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無色透明のトロイメライ  作者: 皐月凉
2章 力の責任
59/62

58話 会話を重ねて

長い間、投稿遅れて申し訳ないです

就活やら授業やらで私生活が忙しかったり、ハーメルンの方にかかりきりだったりと長らく放置してしまいました。これからの投稿頻度も安定しないかとは思いますが、読んでくれると嬉しいです



「……お兄ちゃん、大丈夫?」

「あぁ、うん……」

「何をそんな無茶してんだか」


 あのあと、遥に拐われしごかれヘトヘトになりながら6時くらいに帰ってきた。動くのにだいぶ慣れたとは思うが、まだまだ遥との差は埋まらず、案の定というかボコボコにされた。レーヴェの力を借りれれば夢幻があるから対応できると思うのにな。

 まぁ、それだけではダメだからこうしてしごかれているんだけど。頼りきりで一度痛い目を見たからな。レーヴェだって夢幻を使うとその分魔力を使うから節約する意味で動けることができればより活きるようになると思う。


 どうやら奏さんと陽太郎さんはまだ帰っていない。スウェット姿の凪がソファーに倒れている俺に懐疑的な視線を向けている。懐疑的というか、侮蔑的? まるでゴミを見るような目付きだ。兄をそんな目で見ないでくれ。なんか悲しくなる。


「まーったく、土日も出かけていたし、ホント何してるの。よっこいせ」

「ぐふっ……」


 凪が勢い良く俺の上に座ってきた。なぜだ……ソファーを占領しているからか……いいじゃん別に。こう、何て言うか……アレだよ、だらけたい気持ちだってたまにはあるんだし。

 そんなこと凪は気にせず腰の上に乗っている。息苦しいし勢いつけたからけっこう痛い。


「おいどけ」

「えー? 別に重くないでしょ?」

「重いって言おうか?」

「そんな冷たいこと言うお兄ちゃんにはもっとこの体重を堪能してもらうか」

「凪さんは軽いです、まるで羽のようです」

「ほうほう。軽いならしばらくこのままで問題ないよね?」

「お前な……」


 さらに体重をかけてくる妹にどう対応したらいいか困る。

 これ……どれを言っても詰んでる選択肢じゃないか。こういうのズルいと思います。


「だって最近お兄ちゃん全然構ってくれないし」

「構うって……年考えろよ。つーか、お前いつも部屋引きこもるだろうに。しかも1日2日の話だろ」

「いいんですぅー。そういう気分だってあるんですぅー」

「あっそ」


 疲れを取りたいからソファーに寝転んでいるのに凪が上にいるのでは全く疲れは取れない。凪の体重がどのくらいなのかは置いといて、赤ん坊でもない限り人1人乗られると普通に重い。俺のキャパシティは大きくないんだ。


「ねーねー、お兄ちゃん」

「どいてくれたら訊いてやる」

「今日何してたの?」

「なぁ、俺の話訊いてる? そろそろ降りて?」

「やだっ。で、何してたのさ」

「あー、学校終わってから体動かしたくて、久々に運動してな。走ったりと色々」


 嘘は言っていない。これといって走ってはいないけど、戦闘の訓練でも運動は運動だ。一応は言い訳を考えてあるので不自然なく言えたと思う。いやもうホント、遥さんもうちょっと手加減してくれませんかね? 明日は特に呼ばれてないし行かないでおこう。こっちで調べておきたいこともあるし。


