませんし」

「どうだかなぁ」


 九条さんの評価に思わず苦笑する。

 凪のやつ、外ではかなり内気になるから。内弁慶って感じか。


「それでさ――――」




▽▽▽▽▽▽



「……お、そろそろ駅か」

「ですね」


 その後、少しの間色々と会話を弾ませ……弾ませ? まぁ、何かと話したし弾ませたってことで。そうこうしていると、もう駅が見えてきた。


 にしても、あまり来る機会なかったけど、ここはけっこう広いな。バス停もそこそこあるし、コンビニやらファストフードも揃っている。あ、カラオケもあるじゃないか。わりと充実しているなぁ。……とはいえ、学生の姿はほとんど見当たらない。せいぜいコンビニで何か買い物してる程度。さすがにみんな帰ったか。

 そんな感想を抱きながら俺たちは駅のホームに移動してから。


「わざわざ一緒にありがとうございました」

「このくらいなら全然。1人で大丈夫?」

「は、はい。最寄り駅に着いたら親が待っていますので」

「そうか。なら今日はここまでだな。またな、九条さん。気を付けて帰ってよ」

「では、またです、黒江君。そちらこそ気を付けてください」


 お互い別れを言った後、九条さんが改札を通るのを見届ける。

 九条さんは改札を潜ったてから、振り返って俺に、ペコッといった感じでお辞儀をしてからホームへと続く階段を登っていった。


「……」


 普段マトモに人と話さない俺だけど、こうやって落ち着いて話せるなら……少しは人と関わるのも悪くないかな。


「でも、やっぱり……」


 誰にでも伝えるわけでもなく、ポツリと呟く。


 ――――あのことが頭から離れないんだよな。


 ……頭を軽く振って考えを切り替える。いつまで過去の出来事引きずるかね。多分一生忘れることなんてできたいだろうけど。

 さて、俺も帰るか。



▽▽▽▽▽▽


 

 学校から近くの駅――俺がさっきまでいた駅は天生市を両断している川からそれなりに離れたとこにある。そこから河川敷近くにある黒江家まではそこそこ遠い。

 道中、大きな公園を挟まないと帰れない。って、遠回りすれば普通に帰れるんだけど、別に公園通るくらいなぁ、どうってことないわけだし。

 まぁ、公園っていうよりはただの跡地なんだがな。10年前に大地震が起き、更に連鎖的に発生した火災によって焼け野原になった場所をほぼほぼ放置したら、いつの間にか公園……というよりかは広場になっていた。もちろん、遊具とかは一切なし。学校の運動場よりも3倍ほど広い草原があるだけ。一応歩道はあるし、その周りは木々が生い茂っている。


 何が言いたいかっていうと、あれだ、マジで利用する人少ない。こんな場所なのに加えて、大地震の名残があるからって理由で避けてる人も多い。たまに年配の人が散歩してたり、子どもが遊ぶ程度。おまけに明るい昼でも若干薄暗い。あそこの木、けっこう高さあるから。


「ホント、誰が好き好んで使うのやら……」


 そう口では言うが、実際家への近道なので、通ることにする。好き好んでではないが、今使う人間はここにいる。

 携帯を見ると、今は昼近い。さすがにあそこにいる人はいないだろうな。夕方とかなら近所の子どもたちがいるかもしれないが、いかんせん昼だ。それに、ほとんどの学校が強制下校をしているはずだから、もうみんな家に帰っているだろう。


 駅から7分ほど歩いて、公園に着いた。

 …………ま、予想通りだけど当然だな。人は全然見当たらない。

 そういや、ここの正式名称何だっけ? 覚えてないな。適当に、跡地やら公園って呼んでたのはたまに耳にしたけど。意識したこともなかったからな。


「…………」


 キョロキョロと辺りを見渡しながら公園を歩く。

 つーか、久しぶりに来たけどホントに薄暗い。昼なのか疑うレベル。改めて見ると、ここに生えてる木けっこう高いな。方角的にも家やマンションに日光遮られてるからなおさらだ。

 ……なんだか雰囲気あるな。

 少し不気味だが……よし、ここ抜ければ家までは10分はかからない。もうちょいで抜けれるしさっさと行くか。


 と、足を一歩、踏み出したその時――――


「…………ッ!」


 また頬の傷が痛くなる。そして――


「グルルルルッ……」


 そんな獣みたいな呻き声と共に――


「…………ウッ!」



 ――――何かによって、背中を蹴飛ばされた。


 

 















評価、ブックマークなどありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しいです!!

書き置きはなくなっなので、更新ペースは落ちます。できれば一週間に一回は投稿できればいいなと思います。申し訳ないです……


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