「放課後に? ほぇー、朝走るお兄ちゃんからしたらなんか珍しいね」

「全くだ。自分でもそう思う」

「どしたの? 気分転換とか?」

「んー、まぁ、そんなところ」

「……なんか曖昧」

「いちいち理由つけて行動するとかそんな面倒なことできるかっての」


 そう口ではぶっきらぼうに言うが、正直なところちゃんとした理由ないと動けないんだよなぁ。俺という人間はそういう面倒な部分がある。


「とりあえず制服脱ぎなよ。シワになるよ」

「分かった。だから下りてくれ」

「はーい。よいしょっと。……ついでにシャワー浴びてくれば?」

「そうする」


 あー、重かった。前まで小さくて可愛らしかったのにいつ頃からこんな生意気な子に育ったんだか。

 なんて少し失礼なことを思いつつ、着替えをまとめて洗面所に行くのであった。




「おはよー、黒江」

「いきなりどうした? まぁおはよう」


 翌朝。登校した俺を待っていたのは、とても気持ちいいくらい笑顔な鬼塚だ。

 扉を開けて座る直前に声をかけられた。いつもより素早い行動だ。普段なら他のクラスメイトと話していて最後にちょろっと話す程度なんだが……どうしたんだ。鬼塚は俺と違って友だち多いだろ。いやマジで。この行動の早さにどこか少し呆れるまである。


 こうも早く話しかけるとは何か用か。前に宿題見せてくれとせがんでいたし、またその辺りの内容か――と思っていたが、その予想は見事なまでに裏切られた。


「なぁなぁ、黒江さんよぉ。昨日、なんか美人とランデブーしたらしいんだろ?」

「言葉選びが妙に古くさいぞ、おい。ランデブーってなかなか訊かねぇな……。つか、なんで知ってる?」


 知っていたのか。鬼塚は部活があったから見られていないと思っていたが。

 コイツはこういうゴシップ的な話大好きだよな……。前に斉藤がクラスに突撃してきたときも野次馬の如く来たし。


「そりゃ噂になるっての。校門前でバイクが止まっていたとか、そんなの誰だろうと噂するだろ。それが美人なら、なおさらだ。あ、そうそう。言っておくが、俺は普通に部活だったから目撃してないぜ」

「美人ね……。あのヘルメットからじゃ顔見えないけど」


 美人なのは否定しない。


「そこはまぁ、あれじゃね? 憶測というかスタイル良かったらしいから勝手な妄想とか」

「はぁ……そうかい。いやでも、よく俺って分かったな? ぶっちゃけ学校に知り合いとかろくにいないのに。鬼塚含めてもせいぜい片手で足りるぞ。お前がそこにいないのなら、それこそなおさらな」


 少し悲しいことを自信ありげに豪語する。

 俺だって顔が分かっても、名前が分からないのでは意味なくないかと素直に疑問に感じる。確かに昨日はけっこうな人に見られたけども、ここの生徒数は多いしすぐに俺と特定できるか?


「ふふっ、俺には協力者がいるからな」

「協力者?」

「なー、九条さん?」


 と、鬼塚が勢いよく振り向くと、いつの間にか近くに九条さんがいた。九条さんはこちらに視線を合わせてない……と思いきやチラチラっと覗き見しているような感じだ。そういや、九条さんは部活やっていなかったな。あの場にいたんだな。気付かなかった。


「は、はいっ。帰ろうと思ったら人だかりができてて、何だろうかと見に行ったら黒江君がいました」

「ほーら、お前の数少ない知り合いがこう語ってるんだ。説明してもらうか」

「私もあれが誰なのか気になります……!」

「さっさとはーなーせーよー。黒江君よぉ、お前に逃げ場なんてねぇぞ」

「あれ、なんで俺問い詰められてるの?」


 悪いことしてないよね?


「も、もしかして彼女さん……ですか?」


 九条さんの問いに思わず唖然としてしまうが、すぐに気を取り直して。


「……俺にいると思う、九条さん?」

「念のためです!」

「……まぁ、彼女とかはいないよ。っていうか、いたら俺が本気で驚く」

「だな。黒江に彼女とかいたら、俺が真っ先に赤飯炊いてやるぞ」

「やっかましい」


 茶々入れる鬼塚に文句を言いつつこの場をどうにか切り抜けようとする。

 もうすぐで始業のチャイムが鳴る。それまでにどうにか誤魔化さないとな。


「彼女じゃないとなると……マジで誰なんだ?」

「いや別に。空気が読めない無表情なただの知り合いだけど」


 付け加えると、同級生たちは不思議そうな視線を向ける。


「――――怪しいな」

「――――怪しいですね」


 口を揃えて言わないで。君ら意外と息ぴったりですね! 何その一体感は。


「鬼塚に九条さん……そろそろ勘弁してくれ」


 ぐったりと机にうなだれる。


「しゃねーねーな。ま、時間も時間だしこのくらいにすっか」

「は、はい。ごめんなさいね、黒江君」


 ようやく諦めたらしく2人は互いの席に戻っていった。……疲れた。



 ――――そして、授業は適当に聞いて放課後がやってくる。


 家に帰る前にナザリの契約者が誰かを調べようと思う。水曜日の深夜、俺とナザリが戦うであろうときに、ナザリは人質を作らない契約を俺と結んでいる。その代わり、俺も他に誰か連れてくることはできない。つまり、遥たちは連れていくことが不可能となった。

 レーヴェの力があれば、大丈夫だとは思いたいが、一度はやられてるしな……。正直不安だ。


 とはいえ、もしホントにアイツが俺以外と契約しているのかは不明だが、いたとしたらかなり危険に違いないもんな。

 しかし、どこからどう探せばいいのかさっぱり分からない。選択肢が多すぎてな……。このだだっ広い天生市の中から1人を探し当てるって相当無理あるよな。

 そういや前回は、レーヴェは九条さんに残る魔力を不自然に感じてたな。てことは、レーヴェなら誰が契約者なのか探れるのか。……無理はあると思うけど、レーヴェ頼みだな。人気がないとこで相談しよう。


 今日は後藤さんたちのとこへ行くつもりはないし。…………やっぱこれ無理では?

 まぁいい。一旦学校から離れて人の多い場所に――――モールの方に行くか。レーヴェに訊きながら捜索してみよう。


「…………」


 そもそもナザリの言葉を信じるなら、アイツは今は契約してないはずなんだがな。しかし、そんな簡単に、アイツの言葉は信じられな――――


「あ、あの、黒江君」

「……ん、あれ、九条さん? どうした?」


 玄関前で九条さんに声をかけられた。下駄箱の前でボーッとしすぎたな。同じクラスと出席番号が近いこともあって、下駄箱も近い距離にある。周りには九条さんしかいないな。


「今朝のことですけど……もしかして、またアレに巻き込まれているのですか?」


 九条さんは目を逸らしながら自信なさそうにポツリと訊ねる。


「――――っ」


 思わず息が詰まってしまう。

 そりゃそうか。九条さんさロードに巻き込まれたことがあるから、俺の怪しい態度から、ある程度考えればロード関連と察しがつくよな。


「あー、えー……あのことは忘れてって言ったよな」


 九条さんにとって、辛い記憶のはずだ。何せ化け物に殺させれかけたんだから。死ぬかもしれなかった。


 ――――死。


 それは誰にでも訪れる最後だ。いつか訪れるにしても、死が直前まで迫る恐怖はそう簡単には拭えない。昔の出来事でもふとした瞬間に記憶をよぎってしまう。

 九条さんにはそれを体験してほしくない。完全に忘れることは無理かもしれないけど、意識から除外すればその頻度もきっと減る。ふとした瞬間というのは避けようがないが、それでもだ。ソースは俺。……未だにあの大地震は俺の頭に過ってしまう。あれは……かなりキツい。


 そのためにも、もうあのことは忘れてと言ったんだ。


「えぇ、黒江君は言いましたね。もちろん、私を想っての発言というのは充分理解しています」


 九条さんを深呼吸をしてから、俺の目を見据える。


「……でも、忘れることなんてできません。あの出来事はきっと、私にとって忘れてはいけないんです。――――黒江君が、私を助けてくれたあの出来事は」

 

 はっきりとした口調で、確かな意思を述べる。

 その言葉にどこか照れ臭くなりながらも話を続ける。


「まぁ、そう言ってくれるのは嬉しいけど、九条さんをもう巻き込みたくはないってのは、その、何だ、理解してくれると助かるんだけど」

「それも分かってます。……ただ、無理をしてないか心配なだけです」


 ……心配か。そんな感情を俺に抱いてくれるのか。

 どこか嬉しい気持ちもあり、どこか申し訳ない気持ちにもなる。


「別に無理はしてない。だから、大丈夫だよ」


 俺は九条さんを裏切らないためにも精一杯、いつも通りの口調で話しかける。


「……はい、なら私はその言葉を信じます。私の恩人ですから。……あ、もしかしてあの女の人ってアレと関係があったりします?」

「そういうこと」

「なるほどです。納得しました。……彼女じゃないんですね」


 段々と声が小さくなりながら、九条さんはそう返答した。

 

 ……彼女、恋人ね。

 偉そうなことを言うけども、遥はそういう存在からどうもかけ離れているように思える。アンリとの契約で感情が喪失しているのだから、当然恋愛の感情もないのだろう。正確に言うと、若干ニュアンス違うけど。まぁ、それでも、もう遥がそのような感情を抱くことはないのかもしれない。


「――――?」


 一瞬、どこかチクッと刺さるような感情に襲われたが、その正体を探る前に、九条さんが。


「じゃあ、私はこれで。……ホントに気を付けてくださいね。では失礼します」

「おう、また明日」


 小走りで駆けてく九条さんを見送る。どうやら校門前に村上さんも入るみたいだ。俺も一先ず離れるか。一旦、学校近くの全然人が来ない小さい公園に行こう。

 それにしても、お人好しというか……良い人なんだろうなとどこか他人事に感じる。



 ――――公園に移動してから誰もいないことを確かめる。よし、誰もいないな。


「……なぁ、レーヴェ。何回も訊いたような質問で申し訳ないが、やっぱアイツって契約していると思う?」

『どうだろうね。ナザリの奴は契約せずとも魔力を得ることはできるなかなか希有な存在だ。だから、リスクを背負ってまで契約する可能性は低いかもしれない。君たちにロードの説明するだけで正直なところ面倒だからね』

「そうなるよな。もしいるな明日までに解決しておきたいと感じたんだが……。もしさ、魔力以外のことを契約で要求するなら何がある?」

『私たちがいた場所では衣食住の提供と協力かな。これは前にも言ったことがあるね』

「あぁ」

『あとは……殺されたくない代わりに魔力を寄越せ――みたいな内容は』

「九条さんのときの同じだな」


 なら、次は質問を変えよう。


「前にさ、九条さんとすれ違った……本屋で話したときには九条さんとあのロードが関わりあるって勘づいていたよな?」

『一応はそうなるね。あくまで確信はなく、疑いという段階だけれど』

「それって魔力が九条さんに残ってたからだよな」

『あぁ』

「じゃあ、もしナザリに契約者がいたとして、近くにいけば分かるか?」

『……魔力のやり取りが行われていたらの話になるけど、可能だとは思うね。君とナザリがした契約だと、魔力のやり取りはないから、分からないよ』


 ということは――――


「ナザリは契約を介さなくても魔力を得ることはできるから、レーヴェが探知できる可能性は低いってことか」

『契約している前提の話だがね』


 確かに多くのリスクを背負ってまで契約をするとは思えない。しかし、契約者がいたとして、人質を作られる――というのが最悪のシナリオだ。できればそれは避けたい。……ただ、これ以上探る手立てはやっぱないか。


『君の考えていることは何となく分かる。そこで敢えて言うと、君のしたいことを実行に移すのはなかなか厳しいだろうね。大人しく、明日の深夜に向けて準備を進めた方が妥当だと邪推するよ』

「…………だよな」


 そう答えてから、俺は深くため息をつく。

 レーヴェの言う通り、ここまで来たらもうやれることは少ない。本番は明日だ。それに加えて、ナザリと結んだ契約もある。アイツに契約者がいたとして、もし探ったとしたら、契約違反になる可能性だって当然ある。


 下手に探すのにも骨が折れる。帰るか……それとも今日は行かないと決めたが、後藤さんたちのとこへ寄るか。いや、それでも一応はモール辺りに行っておくか。うーん、どうしよう。どちらにせよ、公園からは出よう。

 と、そう決めて立ったとき、足音がこちらにやって来るのが聞こえる。珍しく子供がここに遊びに来たの……か…………。


「あ、やっぱり先輩だ」






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